第17話 魔術と魔法と
昨日訪問したデューク山賊団アジトでの報告を元に、俺たちはこの後の行動指針と計画を練り直す会議を開いた。
正直俺には王国にまつわるあれこれをまだ把握しきれていない所もあるのだが
「タカヒロ様には知っていて欲しいのです。」
というサクラの言によって会議に参加しているわけだ。
会議がすすんで、最後に最大の問題点を俎上にあげた。
「現状、一番厄介なのは救国の英雄、ではないかと思われます。」
ニーハさんが言う救国の英雄ってのは、昨夜サクラから直接聞いた。
曰く
勇者にも匹敵する強さを誇る4人組の集団で、各国で魔獣の討伐、盗賊の排除、そして一部で出没するという魔族の排除もこなしているという。
しかも、そういった戦闘ばかりしているわけでもなく、災害救助や防犯活動、はては農作業の手伝いなんかも無償でおこなっているそうだ。
それ故にどこの国の民からも絶大な人気があり、誰もが尊敬し認める「英雄」となったんだそうだ。
どこかの国に所属しているわけではなく、各国の国家的要請を受けて活動する者たちらしい。
そんな英雄の一団が、悪政を敷いているラディアス王国に加担するっていうのはやや疑問ではあるが、事実として国家要請により山賊団を討伐しにやってくる、という事だ。
「ちょっといい?」
「なんでしょう、タカヒロ様?」
「その救国の英雄ってのは、山賊団がいわゆる自警団的な存在である、というのは知っているはずなんだよな?」
「そうですな、盗賊ならまだしも、山賊団が自警団的な存在であることはどの国家でも民衆でも知るところです。」
「そんな英雄が、なぜ山賊団排除に動くのかがわからないんだが。」
「彼らは特定の国家所属の一団というわけではありませんが、国家の要請となればそれは彼らにとって“勅命”ともいえる物です。」
「そうなのか?」
「はい、何よりも民の為に働く彼らは、国の長がどうあれ、国の為と言われたら断ることはできないのではないか、と思います。」
うーん、何と言うか、英雄然としているようだけど、民の為、じゃなく国の為、か。
「ともあれ、英雄に対しては備える必要があります。彼らに対抗できるものは、おそらく我が団のみでしょう。」
「つまり、山賊連合の事実上の頂点はミーア山賊団で、こちらのメンバーはそれだけ強い、と?」
「はい、隠す必要はありませんので明らかにしておきますが、ダイゴやニーハは元王国の騎士団を率いていた兵です。」
「しかし、私達をも簡単に打ち負かすほどの強者、タカヒロ様がいる、という事は我が団が戦力としては最強ということです。」
俺はそんな大層なモンじゃないと思うんだが。
しかし、こりゃ俺もダイゴさんたちと鍛錬して鍛えないといけないかもなぁ。
地の力も剣術とかも、基本素人なんだしね。
「話を戻しますが、英雄が厄介というのはもう一つ理由があるのです。」
「もう一つの理由?」
「はい、英雄の中に、“魔法”を使う魔法使いが存在するためです。」
「魔法?」
「魔法を使える者は限られています。現在世界では数名しかいない、特殊な者です。」
魔法使いなんてのも存在するのか、この世界は。
ますますファンタジックな要素が増えてきたな。
「我が団にはローズ様をはじめ魔術を行使できる者が数名おりますが、さすがに魔法に対抗できるほどではありません。」
「え、ちょっと待った、魔法と魔術って違うのか?」
「はい、それについてはまたタカヒロ様に説明いたしますが、現実問題としては魔法は古の大量破壊兵器に匹敵するものです。」
それは要するに、広範囲に攻撃魔法を展開できるって事か。
もちろん、それ以外にも個別に攻撃や防御する魔法もあるって事なんだろうな、きっと。
確かに、そんなチート攻撃は厄介ではあるな。
「では、ひとまず会議は解散としましょう。各自、英雄に対する策などを思案してください。」
「はい、後ほど再度会議を設けます。」
うーん。
俺がすべき事としては、まずは地の力を上げる事か。
それと、魔法と魔術についても知る必要があるな。
「なぁ、ローズ。」
「なぁに?」
「魔法と魔術って、何?」
「ああ、タカヒロは知らないのね、いいわ、ちょっと来て。」
そういうとローズは俺を外に連れ出した。
セラさんも一緒に。
「まず、魔術っていうのを見せるわね。」
そう言うと、ローズは短い杖を掲げる。
杖の先端には丸い宝石みたいのが付いている。
そして、何やらぶつぶつと呟き杖を突きだした。
すると
杖の先端から火の玉が飛び出し、遠方にある岩にぶつかり岩の一部を砕いた。
「ふう、これが魔術の一つよ。」
でもこれって、普通に魔法じゃないのか?
「魔術はね、魔力を持たない者が、呪法の力を借りて、自身の体力を使って現象を発現させるものよ。」
「タカヒロ様、魔術でさえ行使できるものは限られますの。ローズ様は素養があったので修行して行使できるようになりましたのよ。」
「そうね、セラが教えてくれたから使えるようにはなったわ。でも、それほど強力なものではないのよ。」
「また、治癒の術も存在しますが、怪我を完治させるほどの力はありませんの。」
「それに対して魔法っていうのはね、魔力を持つ者だけが、厳しい修行と精霊との契約によって行使できる術なのよ。」
精霊だって?
「そしてその魔力をあらゆる現象として顕現させるのが魔法ってわけ。」
「その力は魔術とは比較にならないほど強力ですの。しかも、エレメントの制限もないとか。」
「エレメント?」
「はい、エレメントとは“要素”とも言えますの。具体的には、火や水、風、土といった元素の事ですの。」
精霊、エレメント、ねぇ。
「魔術はその制限があると?」
「そうね、別々の要素を次々と使うってことは、基本できないのよ。」
「例えば、一度火の魔術を放つと、しばらくは他の要素の魔術は発動できないんですの。」
「何で?」
「正確には解っておりませんの。古来から魔術とはそういうものだとしか。」
そうなのか。
例えば、法術とか陰陽術とか、ああいったのって何かを代償として消費し代わりに現象を起こすって事なんだろうな。
でも、五行相生とか、五行相克とかいうのは、そういう要素の複合や相殺ができるって事じゃなかったっけか、たぶん。
しかも、精霊との契約だって?
「あのー、もしかして、だよ?」
「なんですの?」
「もし、俺に精霊が宿ったとしたら、俺も魔法って使えるようになるのかな?」
「あはは、タカヒロが魔法を?」
「ふふ、そうですね、タカヒロ様に魔力があり、精霊が宿り、術式の構築ができるのであれば、あるいは可能かもしれませんの。」
確か、この小太刀で木の枝を切ったのって、あれは一つの魔法だよな、たぶん。
(なあ、シルフィード)
(なーにー?)
(この間木の枝を切ったのって、あれは魔法ってやつじゃないのか?)
(そだよ。)
(てことは、俺は魔法が使えるって事?)
(そうだね、今なら何の問題も無く使えるよ。)
(なるほど、わかった、ありがとう)
「タカヒロ?」
「ああ、ごめん、ちょっと考え事してた。」
「まあ、魔法と魔術に関してはこんな所ね。ほかに何かわからない事はある?」
「正直いっぱいありすぎるけど、ひとまずは今のところいいかな。」
「そう。ねえ、タカヒロはさ、この後どうするの?」
「うん、ダイゴさんかニーハさんに頼んで鍛錬しようかと思う。」
「えー、あんた強いのに?」
「えーとね、俺には基礎というか、そういうのが無いんだよ。だから根本的に基礎から鍛える必要があるかなーと。」
「そうですね、基礎や基本は大事ですの。」
「そうか、じゃあ、あたし見学するわ。」
「そ、そうか、でもまずは、二人にお願いしにいかなきゃな。」
と、そんな話をしていると、外門からそのダイゴさんが慌てて走ってきた。
「お、お頭ー!」
血相を変え、本館にいるサクラの元へと駆け込んでいった。
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