第31話 英雄、再び
ミーア山賊団は、その悲願達成のための準備に取り掛かった。
とはいえ、作戦は殆どゲリラ戦になるだろうから、準備といってもそれほど大掛かりでもない。
ひと先ずの仕事はラディアンス王国へ潜入するための下準備、根回しだ。
王国の城下町には、すでに昨年あたりからミーア山賊団の人員が潜伏していたが、その拠点や協力者を増強することが最優先となる。
もっとも、当の王国民の殆どは現国王に対して良い感情は抱いていないらしいので、その辺はスムーズに事が運ぶんだろうなぁ。
で、ここ拠点ではその準備と併せて戦力の強化に勤しんでいる。
端的に言えば鍛錬に余念がないという事だ。
俺も、少しでも成功確率を上げるため、何百通りも考えられる侵攻パターンに沿っての鍛錬をしている。
ゲリラ戦とはいえ各個の連携は必須なので、それもダイゴやニーハさんを中心に行っており、それに参加している。
そして、ローズとの模擬戦もほぼ毎日行っている。
こっちはローズが早く精霊との信頼を高めることが主な目的でもある。
シルフィードやウェンディが話を広げてくれたお陰で、幾つかの精霊がローズを興味深そうに見続けているらしい。
精霊との絆ができるのも、意外と早いかもしれないな。
と、そんな日を数日過ごしていたある日、思いがけない訪問者がやってきた。
「先日ぶりです、姫、そしてタカヒロ様。」
「久しぶりー!」
「ご無沙汰しております。」
「……久しぶりです。」
なんと、英雄御一行様である。
相変わらず、フランさんは俺をメッチャ睨んでいる。
怖いよ。
で、ファルク一行は何でもあの後、王国へ戻り国王へ報告したあと、約束よりもかなり低額な報酬を渡された上にさっさと謁見の間から追い払われたそうだ。
「そうですか、そんな事が……」
「僕達としては、姫から現国王の人となりを聞いていましたので、それほどショックは受けておりませんでした。」
うーん、現国王、なんてったかな、そうそう、ワキムカンだったか。
そいつはバカなのかな?
貴重で強大な戦力の英雄を、そんな簡単に手放すか?
普通、こういう時は失敗を咎めず戦力として残すべきだと思うんだけどな。それが英雄ならなおさらだろうよ。
まさか、俺たちとの繋がりがバレたのか?
「いえ、それは無いと思います。」
「そうなのか?」
となると、あまり長いこと自陣営に置くと、不味い事が知られてしまう恐れがあるから放出したって事か。
「その線が高いと思いますね。それで、ファルク様はなぜこちらへ?」
「はい、事情も理解しましたし、何より王国民の為に、姫に協力したいと思い参りました。」
「それは非常に有難いのですが、それは下手をするとあなたも反逆者として断罪される可能性もありますよ?」
「それは覚悟の上です、何より、先日タカヒロ様に言われた事が僕に決意を促してくれました。」
そう言ってファルクは俺を見てやんわりとほほ笑んだ。
何だろう、微妙にゾクッとするのは気のせいか?
「それに、一つ看過できない情報も入手しましたので。」
「看過できない情報、ですか?」
「はい、実は伝説の武具を纏った勇者が現れ、現国王が召集した、との話を聞きました。」
「勇者ですって!?」
珍しくサクラが驚愕の表情を見せた。
「勇者だって?それって、昔魔族を退けたっていう勇者か?」
「いえ、先代の勇者様はすでに500年前にお亡くなりになっていますので、その方ではないと思います。」
「しかし、伝説の武具を装備できるものは勇者のみだと言われています。僕が聞いた限りでは、装備していることは間違いないようです。」
「ふーん、で、その勇者さんは俺たちにとって脅威になるのか?」
「脅威どころか、勇者とは僕など足元にも及ばないほどの強者です。」
「英雄をも凌ぐ存在、かぁ……」
これまた厄介そうな人物が出てきたもんだな。
ファルク達をいとも簡単に手放したのは、それもあったから、なのか。
「なあ、その勇者様は単身で行動しているのか?」
「いえ、どうも仲間がいるそうで、それぞれが人知をはるかに超える実力者と言われているそうです。」
「でもさ、そんな強大な存在なら、もっと広く知られていても良いんじゃないか?」
「僕もそう思いましたが、何でも今までジパング島で修行を続けていたので、広くは知られていなかったという噂です。」
「ジパング島!?」
「はい、東方の海を渡ったところにある島国です。」
「それって、日本じゃないのか?」
「二ホン?」
「あ、いや、すまん何でもない。ところでさ。」
「はい。」
「その勇者様達の戦いとか活躍を、実際に見た人っていたのかな?」
「それは解りません、少なくとも、僕が知る範囲では見たものは居ないかと。」
うーん、その勇者情報って、もしかしてフェイク、いや『正しくない』のではないかな。
もし本当に勇者が出現していたなら、ミノリさんもジャネットさんも知っているんじゃ?
でも、そんな話は一切でてこなかったもんな。
何とかして真偽を確かめないとな。もし本当なら、サクラ達の悲願の妨げ以外の何物でもないし。
それにそんな強者、俺に対処できるかどうかなんて自信がないけどな。
「それで、英雄さんたちはここに滞在する、と?」
「タカヒロ様、どうか僕の事はファルクと呼んでください、お願いします!」
「あ、ああ、わかったよファルク。」
全力でお願いされてしまった。
「俺の事もクフィルでいいですよ。
「ボクはラファって呼んでよ、タカ様ぁー。」
「フ、フラン……」
フランさん、睨んでいたかと思ったら下を向いてフルフルと震えている。
なんかメッチャ怒ってる?
俺に呼び捨てされるのが屈辱なのかな?
「わ、わかったよ、で?」
「はい、ご迷惑でなければご厄介になりたいと考えています。」
「わかりました、よろしいですよファルク様。滞在を許可します。」
「ありがとうございます。それと姫様、タカヒロ様同様、僕たちは呼び捨てでけっこうですよ。」
「いえ、英雄様にむかって呼び捨ては……わかりました。そうさせていただきますね。」
こうして、一時は強敵になりそうだった英雄様御一行はサクラの強い味方になった。
これで少しは成功確率が上がってくれるといいな。
その夜。
英雄がこちらに合力してくれるという事で、歓迎の宴が開かれることになった。
元王国の騎士や兵士が多いので旧知の者が数名いるみたいで、英雄一行は団員との話に花を咲かせている。
と、そんな中。
いつの間にか俺の隣にフランさんが座っていた。
全く気が付かなった。
というかフランさん、怖いんだけどなぁ。
フランさんは隣に座って無言でちびちびと酒を飲んでいる。
気のせいか、結構俺に密着してきてるんだが……
うーん、何だろう、何か用があるんじゃないのかな?
とても居心地が悪いんだけど……
時折こちらをちらっと見ては、顔を戻し再びちびちびと酒を飲む。
結構飲んだのかな、顔が赤いですよ。
反対側に座るサクラもその様子を見ていて、引きつった笑みを浮かべていた。
良い感じに酔ってきたので、ちょっと外の空気が吸いたくなった。
サクラとフランさんに断って、月明かりの下へと出た。
しばらくすると、ファルクが出てきて俺の所にやってきた。
「何をなさっているのですか?」
「ああ、ちょっと酔って暑くなったからね、涼もうと思ってさ。」
「そうなのですか……」
うーん、こっちもこっちでなんか俺に言いたそうだよな。
まぁ、仕方ないとは思うんだけども。
「タカヒロ様、単刀直入に聞きたいことがあります。」
「ん、なに?」
「あなたは、何者なのですか?」
ほんとに直球だなおい。
「うーん、何者って言われてもなぁ……」
「英雄である僕より遥かに強い、それこそ人間を超越するほどの強さ、まさか貴方は……」
「えーとな、実際問題、俺が強いかどうかはまだわかんないだろ?こないだだって、お前かなり手加減してたんだろ?」
「そんなことはありません。全力で挑みました。そのうえで僕の攻撃は全く通じませんでした。」
「あのな、仮にそうだったとしても、だ。俺はそんな大層なモンじゃないよ。」
「それほどの力の持ち主なのに、ですか?」
「ああ、絶対に違うよ。ちょっと、特殊な経緯で今の力を得たってのはアリはするけども。」
「しかし、それでもその強さは僕を上回っています。その強さに、僕は……」
「あー!ここに居たぁ!」
突然の乱入者はラファールちゃんだった。
「ラファールさん、どうしたの?」
「もう、ボクの事はラファって呼んでくださいよタカ様ぁー、というか!」
ラファールちゃんはファルクを見ると
「ファルク、抜け駆けはダメだよ!」
「抜け駆けだなんて、僕は今重要な話をしていたんだよ。」
「じゃあ、ボクも混ぜてよ。」
「いや、それはちょっと、僕は二人きりが……」
ん?
抜け駆けって、君たちは何の話をしているのかな?
内輪もめは俺のいない所でやってほしいのだが。
「あー、俺、戻るねー。」
そう呟いて二人を置いてこそっと席に戻った。
それを離れたところで見ていたクフィルさんとフランさん。
「あー、あの二人、やっぱりアレだよなぁ、しょうがないな。」
「……二人はダメ、あの人は私が……」
「おいおい、お前もしかしてあの人を?」
「……違う、わない……」
「どっちだよ!」
そんなやり取りをしていたと、カスミが言っていた。
カスミさん、盗み聞きはいけませんよ?
どうも英雄さん一行、問題児の集まりでもあるようだった。
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