第8話 盗賊と山賊と

 若干の朝の冷え込みで、割と早く眼が覚めた。

 リサに寄り添い、リサが尻尾を掛け布団代わりにしてくれたおかげで温かくぐっすりと寝られたのはありがたい。

 ちなみに、カスミはあの後


 「ちょっと用事があるからまたね。あ、用事があるならスマホの画面をタップすれば繋がるよ。」


 と言ってスマホの電源が落ちた。

 聞きたいことは色々あるが、今はまだ後回しにしておこう。


 「うーん、おはよう、リサ」

 「ワフッ」


 リサはもう起きていたようで、俺を眺めていた。

 なんというか、昨夜のリサの人間体を見たからなのか、若干気まずい気もしたんだが、リサは対して気にならないようだったので俺も気にしない事にした。

 とはいえ、いい歳こいてちょっとモヤモヤする感は否めないのは、俺も男だからなんだろうな。


 立ち上がり部屋を出ると、ドアの前に護衛の人がいた。

 昨夜からずっとここで立哨していたらしい。


 「あ、おはようございます。」


 と挨拶すると


 「おはようございます。食事の用意ができていますので、ご案内します。」


 と案内された。

 やや年配というか、俺と同じくらいの歳と思われるこの人は「ニーハ」さんというそうだ。

 何でも、サクラさんの護衛を任されているらしく、見るからに強そうである。

 ロマンスグレーというか、いぶし銀というか、結構なイケメンである。

 というか、ミーア山賊団の男性全員が、すごいイケメン揃いで驚いた。

 もちろん、容姿は欧米人のそれに近いんだが、なんての?ハーフジラーのいいとこどりみたいな感じ。


 と、ニーハさんの後に続いて建物の一角にある部屋に通された。

 そこにはサクラさんと、昨夜サクラさんの横にいた女の子が既にテーブルについていた。

 どうも、俺を待っていたようだ。

 部屋に入るなり


 「おはようございます、タカヒロ様。」

 「おはよう、タカヒロ。夕べはよく眠れたみたいね、でも、寝ぐせがすごいわよ。」


 と、女の子は自分の頭を指さして、俺の髪が跳ね上がっているのを指摘した。

 慌てて手櫛で整えるが、そんなんで寝ぐせは治らないけどね。


 「色々ありすぎてご紹介が遅れてしまいましたが、こちらはローズと申します。私の妹でございます。」

 「ローズよ。よろしくね。」

 「あ、ローズさんですね、よろしくお願いします。」


 妹さんなんだ。

 確かにサクラさんに似ているけど、サクラさんよりは何というか、勝気というか活発そうというか、そんな感じだ。

 何処となく気品と威厳を感じるのは、サクラさんと同じだな。


 俺とリサ、サクラさんとローズさんの4人で朝食を頂いた。

 他の方々はおらず、扉の向こうにニーハさんともう一人が、窓の外に二人が護衛で立っていた。

 聞けば、いつもはみんなで食事を摂るらしいが、今日はこんな感じになったそうだ。

 というのも、ローズさんの紹介もあるようだが、昨夜の事をもっと掘り下げて聞きたい、というのがその理由みたいだ、

 食事が済んでお茶というか紅茶で一息ついたところで、サクラさんが口を開いた。


 「タカヒロ様、昨夜の事を私なりに呑み込んで理解はしました。」

 「は、はい。」

 「そこで、やはり私どもミーア山賊団は、貴方に助力することを改めて決定します。」

 「それは、とても有難いのですが……」

 「タカヒロ、何か都合が悪い事でもあるの?」


 ローズさんはサクラさんほど俺を信用していないようで、もっともなツッコミを入れてくる。

 というか、明らかに警戒していると思うけど、ま、それが普通だよな。


 「都合と言いますか、俺自身何をどうすべきかを未だに理解できていません。」

 「昨夜の様子では、そんな感じはしましたが……」

 「ですので、あなた方に迷惑になるのも、正直俺としては何か申し訳ないなーと思います。」

 「別にタカヒロを助力するわけじゃないわ。どっちかというと、リサ様の力になるってことなんだけどね。」

 「こ、こら、ローズ」

 「しょうがないじゃないお姉さま。正直な気持ちなんだもの。」

 「す、すみませんタカヒロ様。」

 「い、いや、ローズさんの言う事は尤もだと思いますので、気になさらないでください。」


 実際、俺だって同じ立場ならそうするし、それが当然だと思うしね。

 というか、どっちかと言うとサクラさんがこれほどまでに親身になってくれているのが不思議ではある。

 もちろんそれはそれで嬉しいというか助かるんだけどね。


 「それで、これからの事なのですけど、ひとまずタカヒロ様は私たちと一緒に本拠地へ移動していただきます。」

 「本拠地?」

 「はい、ここは私どもの拠点の一つですが、本拠地は別にあります。」

 「そうなんですか。」


 こんな結構な建物が、いわゆるアジトの一つという事か。


 「ここはね、私たちが捕らえた盗賊や魔獣を集積して、とある国へ引き渡す為の施設なのよ。もちろん、不審者もね。」


 最後の不審者ってのは、俺の事を言ってんだろうなぁ。

 この子、意外と現実家で辛辣かもしれないね。

 しかし、それって要するに賞金稼ぎみたいなもんだよな。

 そもそも、ここでの山賊の定義って、俺が思っているものとは違うみたいだな。


 「あー、その、そもそも山賊っていうのはどういった稼業なんですか?」

 「え?山賊がわからないの?」

 「あ、いえ、俺が知っている山賊っていうのは、それこそ人々を襲ったりして金品を略取する集団って認識なんですが……」

 「何それ、それって盗賊の事でしょ?」

 「盗賊と山賊は違うのですか?」

 「私共は先ほども触れましたが、盗賊や魔獣を討伐し、その対価をその国から受ける、という事を生業としています。」

 「あんたが言ったのはそのまんな盗賊の事よ。私達と一緒にしないで欲しいわね。」


 やはり、こちらで言う山賊ってのは、賞金稼ぎか冒険者ってやつのようだ。

 しかし、さっきから不適なワードが聞こえているんだけども。


 「山賊については理解できました、有難うございます。ところで、魔獣って何ですか?」

 「魔獣も知らないのね。あんたのトコじゃ魔獣っていないの?」

 「そうですね、猛獣と呼ばれる獣はいますが、魔獣というのはいません。」

 「ずいぶんと平和なトコロなのね、あんたんとこって。」


 まぁ、少なくとも日本は平和すぎる国ではあるけどね。

 戦争とか紛争とか、日本を出ればそこかしこでやってるけど。


 「魔獣はね、魔族の中でも特に好戦的で知性のない獣のことよ。」

 「魔族……」


 さらに不穏なワードがでてきた。


 「魔族は、かつて人間を滅ぼそうとした、魔力に富む生命体の総称です。」

 「人間との争いがあったのですか?」

 「そうです。およそ500年前、人間と魔王との激しい戦いを繰り広げ……」

 「繰り広げ?」

 「勇者様によって魔族は結界の中に閉じ込められ、人間に干渉できないようになりました。」

 「滅んだ訳ではないのですか?」

 「勇者様の慈悲だったのでしょう、結界の中でのみ生活し、結界を出て人間に干渉しない限り存続を許された、と聞いています。」

 「勇者、ねぇ。」


 何やら一気にファンタジックな状況になってきたな。

 そもそも、魔族って何だ?

 よくあるRPGゲームに出てくるようなアレなのか?

 いまいち実感がわかないな。


 「その結界から抜け出した魔物の獣が、そこら中にいるってわけよ。」

 「それが魔獣、なのですね。」

 「そうです。民に害をなす魔力をもった害獣、それを討伐するのも、私達山賊の役目でもあります。」


 なるほど、ちょっと引っかかる点も無くはないけど少し理解できた。

 干渉しなければ存続を許すってことは、干渉すると存続できないってことだよな?

 じゃあ、なんで結界を出て人間に悪さできるんだ?


 ま、俺には考えが及ばない何か事情があるのかな、たぶん。

 それはともかく。

 やっぱりいわゆる賞金稼ぎか冒険者みたいな集団なんだな、山賊って。


 「わかりました。知らなかったとはいえ、盗賊と同じと言ってしまい申し訳ありませんでした。」

 「わかってもらえたならいいよ。」


 ちょっとローズさんの溜飲は下がったようだな。

 しかし、魔族に魔王、か。ほんとにここ、未来の世界なのか?


 「さて、それでは、明日出立する予定ですので、タカヒロ様は今日はゆっくりとお休みくださいな。」

 「あ、はい、ありがとうございます。」


 という事で、今日一日は何もすることがない。

 ゆっくり、と言われても、何か居心地も悪いし、どうしようかな。

 そんなことを考えつつ、外の空気を吸おうと建物から出た。

 すると


 「タカヒロ様。」


 突然、渋い声で呼び止められた。


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