第16話 山賊団同盟
山賊団同盟頭領の元へ向かうのは、俺、サクラ、ローズ、ニーハさん、セラさんというローズの護衛の5人だ。
俺は今回はリサに乗っかっていくことにした。
他の4名は馬で、サクラはまた同乗をと言ってきたが、それは丁寧にお断りした。
何となくだが、リサが乗ってけ!と言っているような気がしたからだ。
決してローズとのやり取りがあったからではないので、ローズも気にしないでね。
5時間ほど馬を走らせた所で、デューク山賊団のアジトという所に着いた。
山肌の洞窟が本殿のようで、入口の左右に詰所やら会合場所のような建物がある。
洞窟の入口に警護の人が4人立っている。
山賊らしからぬ、どっちかというと騎士みたいないで立ちだ。
「ミーア山賊団、まかりこしました。」
サクラがその門番のような人に話しかけると
「お待ちしておりました、こちらへどうぞ。」
と柔らかい物腰で俺たちを案内してくれる。
あらかじめ訪問することは連絡していたらしい。
それほど深くない洞窟で、内部はかなり広い。
進んだ先はひときわ開けた空間になっていて、何やら玉座みたいなものが見えた。
数段の壇上に厳つい石でできた椅子に座っている人物、どうやらアレが頭領さんみたいだな。
なんというか、威風堂々というか、厳しそうな人だ。
その石段を掃除している少女がこちらに気づかずにせっせと雑巾がけをしている。
頭領さんの横に立っている護衛らしき人が慌ててその少女に声をかけた。
「こ、これ、ケリー、来客だ、控えてなさい!」
「え?は、はい!すみません!」
その少女はそそくさと石段を降りて横に控えた。
バケツと雑巾をもって。
コホン、と咳ばらいをして、頭領さんらしき人が話し始めた。
「よく来たな!ミーア山賊団よ!」
そういうと椅子から立ち上がり、こちらに歩き出した。
そして
「して、今日は何の要件だあああぁぁぁぁ!」
石段を降りようとした所で、盛大に足を滑らせ石段を転げ落ちた。
慌てた護衛の方も
「頭領! だいじょうぶわーー!」
同じように足を滑らせ落ちた。
静寂が訪れる洞窟内。
周囲にいるデューク山賊団の人たちが慌てて二人に駆け寄り体を起こす。
ケリーと呼ばれていた少女は、何が起こっているのかわからず、あわわわ、と立ち尽くしている。
すると、転げ落ちて突伏していた頭領さんはゆっくりと立ち上がり
「誰だ!階段に樹脂油を塗ったのはあああああ!」
あ、それやっちゃダメなやつだ。
どうやら階段にワックス掛けたみたいだ。
すると、デューク山賊団の面々が一人の少女を見た。
それを見た頭領さんは、怒り心頭な表情でその少女に向かって歩き出した。
事ここに至って、自分のやったことが頭領の階段落ちを演出してしまった事に気づき、固まる少女。
あ、いかん、あの少女折檻されるんじゃ……
「ケリーよ!」
「は、はいぃ……」
少女は今にも泣きそうである。
「いいですか!掃除の時、階段に樹脂油を塗って磨いてはいけません!」
「は、はい……」
「樹脂油は滑るんです。もし誰かが足を滑らせたら、階段から転げ落ちてしまいますよ!」
「す、すみません……」
「階段は水拭きだけでいいんです、わかりましたね。」
「はい……以後気を付けます……」
ケリーちゃん大失態ではある。
が、この頭領さん。
失敗した人そのものを叱るのではなく、その失敗に対して理由をしっかりと伝え正しいやり方を教えてる。
凄くいい上司じゃないか!
というか、言い方がおかあさんみたいになってないか?
本当にこの人山賊の頭領か?
すると、頭領さんはこちらに向き直し
「いや、見苦しいところを見せた、すまぬ。」
「い、いいえ、大丈夫です。」
何が大丈夫なのかはわからないが、それ以外に言葉は見つからないのだろう。
サクラもちょと困っているようだ。
実はというと、ローズは笑いを堪えている。
セラさんも下を向いて笑いを堪えている。
ニーハさんに至っては後ろを向いて声を殺して笑っている。
非常にまずい状況ではないのでしょうか、これは。
「ま、まあ、ここでは何だ、落ち着いて話しもできんであろう、こちらへ来るがよい!」
心なしか、頭領さんは恥ずかしがっているようだ。
そのまま頭領さんの後を追って、玉座の後ろにある部屋へと入っていく。
この部屋には俺たちと、頭領さん、護衛の人だけである。
扉は固く閉ざされ、外から中の様子は伺えないようになっている。
中に入ると、頭領さんが勧める前にサクラ達はテーブルに着く。
え?と思った。
何で頭領さんに断りもせず着席しちゃうの?
すると、サクラは
「タカヒロ様、私の横に座ってください。」
言われるままに座る。
が、いいのか、これ?
頭領さんがまるで従者のような感じになっているんですが?
「ようこそおいで下さりました、サクラ様。」
「急な訪問で申し訳ありませんね、コージー。」
「いえ、いつでもお越しくださって構いません。」
え?
頭領さんはコージーさんって言うの?
じゃなくて
コージーさんはサクラ達の正体を知ってんの?
「それで、本日お越しいただいたご用件とは?」
「はい、この度我が団に新たな団員が加わったことのご報告です。」
「では、そちらの方が?」
「はい。」
コージーさんが俺を見る。
鋭い眼光でねめつけられるとちょっと緊張する。
「トモベタカヒロと言います!」
おもわず自己紹介してしまった。
「トモベタカヒロさんですね、よろしくお願いします。」
コージーさんはきりっとした物腰で言うので、こちらも
「タカヒロ、とお呼びください。」
「ミーア山賊団の方なれば、この場では私に敬語は不要です、タカヒロ様。」
どうやら、ミーア山賊団の素性は理解しているようだ。
コージーさんによると
デューク山賊団はこの一帯の山賊団を仕切っている組織で、前国王から直にその役目を仰せつかっていたそうだ。
前国王殺害の後、逃げ延びたサクラ達を一時保護して、新たな山賊団を結成させたそうだ。
本来であれば、サクラ達ミーア山賊団が山賊連合を取り仕切るべきなのだろうが、事情が事情なのでそのままとして、ミーア山賊団は一傘下の山賊団として目立たないように取り計らったんだそうだ。
「タカヒロ様は、サクラ様の手助けをして下さるという事ですか?」
「はい、途方に暮れていた自分を救ってくれた恩もありますので。」
「そんな、恩というほどの物ではありません。私が、その、一緒にいてくれた方が良いと思ったまでですので。」
聞きようによっては非常にアレな言い方だけど、当たらずとも遠からずなので黙っていよう。
「それならば、このまま報告をよろしいですか、サクラ様。」
「はい、お願いします。」
コージーさんからは、王国の近況報告を受けた。
現国王の悪政は、今もなお民を疲弊させ苦しめている事。
農作物の輸入量と保存量が減少している事。
周辺各国との軋轢はさらに深まっていて孤立化が進んでいる事。
忍ばせていた諜報員が複数消された事。
密かに傭兵を募っている事。
現王国が「救国の英雄」と呼ばれる者を召し抱えた事。
遥か東方にて、勇者を名乗る者が現れた事。
ここ3か月の動向らしい。
「さらに、マコーミックの手により新たに複数の住民がモンテニアル王国へと脱出したそうです。」
「そうですか、王国はますます国力を落としているようですが、気になるのは傭兵を募っている、という点ですか。」
「はい、騎士団や近衛兵からも脱出者が多く出ているため、兵力の補填を急務としたのでしょう。」
「しかも、救国の英雄があちらに着いたとなると……」
「はい、彼らだけで一国の兵力に相当しますので、かなりの脅威になるかと。」
「ええ、これは非常に厳しいですね……」
救国の英雄ってのがどんなのかがわからない。
後でサクラに聞いてみよう。
「わかりました、情報感謝いたします。本日はこれでお暇しますが。」
「もう、行かれるのですか。」
「はい、この情報を精査して、私共も計画を練り直す必要もありますから。」
「わかりました、大したお構いもできず申し訳ありません。」
「いいえ、むしろ有難うございます、コージー。」
「では、お見送りをいたします。それと毎度の事ですが、外での無礼はお許し下さい。」
「ふふ、構いません、慇懃無礼な頭領を貫いてくださいな。」
「ありがとうございます。」
そうして、俺たちはデューク山賊団のアジトを後にした。
帰る間際、コージーさんは俺に
「タカヒロ様の強さは聞き及んでおります。どうかサクラ様の事、よろしくお願いします。」
と耳打ちしてきた。
この人、見た目に反してかなり誠実な人なんじゃないかなと思った。
見ると、コージーさんの後ろに3人の美女さんが控えている。
後で聞いた話だが、その3人はコージーさんの妻たちだそうだ。
3人も妻がいるとは、前言撤回。
リア充め、羨ましすぎる。
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