第14話 ミーア山賊団の正体
途中何度か休憩を挟みつつ進み、陽も暮れてきた頃。
「今日はここで野営とします。」
とサクラ。
若干開けた場所で、見ると石でできた竈の跡やら天幕を設置したであろう跡などがある。
どうやらここがいつもの中継地点、つまりイニシャルポイントなんだろうな。
みんなで天幕を設営し野営の準備をする。
俺はというと、マリーさんが是非にというので夕餉を担当することになった。
もとよりそれ程大層な食材は所持しておらず、何なら握り飯一個でも充分な旅程ではあるが、やっぱり食って大事だなと思う。
平和な日常ではなく、ここは緊張が常に帯同している世界の様だし、極論すればいつ死ぬかもわからないっていう世界なんだろうな。
そんな日常では、一回一回の食事がとても大切なものに思える。
まぁ、食事に限ったことではないけれど。
という事で、今夜のメニューはお肉です。
香辛料で防腐処理した肉を焼くだけの簡単な食事なんだけども。、
そのままでもマリーさんの手にかかればかなり美味しいものになるかと思う。
でもね、せっかくなので俺がひと手間かけてもっと美味しくしようと思った。
肉は鳥の肉。
なんの鳥かは知らないけど、鶏のモモ肉っぽい感じだ。
下処理の段階で塩コショウをまぶし、マリーさんに香草がないかを聞くと
「これが良いよ、ハーブを詰めるのかい?」
と見たことない香草を出した。
一口噛んでみると、いい香りが口腔に広がる。これは良い。
肉を割いたところに香草を詰め、しばらく置いておく。
まだ食事までには1時間程時間もある。
肉を置いておく間に竈というかバーベキュー台というか、その設置を進める。
天幕の設置やら監視ポイントの準備などを終えてみんなが集合してきた。
そして夕餉が始まったのである。
肉を焼くのだが、ここがポイントである。
本来は包み焼きがベストなんだが、そういう道具はないので肉は串刺しで竈にかけてこれを常に回す。
マリーさんは元々鉄板で焼くつもりだったらしい。
その鉄板では、マリーさんが玉ねぎっぽいものとジャガイモっぽいものを炒めている。
概ね焼きあがった所で、秘密兵器の醤油を取り出す。
どうやらこの世界には醤油は無いみたいだ。
大豆そのものはあるようだが、その製法は廃れたらしい。
というか、醤油は日本の文化だし、ここ、どうも日本とは違う大陸らしいし。
ということで
香ばしい香りが食欲を刺激する、鶏肉のローストの完成である。
みんな待ちきれないとばかりに我先にとガブリつく。
サクラもローズも、いつもの気品ある食べ方ではなく、豪快に齧り付いている。
そして
「「「「 旨い! 」」」
大絶賛である。
特に、醤油の効果は絶大のようだ。
知らない食材で作った割には、かなり上手にできた。
何より、みんな喜んでくれたのがとっても嬉しいのである。
リサも大満足のようで何よりだった。
ちなみに、ピコにも一口与えたんだけど、あまり好みではないみたいだ。
香辛料がきつ過ぎたのかな?
なので、ピコにはバッグからバランス栄養食の携帯食料を砕いて与えた。
こちらは気に入ったらしく、最後はブロックを丸のみしていた。
夕餉の片づけをし、休息の時間となった。
交代で警戒の為立哨しつつ就寝し、明日夜明けとともに出発するとのことだ。
俺も立哨に立つのだが、一人ではなんとなく寂しいのでリサと一緒だ。
順番は3番目、時間としては午前0時頃が俺の担当だった。
そんなこんなで見張りを始めたが、正直、そんなに眠いという事はない。
周囲の風景をはじめ、いろんな事が新鮮に思えるのと気が張っているってのもあるかも。
そんな事を思いつつも、周囲の警戒はしていたので、近づく気配にはすぐ気づいた。
サクラだ。
「ご苦労様です、タカヒロ様。」
「サクラ、どうしたの?」
「いえ、タカヒロ様とお話がしたくて来ました。」
「そ、そうなのか。」
そうは言いつつも、隣の岩に腰かけたサクラはそこから話がない。
俺としても、サクラに聞きたいことは色々あるが、どうも聞きづらい、聞いてはマズイような気がして聞けないのである。
静寂がしばらく続き、サクラが意を決したように口を開いた。
「あ、あの、タカヒロ様、聞いてほしい事があります。」
「ん、何?何でも言って。」
サクラは言う
「私達ミーア山賊団の目的、そして本当の姿を、包み隠さず貴方に打ち明けます。」
「目的?本当の姿?それって……」
「はい、タカヒロ様が今後私達と行動を共にする以上、知っておいて頂きたいのです。」
「あ、ああ……」
「その上で、タカヒロ様は今後も一緒にいらっしゃって下さると助かります。」
何やら深刻な、というか闇深な話なんだろうか。
いつになくサクラは緊張しているみたいだ。
「私達ミーア山賊団の目的は、王国の転覆を狙っています。」
「王国?転覆?」
「はい。ここより北に、ラディアンス王国があります。その国王以下、重臣達全てを抹殺することが、私達の最大の目的なのです。」
うん、かなりの爆弾発言だよな、これ。
山賊っていうか、それはもうテロ集団ってことじゃね?
「……それは、革命を起こすって事なのか?」
さぞ、俺の顔は険しくなっている事だろうな。
大義名分の為といい国家転覆を正当化する、それは民主を置き去りにした自分勝手な行為だ。
権力者同士ならまだしも、何の咎も無い一般市民を巻き込むのは個人的に許せることじゃないからな。
何より、その手の事後の混乱は否応なしに一般人を苦しめるのだから。
しかし。
「革命、というのとはちょっと違います。」
「どういう事?」
「これは、私達の素性がとても重要になります。」
「そういや、本当の姿とも言ってたね、それは?」
一瞬の間を取り、サクラは言う。
「ラディアンス王国、今の王国は、3年前に国王暗殺によって現国王に乗っ取られたのです。」
「!?」
驚いた。
驚きはしたけど、俺は口を挟まず、黙って聞くことにする。
革命云々はともかく、サクラがこれほどまでに真剣に伝えようとしているのだから。
全てを聞いてから、疑問なりを聞けばよいだけだ。
「乗っ取った現国王は、悪政に次ぐ悪政で今、王国の民を苦しめています。
前国王と王妃は殺されましたが、一族とその取り巻き達は散り散りに国外へと逃れました。」
「もしかして、それは」
「はい、逃れた一族の一部と家臣、それが私達なのです。」
そういう事か。
何となくだが、これは革命やテロではなく復讐、いや、王政の回復、が目的なんじゃないだろうか。
「私の正体は、前国王の長女です。」
さらなる爆弾発言じゃないか、これ。
つまりは、サクラはお姫様って事じゃないか。
「あー、その、要はサクラは王国の姫ってこと?」
「はい。そしてローズは妹、第3王女です。」
「ちょ、ちょっといいかな、いや、良いですか?」
「タカヒロ様?」
「いやいや! お姫様に様呼ばわりされるとか、タメ口とか、いくらなんでもダメなのではないですか!」
「いえ、タカヒロ様、今は姫でもなんでもありませんので、そういう扱いはおやめください。」
理屈じゃそうかも知れないけど、そういう問題じゃないよね、これ。しかし……
「いやしかし……いや、わかったよ。俺は身分じゃなく、サクラという人と話してるってことで良いよな。」
「ふふ、ありがとうございます。」
「で、サクラ達は現国王を滅ぼして、王国を元に戻そうと、そういう事なんだな?」
「その通りです。山賊に身をやつしているのは活動しやすく、情報も集めやすいから、なのです。」
「なるほど、そういう事か……」
きっと、サクラは俺にこの事を打ち明けるのにかなり悩んだだろうな。
とはいえ、外様の俺にそんな重大な事を打ち明けるのは、何故なんだろう。
「タカヒロ様。」
「ん、何だ?」
「タカヒロ様の使命が、現時点でどういうものなのかは正直わかりません。
でも、貴方が今この世界にとって、なくてはならない重要な方だというのは、なんとなくですが理解しています。」
「……」
「そのうえで、ですけれど……」
かなり言いづらい事を言おうとしているのだろう。
なかなか口にだせない様子でもじもじしている。
「私達の目的と本当の姿を知ったことで、タカヒロ様が私達の元を離れる、というのは仕方がありません。」
「いや、俺は……」
「でも、できれば、このまま私達の元にいて欲しいと願っています。私個人としても、その……」
「あー、あのね、サクラ。」
「はい。」
「ずるいと、打算的と思われるかも知れないけどさ。
今の俺は、サクラ達と一緒じゃないとさ、どのみち行く当ても無ければこの世界で生きていく術も無いんだよ。」
なにか、希望に満ちた目で見られると言いづらいな。
「だから、当面サクラ達の元を去るってことは絶対に無い、と断言するよ。」
「タカヒロ様……」
「それにもちろん、事情を聞いた以上、俺に手伝えることがあるなら何でも手伝いたいとも思っている。」
「あ、ありがとうございます!」
あ、ちょっと、泣きそうになってる。
何でだ?
これはちょっと、空気を換えた方が良い、かな。
「そ、それに、サクラは綺麗だし美人だしな! ずっとサクラの傍にいて力になりたいなー、なんてね!」
そういうと、手を頬にあてたと思ったら、涙を流してしまった。
だから、何でだ?
「タ、タカヒロ様……嬉しいです。」
ポロポロと涙の雫を流すサクラ。
そんなサクラと見つめ合っていると、とてつもなく何と言うか、胸を締め付けられるような気持になってきた。
ま、まぁ、戦力はあるに越したことがないだろうからな。
喜んでくれるのはこちらとしても悪い気はしないね。
「さあ、サクラ、夜風も良くないから、もう休もう。」
「はい、有難うございます、タカヒロ様。」
そう言って、サクラは天幕に戻っていった。
木陰に誰かいたようだが、あれはローズさんか、途中で一緒になって戻っていった。
ダイジョブ、ちゃんと警戒しているから他者が入り込んでいないことは間違いないし。
リサもいるんだしね。
さて、何やら非常に重たい話を聞いてしまったな。
確かに、サクラの雰囲気は高貴な感じはしていたけども、お姫様だったとはねぇ。
というか、その王国の事は全然知らないけど、ここでもそういうきな臭い事は起こるんだな。
どんな時代、どんな世界でも変わんないって事なんだろうな、人間ってのは。
「ちょっと、ねぇ」
突然スマホが何か言いだした。
「カスミか、何だ?」
「あんたさ、最後のあれ、どういうつもりなん?」
「最後のあれって?」
「なんでどさくさ紛れに口説いてんのかって聞いてるのよ。」
「へ?いや、口説いてないけど?」
「はー、あんた、ニブチンだって言われない?」
「言われたことないかも。」
「リサ、こりゃダメかもね。」
「ワフゥ」
リサもなんか、ため息みたいに声を出した。
なんだってんだ、いったい……
そんな感じで立哨を交代した。
その後、眠れなかったのは言うまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます