第15話 ミーア山賊団本拠地
一夜明け野営を撤収し出発した。
途中休憩をはさみつつ、夕方前には本拠地とやらに到着した。
しかし、道中は何かとても非常にやりづらかった。
おそらく昨夜のサクラとのやり取りは、全員が知るところだったのだろう。
特に、俺が最後にサクラを泣かせてしまった事が決定的だったんだろう。
皆の態度が、なんというか、よそよそしい。
が、それ以上に
「タカヒロ様は乗馬にも慣れる必要があります!」
とサクラが言い出し、問答の末サクラの馬に同乗する運びとなったわけだ。
もう、よそよそしさから何か違う空気というか、雰囲気に変化しそうだよ。
でも、皆の俺を見る感じが、何と言うか興味津々みたいな感じのような気がするのはせめてもの救いではあったが。
ちなみにリサは普通に並走していただけであった。
本拠地というだけあって、立地的にも悪くなく建築物の規模もあの拠点よりは大きい。
というか、結構な規模の街だった形跡がある。
ここには地湯が沸いているそうだ。つまり、温泉である。
という事は、かつてはここは宿場町か、あるいは湯治場だったのかも知れないな。
とはいえ、それよりも久しぶりに風呂に入れる希望が持てたのは僥倖ではある。
俺にはサクラ達が住居としている建物の一室があてがわれた。
なかなかに心地よい部屋だ。
到着して少し休んだ後、本拠地にいる全員が「本館」と呼ばれる建物に集められた。
何やら建物のてっぺんに十字架みたいなものがあって、南側の壁面にはステンドグラスもあり教会のような造りの建物だが、教会ではないそうだ。
どういう事なんだろう?
そうこうしているうちに、周囲を警備する者以外全員が集合した。
総勢50名ほどか、結構な規模なんだな、ミーア山賊団って。
全員が椅子に座ることなく、祭壇のようなステージを向いている。
サクラとローズさんがステージに登壇し、そのあとを俺が付いていく。
サクラが登壇すると全員が姿勢を正し頭を上げた。と、サクラがおもむろに口を開く。
「みなさん、ご苦労様です。今日は新たな人員を紹介します。」
どうやら、俺を紹介する為に集められたみたいだ。
なんか、居心地悪い。
視線が俺に突き刺さっているよ。
変な汗が出てきたよ。
「このお方は、縁あって我が団に協力してくださる“力ある者”です。」
(おおー)という声が聞こえる。
「名をトモベ・タカヒロ様と言います。我が団にとって貴重な、重要なお方ですので、みなさんもそのつもりで接してください。」
そんな大層なもんでもないけどな、俺。
だって、こんなに緊張してビビってんだぜ?
「そして、タカヒロ様はリサ様の庇護下にあります。これは、我が団にとっても神狼の加護を得ているとも言えます。」
再び「おおー!」と声が上がる。
「なお、タカヒロ様は私付きの幹部となりますので以後そのつもりでお願いします。」
心なしか、空気が固まったような気がしたが、気のせいだろう、たぶん。
その場はすぐに解散となり、皆建物から出て行った。
その際、一人ひとり漏れなく、俺に向かって頭を下げてから出て行った。
とにかく、微妙に嫌な時間は終わった、という事でいいだろう。
結局、俺はこの場で一言も発言はしていない。何も言わなくてよかったのはラッキーだったかな。
こういうところで一人発言するのはいつだって緊張するし、気持ちいいもんじゃない。
まぁ、どうぞといわれりゃ全然やるけども。
こう見えても俺はステージ上ではしゃぐのは得意なのである。
バンドやってた時はステージ上で動き回ってたくらいだしな。
ただ、かしこまった挨拶とかが苦手なだけでね。
で、その後は夕食というか宴会となったのである。
今回は準備の手伝いはマリーさんに断られた。主賓のダンナにそれやらしちゃダメだろ、という事らしい。
主賓って……
で、宴会ではサクラの横、ローズさんと挟まれる形の席となった。
広い食堂のテーブルで、一席3人掛けの長椅子で、である。
つまり、姫たちに挟まれている状態なのである。
団の人たちは当然、サクラ達が姫であることを知っているはずで、そんな形で俺が座っているってのは、心象は良くないのではないかと思う。
まして、得体の知らない見た目からして異国のおっさんなんだし。
ところが
皆気さくに話しかけてきてくれて、こちらとしても手持無沙汰でなく楽しく話をできたのは助かった。
俺は結構な人見知りなのである。
というより、話下手なのだ。
聞き上手とは言われたことはあるが、それはこちらから話題を振るのが不得手だからなのである。
そんな中、一人のイケメンが険しい表情で、凄んだ声でこんなことを言ってきた。
「タカヒロ様は、ダイゴさんに勝ったそうですね……」
お、なんだ、このパターンはもしかしてあれか、本当に強いか確かめてやろうってやつか。
そうか、いいぞ、いつだってソッコー逃げてやるぞ?
と思ったら。
そのイケメンは少し間をおいて、ぱあっと表情を明るくすると
「いやぁ、凄いです!もっとダイゴさんをボコボコにしちゃってくださいよ!」
あ、違ったか。というか、ボコボコって……
「俺、いつもダイゴさんに一本も取れずメチャクチャに扱かれるんですよ!」
あー、つまり鍛錬とかでダイゴに厳しくボコられているわけですか。
その気持ちはすごくよくわかります、分かりますとも。
でもね。
そういうのは後ろにいるダイゴに聞かれない所で言った方が良いと思うのよ、たぶんね。
「ほほー、ネリア、それはもっと鍛錬がしたいって事で良いんだな?」
ニカっと笑いつつ、ネリアさんとやらの肩をギューッと掴むダイゴ。
「!!」
凄くわかりやすく固まったネリアさんとやら。ご愁傷さまです。
しかし、このミーア山賊団って。
男はみんなイケメン。
女性はみんな美人。
何だろう、この世界って、みんなこんなんなのか?
この団だけがこんな選りすぐったように顔面偏差値が高いのか?
俺、なんか場違いじゃね?容姿に関しちゃ。
「ねぇ、タカヒロ。」
ローズさんが問いかけてきた。
「はい、何でしょう?」
「あーあのね、お姉さまとは名前を呼び合って口調も砕けているのに、なんでわたしはそのままなの?」
おっと、今それを聞くんですか?
まぁ、俺もちょっとやりづらい面はありますけども。
「わたしとも同じように接する事、いいわね。」
「え?いいんですか?」
「良いも何も、おかしいでしょう?バランス的に。」
「そうです…いや、そうだな。」
「そうそう、そんな感じでね。」
「わかったよ、ローズさ、ローズ。」
「んふふ。でね、一つ言っておくわね。」
「何?」
「お姉さまに変な気を起こしたら、殺すわよ。」
凄まれた。
要するにあれか、サクラには手を出すな、と。
「変な気も何も、俺はもうそんな気は持ち合わせていないから心配ないよ。」
「持ち合わせていないって、どういうことよ。」
「いや、俺はもう死んだ妻以外の、誰かを好きになるとか、無いから。」
「え?死んだ、妻?……あ、あぁ、そんな事言っていたわね、子供がいて、その子たちと奥さんのお墓参りに行ってたって……」
「ん、そういう事。」
「ご、ごめ!……ま、まぁ! あんたは殺しても死なないような気もするけどね!」
ホントこのコ、結構辛辣だなぁ。
でも、不思議とイヤな感じはしないんだよな。
今のも気まずいのを逸らそうとしているみたいだし。
というか、何となくよそよそしさも先日よりは緩和されてきているようにも思えるし。
「それにさ、お姫様に不敬なことはできないさ。こう見えても俺、常識はわきまえているつもりさ。」
「常識、ねぇ……」
その間は気になるが、なんとか納得してくれたの、かな。
すると、ニーハさんと何か話していたサクラが戻ってきた。
俺の隣に座るなり
「タカヒロ様、移動の後でお疲れかと思いますが。」
「ん、大丈夫だよ、それほど疲労はないし。」
「そうですか、では、明日なのですが」
「明日?」
「はい、この一帯を仕切っている山賊連合の頭領への報告に同行をお願いします。」
「山賊団って、連合を組んでるのか?」
「そうです、6つの山賊団がこの一帯で活動しています、それを纏め上げているのがデューク山賊団、その頭領はコージーという男です。」
この一帯ってのがいまいち掴めないが、結構な範囲なんだろうな。
言ってみれば治安維持が仕事みたいな集団のようだし、それぞれが独立した個別集団ではそれも効率というか能率も悪いんだろう。
自警団みたいなものだからこそ、統率も必要なんだろうな、きっと。
「なんか、山賊団ってイメージがずいぶん変わった気がするな。」
「それって、いい意味で?悪い意味で?」
「もちろん、いい意味で、さ。元は盗賊と山賊の区別が無かったんだからな、俺は。」
「あら、ローズとも砕けた口調で話されるようになったのですね。」
「うん、まぁ、さっきから、ね。」
「うふふ、それは良かったです、ね、ローズ。」
「ま、まあね。」
結局宴会は深夜まで及び、俺もしたたか酔った。
部屋に戻り、風呂に浸かれなかった事を後悔するも眠気には勝てず、そのまま寝た。
一夜明け、ニーハさんに聞いてから朝風呂に向かった。
崖の上に源泉が沸く場所があり、そこに露天の風呂があるそうだ。
今の時間なら誰もいないはず、との事なので、タオルと石鹸と桶を借りて風呂に向かった。
露天風呂に着くと先客はいない。俺とリサ、ピコだけである。
そういや蛇は温水って大丈夫なんだろか?
そんな心配を他所に、ピコは既に嬉しそうに泳いでる。
あー、あとで絆創膏貼り変えなきゃな。
俺も服を脱ぎ体を流してから湯に浸かると、若干温めの湯が気持ちいい。
源泉はもっと高温らしいが、川の水を混ぜて丁度良い湯加減にしてあるのだそうだ。
数日ぶりの風呂、極楽である。
体臭も気になっていたので、疲れも汚れも一気に落としておこう。
と、リサは人間へと姿を変化させて湯船に入ってきた。
素っ裸である。
この子は恥ずかしくないんだろうか?
まぁ、狼だから抵抗は無いのかもしれない、そんな事を思いつつリサの肢体を眺めていると
「タカヒロ、そんなに見つめられると、その、恥ずかしいんだけど……」
そ、そうなのか!
「あ! いや、すまん!」
そういって、視線を逸らす。
「あはは、冗談だよ。タカヒロにならいくら見られても良いよ。」
と言いつつも、ほんのり頬を赤らめているのは何でだ?
「そうは言ってもな、女の子の体を凝視するのは良くないよな、うん。気を付けるよ。」
「ううん、ほんとにタカヒロなら良いんだよ?」
そんなやり取りを、ピコはじーっと見てる。
何か言いたそうだが、今は気にしないようにしよう。
風呂から出て出発の準備をする。
とはいっても、俺が準備することなど殆どないが。
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