第21話 盗賊団襲来
今日は夜明け前から、昨日ダイゴとニーハさんに指導してもらった事を反復練習している。
技術的な部分はある程度習得できたと思うが、もっと大事なことが欠落していると判明した。
体力だ。
精霊たちのお陰で体力は元々のものから大きく増強されてはいるものの、素体、つまり俺本来の体力が低いままでは頭打ちになると感じた。
なので、基本スペックというか、基本ステータスは大幅に上げておく必要はあるだろう。
体力だけでなく魔力もそうだが、そういや魔力の増強ってどうやるんだろうか?
結構冷え込んでいる朝だが、既に俺は汗だくになっている。
模擬剣が重いってこともあるが、やはり体力が低いんだろうな。
これは走り込みもしないといけないかな。
ちなみに模擬剣は刃を潰してある鉄の剣で、やや大きめのものだ。
重量にして15kgほどある。
ちなみに、リサとピコ、カスミも朝練に付き合ってくれている。
と言っても、カスミはリサに包まって寝てるし、ピコは俺の首に巻き付いているだけだが。
でも、何となくありがたいと思った。ありがとうな。
「朝から精が出ますね、おはようございます、タカヒロ様。」
「ああ、おはよう、サクラ。」
サクラが果実の飲み物を持ってやってきた。
「はい、どうぞ。疲れた体に良いらしいですよ。」
「あ、ありがとう、サクラ!」
「うふふ、召し上がれ。」
一気にゴクゴクと喉に流し込む。
柑橘系の果物を絞ったものに、牛乳と蜂蜜か、それを混ぜた飲み物だ。旨い!
「マリーさんが作ってくれました。」
「うん、旨いなこれ。」
「美味しそうですね、私にも飲ませてくださいますか?」
ジョッキは一つなので、俺の飲みかけをサクラは飲んだ。
「あら、本当に美味しいですね!」
「あ、ああ、そうだろう?」
俺の飲みかけ、というか俺が口を付けたジョッキで飲む事に抵抗はないんだろうか?
ま、まぁそこは気にしない事にしよう。文化や習慣が違うんだよ、きっと。
「さて、タカヒロ様は今日はどうしますか?」
「んー、特にする事は無いんだけど、できれば狩りに同行しようかな、と。」
そう、食事の食材である肉や魚は、狩りで調達するしかないのである。
当たり前の事なのだが、山深いこの拠点の近くに街や商店など存在しないのである。
時折行商人は来るものの、食料は自給自足が基本なのだ。
「それでしたら、私も同行しようかしら。」
「え?大丈夫なのか、その、仕事とかいろいろ。」
「えーとですね、実は今それほど時間が取れるわけではないんですの。」
「じゃあ、今回は止めといた方が良いかもな。」
「ええ、でも、残念ですけど行きたいのも事実ですけど……」
そんなやり取りをしていると、いつの間にか来ていたローズが
「お姉さまは執務が立て込んでいますから、ダメです。」
「ローズ、そんなぁ……」
「代わりに、私が同行します。」
何で?君はその、サクラのサポートとかはしなくていいの?
というか、同行するの?
「まあ、タカヒロの狩の腕を見てみたいってのもあるけどね。」
「ずるいですローズ、私も拝見したいのに……」
「まぁまぁお姉さま、まだ機会はあるんだから、先にやるべきことを処理しようよ。」
「えぇ……そうですね、仕方ありません。」
そんなこんなで、俺とローズが調達班に加わることとなった。
朝食後、食料調達班が集合した。
班長はハトリさんという、ローズの警護役をしている人だ。
狩猟を生業にしていた家で育ったそうで、狩りは得意なのだそうだ。
それに先日ダイゴに扱かれまくったネリア、ローズの付き人のようなセラさん。
槍と弓を得意とする、団の金庫番でもあるキースさん。
野草などにも詳しいマリーさん。
運搬係の人が4名。
それに俺たちとローズ。
総勢12名と2匹だ。
今回は鼻が利くリサがお供とあって、みんな期待を持っているようだ。
今回の狩りは拠点から北西へ行った場所だそうだ。
本街道から枝分かれした支道沿いに狩場があるそうで、猪や鹿、熊などが狩れるとか。
熊はともかく、猪は是非とも狩り落としたいところだな。
牡丹鍋なんか、最高だしな。
街道から外れ、あまり整備されていない、獣道に毛が生えたような山道を進んでいく。
険しさはそれほどでもないが、先の見通しはとても悪い道だ。
そういう事情もあって、カスミはリサに跨っている。
「そろそろ獲物が居そうな場所だな。」
キースさんが言うと、
「前回野兎を大量に獲得できたのって、このへんでしたね。」
と、ネリア。
どうも前回はウサギが大量に獲れたみたいだな。
ウサギの肉も結構美味しかったな。
とはいえ、生物がいるような気配が感じられないのは俺だけなんだろうか。
そう思ったところで、マリーさんも同じように思ったらしい。
「おかしいな、まだ冬眠には早いはずだが、獲物の気配がないな。」
と
ちょっと先に何かの気配を感じるが、これは、動物、じゃない。
人だ。
何となくわかる。
リサもそれを察したようで
(タカヒロ、何かこっちを狙ってる。)
一人じゃない、複数だ。しかも、微妙に殺気も感じる。
俺、そんなバトルヒーローみたいな能力は無いはずなんだが。
とはいえ、明らかな「気配」ってやつだ。
「みんな、ちょっと待ってくれ。」
一行を止めて、感じた事を伝える。
「この先に何かいる……」
まだ誰もこの気配を察した者はいないようだ。
俺よりもそうした気配に敏感で察せるハズの、ミーア山賊団の団員が、だ。
しかし、明らかに人が居る。
もしかしたら、盗賊なのかもしれないが、盗賊ってそんなに強い連中なのか?
確か以前俺が絡まれた盗賊は、ミーアの人達に手も足も出なかったと思ったが。
「皆聞いてくれ、このままじゃまずい気がする。ひとまず3人一組で一列に進んだほうがいいと思うんだが、どう?」
確か、一本道での一列縦隊は攻撃に弱かったはず。
でも、相手が定かでないうえに、こちらは戦術的に対応できるような人数でもない、と思える。
俺よりも戦闘経験豊富な山賊団が、未だ察知できないほどの手練れ、もしかすると戦力的にはこちらを上回っていると思える。
なので、3人一組で、左右の警戒と初撃の対処に適した隊形が必要と思った。
「わかったわ、みんな、言われた通りに!」
ローズが指示してくれたお陰で、みんな言われた通りにすぐさま対応してくれた。
新参者の俺に順応してくれるのはありがたい。
たとえ杞憂であったとしても、だ。
この気配はただ事じゃないと思えるからなおさらだ。
と、向かって左側の草陰から強烈な殺気が放たれた。
が、しかし
「皆右だ!」
とっさに叫んで、みんなの注意を右側へと向けた。
みんなが右を向き警戒したところで、左側から4人の人影が襲い掛かってきた。
すかさず、俺がその4人の人影に向かって剣を薙いだ。
「サラマンダ!頼む!」
腰だめに構えていたシューティングスターを居抜く。
剣先から炎の衝撃波が放たれ、4人の体を弾いた。
と、同時に右側から5人が襲撃してきた。
やはり、左右からの挟撃が狙いだったようだ。
右側から殺気が感じられなかったのは、本命は右だった、という事だろう。
つまり、左側は注意を引き付ける為のデコイだ。
「えやぁー!!」
キースさんがその5人に向かって槍撃を繰り出す。
しかし、一人を突き殺しはしたが、残り4人は分散し他の組へと襲い掛かった。
ネリアが一人を、マリーさんが二人を撃退したところで、後方から新たな人影が現れ、最後尾にいたローズたちに襲い掛かった。
まずい、戦力的にローズのグループでは防げない!
とっさにそちらへと駆け出す。
一切の声も出さず、ローズへと向けて刃を向ける襲撃者。
ローズは魔術を放とうとするが、間に合わない。
人技とは思えないほどの素早さだった。
「ローズ!」
構わずローズを抱き寄せ、襲撃者の刃から逃して俺の体を盾にする。
「ぐッ!」
「タカヒロッ!」
襲撃者の剣が俺の背中を切り裂く。
しかし、俺の体は刃を通すことなくローズを守り、俺は服を斬られただけだった。
「ちッ、リサ、すまん!頼む!」
「ウォオー!」
リサはその強靭な爪で襲撃者を切り裂いたと思ったら、そのまま前足で地面にたたきつけた。
そのまま襲撃者は絶命したようだ。
無理もない、頭が潰れている。
他の者も怪我を負ったものの、襲撃者を一掃できたようだ。
どうやら、襲撃者全員を撃退できたらしい。
「なんだ、こいつら……」
俺は初めての実戦で、少し興奮気味で気が立っているが、努めて冷静に状況を把握する事に尽力する。
襲撃者は全部で14名。
何というか、盗賊らしからぬ装束で、武器もかなり立派な物のように思える。
盗賊というか、何となく暗殺者っぽい感じがする。
「みんな、大丈夫か!」
「ああ、ダンナが教えてくれたお陰で、全員無事だよ。」
「ちょっと、怪我しちまったがな、全員生きてるぜ。」
ふぅ、ひとまずは良かった。
「タカヒロ……ごめん、なさい、大丈夫?」
そういやローズを抱かえたままだった。
「ローズ、大丈夫か?怪我はないか?」
「え、ええ、大丈夫、それよりアンタが」
「ああ、俺は何ともない。服を斬られただけだよ。」
「斬られたって!」
「ローズに怪我が無くて良かったよ。」
「……」
全員の無事を確認したのち、屠った襲撃者を検める。
全員が黒装束で顔まで隠した格好、わかりやすく言うと忍者みたいな恰好だ。
キースさんは一人の装束を剥ぎ、体を検分すると
「こいつら、割と名が通っている盗賊団の一員みたいだな、この入れ墨は見たことがある。」
襲撃者の左腕には、サソリと髑髏の入れ墨、その下に文字が彫ってあった。
「ヌーバ盗賊団だ。割と大所帯の盗賊団だが……」
キースさんはその盗賊団を知っているようで、腑に落ちない点があるようだ。
「こいつらは、これほど強くはなかったはずだ。どちらかというと、山賊と聞けば逃げ出すような連中だ。」
どういう事だろう。その盗賊団はこういう輩を雇ったって事なのか?
いや、それにしたって、これは下手をすれば自分たちの首をしめるような行為だ。
山賊団に襲撃をかましたとなれば、逆襲されるのは子供でも分かる事だろう。
その盗賊団がどういう連中なのかはわからないけど、余程の馬鹿じゃない限り、こんな事はしないと思う。
それとも、そうしないといけないほど追い詰められているのか?
「いずれにしても、我らに気づかれもせず待ち伏せて襲ってくる、というのは、何やら気になりますな。」
「というかだな、俺の気のせいかもしれないんだけど……」
「ダンナ、何か気になる事でも?」
「うん、こいつら、俺たちを知ったうえで狙って襲ってきてないか?」
「我らがミーア山賊団と知って、いや、ミーア山賊団を目標にして……という事ですか?」
「一つ、確認したいんだけど、いいかな?」
「はい。」
「ミーア山賊団って、この辺りでは名の通った団なんだよな?」
「そうだね、実力としちゃデュークに次ぐ勢力ってくらいには知られているはずだけど、ダンナ、それが?」
「いや、そんなレベル違いの山賊団に襲い掛かるようなモンなのか、盗賊って。」
「それは、まずあり得ません、というか、襲い掛かるよりもまず逃げるはずです。」
何か、こりゃ単なる盗賊の襲撃とは思えない状況だな。
ひとまず、撤退すべきかもしれない、そう思い、リーダーのハトリさんに話す。
「そうですね、ちょっとこれはサクラ様に報告すべき事案だと思います。」
「うむ、狩りは中止して一旦拠点に戻りましょう。」
「まだ食材は数日持つ、仕方ないね、狩りは中止だね。」
こうして、狩りは中止し襲撃者の亡骸を担いで戻ることにした。
幸い、というか、帰り道で熊を2匹仕留めたのはラッキーだった。
拠点に戻り、ハトリさんから事のあらましをサクラに報告した。
一同しばし沈黙していたが、サクラは思いがけない事を口にした。
「もしかすると、これは王国側の刺客、かも知れません。」
そういう答えに突き当たるのは必然なのかも知れない。
しかし、それは王国側に元姫達がここにいるという事がばれている、という事でもある。
「盗賊とは思えない身のこなしと戦力、ワキムカンか、ダルシアの子飼いの手の者である可能性があります。」
知らない名前が出てきた。
「盗賊と見せかけ襲撃、失敗しても王国とは関係がない、と見せる手なのでしょう。」
何というか、聞きたいことは山ほどあるが、ひとまず俺の懸念をサクラに聞いてみた。
「その真偽のほどはひとまず置いとくとして、これはもうこちらの存在が知られている、という事なんじゃないか?」
「その可能性は高いと言えます。こうして直に手を下してきた、という事は、そういう事なのでしょう……」
そうなると、サクラ達の悲願達成はより困難な状況、という事だ。
何しろ、王国としては必要とあらば山賊団討伐という大義名分で軍を派遣することもできる、という事だ。
ミーア山賊団をピンポイントで、しかも合法的に殲滅する手段を行使できるわけだ。
いかに山賊団が周辺地域の自警団だとしても、あくまで自警団の範囲を脱していない。
いわば非合法な武装集団ともとれるわけだ。
実情はどうあれ、法の下では、だが。
これは、もう山賊団云々の問題じゃないよな。
下手をすれば、山賊団の存在に恩恵をけている周辺地域の村や街といった自治体の存続にも関わる大問題だ。
「ともあれ、こうして明らかな手を見せてきた以上、私共に残された時間は限りなく少ない、という事でしょう。」
そうだな、こちらの存在を知られている以上、向こうが先手を取るのは明らかだし容易い事だろう。
が、それにも疑問がある。
「でも、なぜ王国が直接手を下さず、こんな回りくどい事をするんだ?」
「それが、この前お話しした、現王国の状況が理由と思います。」
「ああ、なるほど、そういう事か……」
そう。
現王国には国力衰退に加え、周辺の国家からの信頼失墜、おまけに自国の兵力も心もとない、という事だ。
確たる勝算が見込めないうえに、早めに不穏分子は片づけたい、なら、多少金をかけてもこういう手を使うのが手っ取り早いってことか。
そういや、こないだもっとマズイ事を聞いたような気がするが……
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