第32話 出撃
最終的な情報収集をして、その情報の精査が終わり計画と作戦が決まった。
準備も整い、いよいよ実行の時が来た。
目標はワキムカン国王、ダルシア宰相を討ち取る事。
そして、前国王暗殺に加担したすべての者の粛清だ。
その後の王国復興についてはそれが済んだ後の事なので、第二の目標となる。
実行メンバーはミーア山賊団全員、そしてファルクたち英雄パーティーだ。
総勢50数名にも上る部隊、それを分散して王国内へ潜入することが第一段階だ。
幸いにも警備兵や王国騎士団には協力者もいて、潜入には苦労せずに済みそうではある。
作戦開始から1週間後、俺たちは全員城下町への侵入に成功した。
ミーア山賊団とは別の勢力のレジスタンスも多数いるそうで、それぞれに内通し来るべき日に備えることとした。
レジスタンスは総勢で500名以上いるという。
想像以上に王に対しての不満は蔓延していたという事か。
中には国王側のスパイが紛れ込んでいる可能性も捨てきれないが、既にここまできたらそれを気にしても仕方がない。
逆に国王側にもこちらのスパイを潜り込ませているし、何より、今更漏れる情報に、大した意味はない事もあるし。
そして、城内突入前日の夜。
俺とサクラは二人きりでアジトの一室にいた。
微妙に静かな部屋の中、緊張感が場を支配していた。
だから、緊張と決意を固めた表情で強張るサクラを見て、リラックスさせようと思ったんだ。
「サクラ、緊張している?」
「タカヒロ様……そうですね、緊張しています。」
「サクラ……」
どうしようかと迷ったけど、まずは緊張を解すのが最優先だと割り切ることにした。
なので、サクラをそっと抱きしめた。
抵抗するでもなく、むしろサクラは俺に手を回しきつく引き寄せた。
「大丈夫、きっとうまく行くさ。だから、安心して。」
「タカヒロ様……」
「何があっても俺が君たちを、君を守る。だから、安心して果たすべき事に全力で挑んでくれ。」
「ありがとうございます。あの、タカヒロ様?」
「ん、何だ?」
「お願いです、このまま、私を抱きしめていて下さい。」
「ああ。」
「……ありがとうございます。」
「……」
「……」
どれだけの間こうしていただろう。
俺としてもずっとこうして居たいと思った。
「タカヒロ様、私達に力をお貸しください、そして、信じています。」
「ああ。全力で力になる。」
ともすれば、最後になるかもしれない夜はこうして更けていった。
そして、翌日の朝。
「では、行きます。」
「「「「「 はい! 」」」」」
城内突入のメンバーが、正門前で気合を入れる。
すでに城下にいる敵対する騎士団は全て無力化した。
俺たちとレジスタンスによる城下町侵攻は驚くほど簡単に進んだ。
レジスタンス以外の一般民の大多数も、俺たちに協力してくれたからだ。
そうして正門まで駒を進めてきた。が、一番骨が折れるのはここからだ。
王宮突入メンバーは、サクラとローズ、俺、リサ、カスミ、ニーハさん、ダイゴ、キースさん。ハトリ、トリス、ネリア、セラさん、マリーさんという、ミーア山賊団の主要メンバーだ。
それに加えファルク達救国の英雄の4人。
総勢17名での突入だ。
他のメンバーは城の周囲に配置され包囲している。
迎え撃つ近衛兵と王宮騎士は30名と意外と少ないが、これらを英雄の4人があっという間に排除した。
頼りになる連中だな。
宮廷前の広場に来たところで、先頭を走るキースさんとニーハさんが足を止めた。
「姫様、止まってください!」
どうやらただならぬ気配を感じて止まったようだ。
宮廷前には、一人の男が立っていた。
その男を見て、ニーハさんが叫んだ。
「ナッチャー!貴様か!」
「ようやく来ましたか、国賊のみなさん。」
「我々が国賊ならば、貴様はなんだというのだ!逆賊めが!」
「ははは、言いたいことはそれだけですか、ならば、死ぬがよい!」
後ろから、この前襲撃してきたような黒装束の男たちが襲い掛かってきた。
「グリアス、ここで全て殺してしまえ!」
ナッチャーとかいう男がそう叫ぶ。
それに呼応することなく、黒装束達は一直線にこちらへ襲い掛かる、が。
ダイゴとマリーさん、ハトリ、ネリアがそれを迎撃した。
数度打ち合いがありはしたものの、こちらに損害なく黒装束は全て切り捨てられた。
みんな凄い。鍛錬の成果がはっきりと表れているみたいだ。
すると、黒装束のボスと思われるグリアスと呼ばれた者は、正面からサクラに狙いをつけて襲ってきた。
先鋒の英雄4人の攻撃を軽々と抜き、他の者に目もくれずサクラだけに狙いを定めているみたいだ。
ファルク達を軽く抜くなんて、かなり身体能力は高いようだ。
が、残念だったな、サクラの前には俺がいる。
恐らく、グリアスだけじゃなく、ナッチャーという奴にも何が起こったのかは理解できなかっただろう。
一瞬で二人の体は、中心から左右に斬り分けられた。
俺が全力でシューティングスターを抜いた結果だった。
直線状に二人が並んでいたので、ほぼ同時に二人を斬った。
シューティングスターに風と火の魔法を乗せて全力で放った衝撃波だ。
出し惜しみなんてしない。全力だ。
建物への損害を出さないようにきわめて波の幅を狭めた斬撃。斬撃というよりも居合いに近いか。
斬られた二人は断末魔の叫びすら出すことなく肉塊になったんだ。
「よし、みんな行こうか。ん?」
皆、そんな俺の攻撃を見て驚愕の表情で固まっている。
おいおい、そんな暇はないぞ。
「おーい、行くってば!」
「あ!は、はい!」
ハッとして気を取り戻し、全員が再び侵攻を始めた。
のだが
宮廷の、謁見の間へと続く廊下には信じられないモノがいた。
大きさはジャネットさんと同じくらいかそれよりは小さいか。
容姿はトラのようでもありライオンのようでもある。
しかし、明らかに生物ではない、と直感した。
呼吸はしておらず、目は赤く光っている。
よく見ると体のあちこちは表面が金属っぽい。
鋭い牙はもう牙というより刃だ、四肢の先の爪も同じく刃、横腹と背中にも刃。
これって、あれだよな、猛獣型の、機械、ロボットだよな、きっと。
ファルクはそのロボットが何なのかを確認するまでもなく、全力で斬りかかった。
が、金属であろう体を持つロボットには攻撃が通じない。
「な、なんだ、これは!僕の斬撃が通らない、硬い、硬すぎる!」
ファルクの剣は今の一撃で刃こぼれが激しくなり使い物にならなくなった。
そしてロボットはファルクに反撃した。
「くっ!は、速い!」
間一髪致命傷を逃れたファルクだが、ヤツの前足の攻撃をかすめた左腕は肉が裂け骨折したようだ。
こいつは、たぶんアレだ。
オーバーテクノロジーで生み出された兵器だ。
ロボットは口を開け、咆哮するのかと思ったが違った。
まさか……
「ちッ!フランさん!」
フランさんに向けて放たれたのは、間違いなく光学兵器だ。
光の速さでフランさんに放たれた光線、いわゆるレーザーだ。
驚愕の表情で固まってしまったフランさんに除ける術はない、なので。
「フラン!ゴメン!」
俺は全力疾走でフランさんに抱き着き押したおした。
ギリギリで避けられたが、俺が突進した衝撃はフランさんには耐えられるものじゃなかった。
「がッ!ガハッ!」
くそう、かなり負荷をかけてしまった。
「ご、ごめん、フランさん、ちょっと待ってな、今治療薬を」
「だ、だいじょ……」
「良いよタカ様、ここはボクが!」
ラファールちゃんがすかさずフランさんに魔法をかけた。どうやら治癒の魔法ってやつらしい。
フランさんはラファールちゃんに任せて、俺はファルクの所へ行く。
「ファルク、下がってろ。あれは、お前が相手しちゃダメなやつだ。」
「うッ、そ、それは、どういう……」
「いいから、下がれ、ラファールに治癒してもらえよ。」
「は、はい、すみません……」
そして、トラもどきと向かい合って対峙する。
さて、どうしようか。
どうも衝撃波程度じゃ突破できない装甲だな。
直接刃をあてなくちゃダメージは当てられないみたいだ。
手はある、が、問題はシューティングスターが持つかどうか、だな。
「ウェンディ、シルフィード、バジャー、お前たちの力を借りる。」
「「「 わかった! 」」」
シューティングスターに3つの要素が凝縮してまとわりつく。
すると、シューティングスターの刃は青白く電気を纏った。
水、風、金の3要素の相生による発電、つまり雷撃魔法だ。
そして間を置かずに、トラもどきの鋭い攻撃を躱し眉間に刃を刺した。
金属の装甲を貫通したシューティングスターは柄までめり込み、俺が魔法を発動させた。
「ギャオオオオオオオ!」
けたたましい咆哮を放ち、トラもどきはその動きを止めた。
やったか、いや、まだだ。
刃を抜き、今度は同じように体へも突き刺し体内へ魔法を放つ。
5秒ほどして、トラもどきの体は膨れ上がり沈黙した。
これでこいつはもう動かないだろう。
しかし、その代償としてシューティングスターは先端が欠け、刃こぼれが刀身全体に及んでいる。
これはもう使えなくなってしまった。
「い、今のは……?」
「何だ、あの獣は?」
「タカ様凄い、姫神子様と同じ魔法使ったよ!」
しかし、何でこんなものがここに?というかなんでこの世界に存在するんだ?
こんなん、完全に俺がいた時代よりも未来のロボットだろ。
いや、黙考するのは後だ。先に進まなけりゃな。
今は時間が勝負を分ける。
「みんな、立ち止まっている暇はない!行こう!」
全員に声をかけ、侵攻を促す。
謁見の間の扉まで走り、大きな扉を開けた。
そこに居たのは、黄金の鎧と剣を装備した男とその仲間らしき男が3人。
そして、その後ろには筋骨隆々の、ゴツい鎧をまとった大男。
「来たか、国賊どもめ、こちらから手を出さずともわざわざ死にに来る馬鹿どもめ、ここで抹殺してくれるわ!」
あー、なんというか、フラグだろ、これ。
何でそんなモロ悪役なセリフを、恥ずかしくもなく吐けるんだろうなぁ。
もう、こいつも消して良いキャラなんだろ?
まぁ、その前にこの4人組、だな。
「あの武具は……あれが、勇者!?」
ローズがそんなことを言った。
そういえば、黄金色の鎧と剣、あれが勇者のみが装備できる伝説の武具か?
というか一瞬、その装具が俺がそう思った瞬間にキラン!と輝いたようにも見えた。
いや、でもさ……
「あ、あいてにとって、ふ、ふそくはないー!」
……。
あれは勇者ではないのでは?
足も腕もガクガクと震えてるし、取り巻きも青ざめてるし。
これが演技だとしたら、感心するってほどの狼狽ぶりだぞ。
「ゆ、勇者ならば、ぼ、僕が相手をします。それが、僕が超えなければならない壁ですから!」
怪我から完全に復帰していないファルクがそう俺に告げる。
まぁ、今のファルクでも、指2本で楽勝と思うけどな。
では、任せるか。
厄介なのは、こいつらじゃない。あの後ろの大男だ。
「ファルク、こいつらはお前に任せた。3秒で片づけてな。」
「い、いや、3秒って!」
「大丈夫、何なら1秒で終わるかもよ、なあ!勇者!!」
勇者に向かって眼光を鋭くして威嚇してみる。
「ヒ、ヒエー!」
あ、腰抜かした。
なんなんでしょう、こいつ?
「という事で、まかせたぞ。」
そう言って、俺は大男へと向かった。
もう、こいつは完全に悪役ってことでいいよな。
瞬殺でいいよな。
「貴様、この俺様に素手で向かってくるつもぐわー!」
うるせえなこいつ。
図体だけの木偶の棒じゃないか。
鎧越しに鳩尾に一発入れたら倒れたよ。
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