第33話 因縁、そして……
「よし、みんな行くぞ、この奥にいるんだろ、標的は。」
「は、はい……」
ここまでサクラもローズも、結局一回も接敵させていない。
危険にさらされているのは変わらないけど、極力サクラ達には余計な労力は使ってほしくないからな。
最大の仇に、全力で挑めるように。
謁見の間から続く控室へ入ると、そこにはまた男が一人佇んでいた。
「ダルシア!あなた!」
「おお、これはこれはサクラ姫とローズ姫ではないですか。こんなところまで何しに来られたのかな?」
ん?何だこいつ、凄く嫌な感じがする。
それ程強くは無いみたいだが、それよりも何というか、人間の醜悪さを凝縮したような不快感が感じられる。
これまで出会ってきたどんな不快な奴よりも気持ちが悪い。
というか、本当に人間、なのか?……
「ダルシア!貴方がワキムカンをそそのかし、我が父と母を殺害させた張本人という事は解っています!」
「ほほう……」
「父と母、そして、あの時死んでいった方々の仇、ここで私が引導を渡してあげます!」
「わはははは、なぜ私がそんな些細な事で殺されなければならないのかね!」
「ッ!!」
「あ奴らの生ぬるい王政ではこの先王国の未来は無かった。何が平和だ、何が民と共にだ!
あ奴らを排除し、私がワキムカン様とともに、この国の未来を創る事こそ、正しい支配の形なのだ!」
「ダルシア……あなたという人はッ!!」
怒りで我を忘れたように、サクラがダルシアとやらに切りかかる。
その動きは速く、ニーハさんやダイゴを軽く凌いでいる。
ダルシアとやらは何とか除けることはできたようだが、サクラの剣はダルシアの脇腹を貫通させた。
そのまま剣を横に薙ぐと、ダルシアの腹部の一部が吹き飛んだ。即死コースだ。
サクラはやった、と思っただろう。
他の者も同じように思っただろう。
だが
「わははははは、強い、お強くなりましたなぁ、サクラ姫、しかし!」
ダルシアは倒れる事なく、どこからともなく出てきた赤い霧を身に纏いはじめた。
「我が望みを邪魔せんとする愚かな者どもよ、これは序章にすぎない。
いずれまた間みあう。その時は、皆殺しにしてくれる。待っているがよい。」
そう吐き捨てると、赤い霧とともに消滅した。
「やった、のですか……?」
「いや、逃げられたな、たぶん。」
「……ッ、逃して、しまったのですか、私は…仇は、取れなかったのですか……」
「いや、まだだ。まだもう一人いる。」
悔しさに顔を歪めるサクラ。
俺には掛ける言葉は見つからない、けど。
「まだ終わりじゃない。もう一人いるんだろ?なら、今度は逃げられないように徹底的に仕留めよう。」
「は、はい、タカヒロ様。」
サクラの悔しさは計り知れない。
けど、それはせめてもう一人の仇を仕留めて軽減させてあげたい。
「そのワキムカンとやらは、どこに……」
「恐らくは、あそこです。」
城の中央に立つ塔、特別な儀式のとき以外使用することはない塔、その最上階に、権力の証たる玉座の間がある。
権力の象徴、ロッドとマント、ブーツ、王冠の4種の神器とともに。
そこへたどり着くと、サクラの言う通り小太りの男、4種の神器を見に纏ったワキムカンがいた。
とても似合わない、というかサイズが全くあっていない。
神聖な装飾品らしいが、今はただただ滑稽で醜い。
こいつが、王様だって?
「ひッ、ダ、ダルシアはどうしたのじゃ、他の者は!誰か、誰か居るかあー!」
ワキムカンは酷く怯え、自分の命運がここで尽きる事を悟ったようだ。
が、さすがに卑劣でバカな男だ。この後に及んで命乞いを始めた。
「サ、サクラ姫!ローズ姫!違う、違うのです!!」
「……何が違うのですか、ワキムカン。」
「ワシは、ワシはダルシアの甘言にそそのかされただけなのです。」
「……」
「ワワワシは、言われた通りにしただけなんじゃ!」
「……こんな……」
「ヒッ!」
「こんな男に、お父様とお母さまは……」
「ま、まってく!」
サクラは躊躇なく、ワキムカンの首を剣で撥ねた。
飛ばされたワキムカンの顔は、恐怖に歪みまくって、それはそれで人間の醜さが凝縮されているような表情をしている。
「終わりました……」
剣についた血を払いゆっくりと鞘に納め、うつむきその場にたたずむサクラ。
しばし、間があって、顔を上げてこちらを見ると
「終わりました、皆さん!」
大粒の涙を流し、嬉しさとも悲しさとも取れない、辛さだけが強調された表情で、勝利を宣言した。
大声をあげて歓声を上げるみんな。
そんな中、涙を止めることなく、立ち尽くすサクラ。
俺はそんなサクラに歩み寄って、静かに抱きしめた。
「やりました、仇を取りました、貴方のお陰です、ありがとうございます……」
そう一息に言葉を繋いだサクラは、俺の胸に顔をうずめ大声で泣き始めた。
「サクラ、よくやったよ。君の悲願は、君の想いは成就されたんだ。」
「はい、ううう……」
「だから、何も我慢することは無いよ。好きなだけこうして、好きなだけ泣いてくれ。俺が、受け止めるよ。」
「うわああぁぁぁー!」
こうして、サクラ達の悲願は成された。
前国王の暗殺事件から4年弱、ここにラディアンス王国は、元の民ありきの王国への、回帰の機会を得た。
そしてそれは。
俺と、サクラとローズの別れの時が来たことを意味していたんだ。
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