第18話 狼とドライアド

 「お頭!大変です。」

 「どうしました、ダイゴ。」

 「ジャ、ジャネット様が、ジャネット様がこちらにお越しになられました!」

 「ジャネット様が?」


 何やら建物のほうが騒がしくなってきた。

 サクラとダイゴさん、ニーハさんその他が建物から飛び出してきた。

 サクラはこちらに来ると


 「タカヒロ様、リサ様、至急こちらへお願いします!ローズたちも!」


 どうしたんだろう?

 と、リサが


 「あ、この気配、お母さまが来たみたいね。」


 といった。

 お母さま?

 リサの?


 「と、取り合えず行ってみようか。」


 サクラの後を追うように、外門の方へと急いだ。

 門へ行くと、団員総出で門内側に整列し跪いていた。

 そして門の外には、大きな狼を筆頭に6匹の狼がいた。

 大きな狼はリサと同じく金色に輝いており、頭に赤い毛の部分が一筋あった。

 これが、もしかしてリサの母親か?


 「ジャネット様、ようこそおいでくださいました。」


 サクラがリサの母親らしき狼に言う。

 するとリサが


 「ワオーン!」


 とひと吠えする。

 その様子をみて、リサの母親らしき狼が話しかけてきた。


 「久しいですね、サクラ。今日はリサと、その隣にいる男に用が有って来ました。」


 それって俺の事だよな?

 ていうか、この狼、普通に話してるよ。

 さすがはリサの母親、という事でいいのか?


 「リサ、ご苦労様です。その男が、例の者ですね。」

 「はい、お母さま、この人、タカヒロが召喚者です。」

 「そうですか。タカヒロとやら、聞こえていますね?」

 「は、はい。」

 「貴方には少しばかり付き合っていただきます。サクラ?」

 「はい、ジャネット様」

 「しばらくこの者を拝借します。明日には帰る事ができるでしょう。」

 「はい、そ、それはよろしいのですが……」

 「心配はいりません、我とドライアドが、この者に用があるだけです。」

 「はい、ご随意に。」


 「では、さっそく行きますよ。リサ、貴女が背に乗せて付いてきなさい。」

 「はい、お母さま。タカヒロ、背に乗って。行くわよ。」

 「え、今?このまま?」


 なんか、有無を言わさず連れ出された。


 「もしかして、この狼たちが私の言っていた教えてくれるって人、というか狼かもね」


 カスミがそんなことを言い出した。


 「ってか、どこ行くんだろ?」

 「私達の本拠地よ。そこにね、木の大精霊様もいるのよ。」

 「さっき言ってた、ドライアドってのか?」

 「そう、また詳しくは着いてから話すわよ。飛ばすから掴まっててね!」


 言うなり、かなりの速度で走り出した。

 速い、速すぎる!

 というか、リサのおっかさん飛ばしすぎだろ!

 120km/hくらい出てないか?


 1時間ほどでその本拠地とやらに着いた。

 深い森の中、周囲50メートルだけが草原になっている開けた場所。

 その中心に一本の大きな木が立っている。

 あれだ、このー木なんの木っていうCMでみるような形の大木だ。


 リサから降りてひとまずその場で立っている。

 リサの母親、確かサクラはジャネット様とか呼んでいたな。

 そのジャネット様は大木の幹で何やら誰かと話している。

 というか、木に向かって話してるな、あれ。

 すると

 大木の根本が光りだし、人らしき姿が現れた。


 人、じゃないのか、あれ。

 精霊?

 その人らしきものとジャネット様が俺にこちらへ来るようにと促した。

 近づくと、その人らしき者は……

 すごい美人だった。

 もう、表現のしようもないほどに美しい人だった。


 俺が立ち止まると、今度はジャネット様が人型に変化した。

 人型になったジャネット様。

 こちらもすごく美人だよ。

 リサをそのまま成長させたような、これまた表現し難い美人だよ。

 なんだこの、美人のインフレみたいな状況は?


 いや、そんな事を考えている場合じゃない。

 俺はとりあえず挨拶をしようと思い


 「あの、始めまして、トモベタカヒロをと申します。」


 と言って、二人に深々と頭を下げた。


 「始めまして、私は木の精霊、ドライアドのミノリと申します。」

 「こちらも挨拶が遅れましたね、人狼族のジャネットと言います。」

 「ミノリ様、とジャネット様、ですね。」

 「敬称は不要ですよ、タカヒロ様。今日ジャネットにお願いしてここに連れて来てもらったのは、貴方に話さなければならないことがあるからです。」

 「リサはきちんと役目を果たしたようですね、無事キミをここへ連れてこられたので、私も一安心です。」


 リサを見るとドヤ顔でフンスと鼻息を吐く。

 そんなリサを見るジャネットさんの目が、優しい母親のそれだった。


 「さて、早速ですが、貴方がこの時代へ来た理由、今後何をすべきか、私が知る範囲の事を全てお話ししましょう。」

 「知りうる範囲、ですか。」

 「はい、真相については私も知らされていませんが、概要はお聞きしております。」

 「そうなのですか……」

 「精霊たちもいますね、一緒に聞いていてください。」

 「「「「「「「 はい 」」」」」」」


 そうして、ミノリさんとやらは話し出した。


 「今、この星は非常に困った状態にあります。」

 「この、星?地球の事ですか?」

 「はい。私の上位存在であるシヴァ様から伝えられた事を、貴方に伝えます。」


 ミノリさんによると

 今地球は非常にまずい状態にあるらしい。

 具体的にどういう状態なのかまではわからないらしい。

 で、それを解決する鍵を探していたという。

 その鍵は、この今の時代ではなく、まずい状況に陥る前の時間軸にしか存在しないそうだ。


 で、あらゆる時代、位相世界へと使いを放ち、その鍵を捜索したんだそうだ。

 カスミはその捜索を手伝った、という事らしい。

 その見返りとして、霊体から実体へと戻す、つまり生き返らせる事なんだとか。

 要するに、その鍵というのは他ならない俺の事だった、と。


 俺はこの世界で、この地球のまずい状態の原因を探り出し、対策を取らなくてはならない、との事だ。


 えーと。

 何の冗談なんだろう。

 要約すると、俺に地球を救えと?

 ありえない、あっていいはずがない。

 俺は単なる人間で、普通のおっさんなんだぜ?


 それに、原因を、とか対策を、とか、もうそれ以前に困った状態が何を指すのかすらわからない。

 暗中模索どころじゃない、数字もない状態で計算の答えを出せ、といわれたようなもんだ。

 あー、こりゃダメだ。

 何一つ理解できない。

 納得できるワケがない。


 「ごめんなさい、困惑させるつもりはありませんでしたが、事実なのです。」


 ミノリさんとやらは申し訳なさそうに言うが、それも首魁というか、真相を知る当事者ってのが別にいるから、なんだろうな。

 そのくらいなら、理解できる。

 が、しかし……


 「あの、正直に言いますが」

 「はい。」

 「話の内容は理解できます。でも、現実味がないようにも思えます。」

 「それは仕方がない事だと思います。いきなりこのような事を伝えられても、すぐには信じられないでしょう。」

 「仮に、それが本当だったとしてなぜ俺なんでしょうか? というか、俺にそんな大それたことができるとは思えません。」

 「それについては、シヴァ様から直接お聞きになるはずですので、今は状況だけを理解していただければ幸いです。」

 「そうなんですか……」


 納得いかないというか、困惑している俺を見かねたジャネットさんは


 「状況は判らないけれど、恐らくは多くの謎と困難があると思います。それ故、このままリサを貴方に同行させます。」

 「もちろんだよ、タカヒロ、私が全力で補助するからね!」

 「はは、ありがとう、リサ、ありがとうございます、ジャネットさん。」


 「ひとまずは、貴方はミーア山賊団と行動を共にし、目先の問題を解決することに尽力願います。」

 「わかりました、それは全力でやりますが、それはこの星の問題解決と何か関係があるのですか?」

 「全ての因果は連なっています。一つ一つの出来事が連鎖し、物事の解決に至ります。古の物語にもあったはずですよ、たしか、“あーるぴーじー”とか言いましたか?」


 ……何でミノリさんがそれを知っているんですか?


 「私の記憶は、この星に私達精霊が誕生した時からの蓄積があります。つまりは1万2000年程の記憶です。」

 「いちまんにせんねん?」

 「はい、貴方が生きていた時代は、正確には11800年前です。」

 「はー……」


 もう、思考がパンクしそうですよ。

 いや、冷静に考えてみよう。

 ここが12000年もの未来だとして、なんでこんな中世のような世界になってんの?

 いったいこの12000年の間に何があったってんだ?


 「タカヒロ様、私達が貴方にできることは限られています。ですが、できる限りの助力はしたいと思います。」

 「我もそなたに、リサを付ける以外でも、できる範囲で力を貸しましょう。」


 えらい事になってきた。

 こりゃもう、しばらく寝れないぞ、これ。

 ノイローゼにもなりそうだ。


 「そこで、ですがタカヒロ様。」

 「は、はい!」

 「その助力の一つなのですが……コロル!」

 「はい、ミノリ様!」


 可愛らしい女の子が木の中から出てきた。

 ちょっと吊り目で、見ようによっては怖い感じの、木の精霊、なのか?

 肌全体に薄く木目があり、緑色の服?が鮮やかだ。


 「まずは貴方の傍にいる、カスミとの約束を果たします。」

 「カスミとの約束っていうと……」

 「はい、カスミの魂を、このコロルへと移します。」


 ミノリさんが言うには、正確には生き返るってわけではないらしいが、霊体というか幽霊のカスミを、この精霊を依り代にして実体化、つまり肉体をもつ生命体へと変化させることができるらしい。

 そうなると、このコロルとかいうコはどうなるんだろうと聞いてみると、カスミと一体化するんだそうだ。

 一体に二つの人格というか思考があるのはどうなんだろう、とも思うが、概ねカスミの思考と人格が支配するから問題ないそうだ。


 そんなこんなで、カスミの魂は俺のスマホからコロルというコへと移送された。

 コロルというコにカスミが入ると、体全体が光りだし、容貌が少し変化した。

 見た目は高校生、いや大学生くらいだろうか、コロルの容姿をもっと角をとったような可愛い女の子になった。

 カスミは大層喜んで、ミノリさんにお礼を言っていた。


 「ねー見てみてタカヒロ、どう、どうよ?」


 まー、嬉しいだろうな、仮初とはいえ生き返れたんだもんな。


 「よかったな、カスミ、なんかちょっと俺、泣けてきたよ。」

 「なんでアンタが泣くのさ!まぁ嬉しいけども。ありがと。」

 「それに、思った以上に可愛いな、お前。」

 「っちょ、な、なんでそんな事いうかな!なんでなんで?」


 元気そうで何よりだった。

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