第30話 残された時間と拠点の処遇

 帰り道はリサがかっ飛ばしてくれたお陰で一昼夜で到着した。

 来るときにサクラが乗ってきた馬は、後から自分で帰ってくるそうだ。

 賢いんだな。


 どうやら懸念は当たっていたようで、拠点は闘いの形跡が残っている。

 とはいえ、それほど戦闘による被害はなく、予想以上の戦力に敵はしっぽを巻いて逃げて行ったらしい。

 先日の襲撃者のような手練れではなく、金で集めたそこそこの烏合の衆を使ったんだろうな。

 

 てことは、逃げた連中はたぶん王国へ帰る事はないだろう。

 王国へ帰ればたぶん消されるか、何か理由をでっちあげて罪人にされるだけだと思う。

 国を乗っ取ったような現国王とその取り巻きだ、そのくらいの直情的な処置はするだろう。

 概ね俺の読み通りでホッとした。


 「おかえりなさいお頭!ご無事で何よりです。」

 「ご苦労様ですダイゴ、こちらは無事ですか?」

 「はい、ローズ様の見事な采配で、けが人もいません。」

 「そうですか、まずは一安心ですね。」

 「そちらも無事英雄一行を撃退されたのですか?」

 「撃退、というよりも、帰っていただきました。」

 「帰っていただいた?ですか?」

 「タカヒロ様のお陰で、穏便に話し合いができましたよ。」

 「タカヒロさんの?」

 「ま、まぁその話はあとで、な。」


 今は後片付けと、捕らえたり倒した襲撃者を纏め上げている所だ。

 昼過ぎになってようやく落ち着いたところで、援軍がやってきた。

 場所的に時間がかかるのは仕方がない事だが、今到着してももう終わった後。

 応援をねぎらうにもそれほど広い敷地でもないので、主要な人以外は門外で野営の準備を始めた。


 応援に駆けつけてくれたのは、ネリス公国の兵士30名、デューク山賊団とその配下の山賊団合わせて20名だ。

 ネリス公国兵の指揮官はエリックさんという、渋いイケメンな40代くらいの人だ。

 相当な強さらしく、ダイゴも勝てないかも知れないと言っていた。

 どうやらミーア山賊団とは旧知のようだ。


 山賊団連合はコージーさんを始めとした面々は、先日みた顔もあれば、初めて見る人もいる。

 なぜかケリーちゃんもいる。

 サクラとローズが、それぞれに謝意を伝えに回っていて俺も同行しようとしたが、後ほど紹介するってことで今は別行動となった。

 なので、マリーの所で夕食の手伝いをしている。

 ちなみに夕食を兼ねて応援への感謝の会を開くとの事だ。


 そんなこんなでその夕食会となった。

 ネリス公国の人たちは俺の事を知らないので、まずは紹介となった。

 その紹介でサクラが「救国の英雄を追い返した者」とか言ってしまったので、ファルク達をも凌ぐ強者と誤解されてしまった。

 確かに戦って勝ちはしたけども、あれは何か違うんじゃないかと思う。

 コージーさん達は知った顔の人のみこの場にいるので、初めて会う人ってのは居なかったのだが、同じように誤解されたのは言うまでもない。


 ほぼ宴となった夕食会も終わり、その後主要メンバーのみで今後の事を話し合う事になった。

 主要メンバーと言っても、ネリス公国側はエリックさんとその腹心らしいシェアさんという女性。

 山賊連合はコージーさんとテッドさんとケリーちゃん。

 こちらはサクラ、ローズ、ニーハさんにセラさんに俺だ。人が多い食堂から会議室へと場所を移しての話し合いが始まった。



 「では、近々決起する、と?」


 エリックさんは内情を知っているのだろう、俺たちが行動を起こすと見たようだ。


 「はい、すでにあちらは今回のように手を打ってきています。こちらの存在はすでに明るみに出ているという事です。」

 「そうですな、であればあまり時間をかけても、相手に有利になるだけですからな。」

 「ですので、山賊連合からは我が団は脱退、という流れになりますね。」

 「山賊連合としてはそれは問題ありませんが、脱退、という形を取らなくてもよろしいのではないでしょうか。」

 「いいえ、ミーア山賊団が存在する以上、王国側は山賊への攻撃の手を緩めるとは思えませんし口実の種にもなります。

 そうなれば、連合傘下の団にも迷惑が掛かってしまいます。」

 「それは、そうなのですが……」

 「ネリス公国としても、ミーア山賊団の存続は希望するところですが、やむを得ない状況ではありますな。」


 ん?なんでネリス公国がウチの存続を希望するんだろう。まぁ、それは今はいいか。


 「皆さんのその声は嬉しいのですが、これはケジメでもあります。わがままになってしまいますが、お許しください。」

 「しかし、この拠点は我ら連合としてもミーア山賊団の為にそのまま残しておきたい所なのです。」

 「私たちの為、ですか?」

 「はい、失礼ながら、もし王国奪還が失敗に終わった場合、再起を図る場所は必要なのではと思いまして。」


 確かに、飛ぶ鳥後を濁さず、は良いんだけど失敗した時の保険は必要だよな。


 「しかし失敗する、という事は無いと、我らは信じております。」


 と、コージーさんとエリックさんは俺を見る。

 あー、そんなに期待されても困ってしまうんですが。

 勿論、全力で事に挑む所存ではありますけども。


 ん、でもまてよ、この拠点を維持するって?


 「そういえば、なんだけど。」

 「何でしょう、タカヒロ様。」

 「話の腰を折るようで悪いんだけど、一つ気になってさ。」

 「気になる事、ですか?」

 「ああ、それがさ、ここって二国間をつなぐ重要街道の、ほぼど真ん中にあるんだよね?」

 「そうですな、我々ネリス公国とラディアンス王国とを結ぶ主要路です。」

 「今は情勢が情勢なだけに人通りは殆どないみたいだけど、以前は違っていたんだよな?」

 「はい、私達が拠点とする前は、ここも数件の宿屋や民家に人が住んでいました。盗賊によって無人になりましたが。」


 なるほどね。要するに危険地帯ってことだ。


 「んで、ここって領土的にはどの国に所属しているのですか?」

 「ここは以前は丁度両国の境界線にあって、両国の共有自治区でした。」

 「それって、今でもそうなの?」

 「いいえ、昨年からラディアンス王国が、この森林区域全体を自国領土と主張し始めましたな。」

 「しかし、我ら山賊連合が存在している為実効支配はできず、周辺各国も以前と変わらない認識のままかと。」

 「なるほど、ねぇ……」

 「あの、それが何か……」


 つまりこの拠点の場所は今だラディアンス王国とネリス公国共有の自治区って事だな。

 なら、双方、いや、今はネリス公国の許諾があれば、ここをそのまま自治区として運営できるわけか。


 王国の許諾は、おそらく不要だろう。

 仮に何か文句言ってきたとしても、今の王国に外交的な体力はなさそうだし。

 何より、今の王国は周辺各国との軋轢を生みだしている程だ。下手に他国へちょっかいを出すとも思えない。

 まぁ、後ろ盾や密約している国があれば話は別だが。

 聞けば周辺の国家は以前のままの認識でいるそうだしな。

 という事は


 「山賊団ってのは、たしかヴィジランティ、つまり自警団的な仕事で生計を立てていて、それはどの国家も認めているんだよな。」

 「そうですね、俺たちが盗賊や魔獣を退治し、その賞金が主な収入源だ。」

 「つまり、団の運営そのものは永続的な物じゃなく、いわば不安定なわけだ。

 というよりも、この土地に留まり続ける必要はない、ともいえるんだよな。」

 「他の団はそうでしょう、しかし、我らデューク山賊団はここで活動し続ける理由、義務があります。」

 「そうか、まぁ、その辺の事情はさておくとして……」

 「タカヒロ様?」

 「そうなると、賞金稼ぎ以外の、金銭的な安定した収入はあった方が良いって事だよね?」


 一同は俺が何を言いたいのかがはっきりしない様だ。

 黙って俺の話を聞いている。


 「で、さっきの話なんだけど、この拠点は維持したい、そういう事だよね?」

 「そうです、その役目は我らデュークの役目だと思っていますが。」

 「ならば、だ。一つ提案があるんだけど。」


 ここには地熱による地涌がある、つまり温泉だ。

 街道は主要路、王国のゴタゴタというか悪政が無くなれば人の流れも戻ると思う。

 今では山賊団の活動でここには盗賊もあまり寄り付かなくなっているしね。

 おまけに現状、両国が認めている体の自治区だ。そして、拠点として維持していきたい。

 となると出てくる答えは簡単だ。


 「ここを再開拓して、温泉街として宿場町を作れば、安定した収入が見込めるんじゃないのか?」

 「おお、なるほど、いや、それは、しかし……」

 「もちろん、再開拓には莫大な資金が必要だし、労力も要るだろう。

 だけど幸いにも、ある程度以前の街の構造が残っているから、ゼロからの開拓じゃないので資金は抑えられるかもしれない。」

 「それはつまり?」

 「簡単に言えば、ここを宿場町にして商売しちゃえば良いんじゃないか、という事なんだが、どうかな?」

 「うーん……」


 あれ?反応がいまいちだな。

 もしかして、すでに検討された案なのか?


 「タカヒロ様、それは非常に良い提案だと思います。ですが……」

 「何か問題が?まぁ確かに資金も労働力もほぼ無いのは承知の上での提案なんだが。」

 「正にそこが問題になります。山賊団の資本をかき集めても、町作りの準備にすら手が届きません。」


 そうだね、町を立ち上げるほどの資金って、もはや国家事業レベルの資金が要るもんね。


 「利害が絡めば、我がネリス公国も幾ばくかの出資は可能ではありますが、それは契約になりますので現状では何とも……」

 「当然、今の王国からの出資はまずあり得ません。私達が王権を奪取できれば話は別ですが。」

 「うん、そうだろうな。そこで、だ。サクラ、前王国の時に、懇意にしていた商人とかは居るかい?」

 「はい、マコーミックという大商人は今も繋がりは残っています。」


 そういや以前ちらっと聞いた名前だな。確か王国民をひそかに他国へ逃したとかなんとか言っていたな。


 「その大商人に協力してもらおう。」

 「マコーミックに、ですか。しかしあいつは……」

 「そうですね、お金には厳しく、いかに相手が国家であろうと簡単に金銭の出資には応じないかと。」

 「いや、直接お金を出してもらうわけじゃないんだよ。むしろ、逆にこちらから報酬を払う必要があるけども。」

 「それはどういう?」


 つまりは、その大商人にひと働きしてもらう、つまり有力な商人なりに町を作る事という話を持ち掛けてもらう。

 そして、その話を聞いてこの町で商売したい、という人を集める。

 自分の店舗や宿はその人たちに作らせれば言い訳だ。


 なんなら、その人たちで共同出資、あるいは広く投資を募ってもらうとかもできるだろう。いわゆる株式だな。

 こちらはそれ以外の街中の区画整理や領内の統括を請け負う事を条件にその人たちに許可を出して税を徴収する、とか、ね。

 そうしたアイデアを伝えると


 「なるほど、それならば街づくりも可能かもしれませんな。」

 「何より、それは両国の交易を再活性化するためには絶対必要なものだと思うんだ。」

 「その通りですね、我ら山賊団としてもカタギの仕事ができるなら願ったり、という所もあります。」

 「ただ、これに関しちゃ、大前提として俺たちの王国復権が絶対条件ではあるけどね。」

 「いや、ならばネリス公国としても持ち帰って検討し、アリシア王国とモンテニアル王国へも働きかけるよう、首相に提言してみましょう。」

 「エリック様、モンテニアル王国へは私からお話をしてみたいと考えます。」

 「ああ、そうでしたな、この手の話であればその方がよろしいでしょう。」


 うん、また知らない国の名前が出てきたな。

 まそれは良いとして、サクラがそのモンテニアルという国と繋がりがあるんだろうか。


 「とまあ、この地の扱いにつてはこんな所かな、話を中断してしまって申し訳ありませんでした。」

 「いえいえ、タカヒロ様、ありがとうございます。これで私たちの心配の一つは解決できそうです。」

 「いや、礼を言われるほどの事じゃないですよ。じゃあ、会議の本題にもどろうか。」


 そうして会議は本題に戻る。

 ミーア山賊団は、いよいよその宿命に立ち向かう時を迎えたってわけだな。

 そして結論は出された。


 「では、私達ミーア山賊団はラディアンス王国奪還作戦を実行に移します。決行は半月後とします。」

 「いよいよ、ですか。山賊団のまとめはお任せください。」

 「お約束の武具防具一式、その他はすぐにネリスからこちらにお送りするよう首相へ進言しますのでご安心を。」

 「ありがとうございます。」


 こうして、話し合いは終わった。

 宿場町の件もまとまったようだし、かなり濃い話し合いだったな。

 しかし

 ほんとにこういう時のサクラは凛としていてかっこいいよなぁ。

 さすがは第一王女ってところだな。

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