第5話 ミーア山賊団

 山賊さんたちは、近くにある拠点の一つに向かっているらしい。

 さっきまで、あの輩集団を追っていたんだそうだ。

 総勢7人の山賊さんたち、聞けば団員はもっといるらしい。

 最初に出てきた男の人は「ダイゴ」さんというらしい。


 お頭と呼ばれた美人なサクラさんは時折俺を見つめているようで、俺が気付いて見返すとパッと視線を逸らす。

 うーん、メチャクチャ怪しまれているのかなぁ。

 こんな格好だし、聞けばリサって人に懐くことはまずあり得ないらしいし。

 と、そんなことを考えていると


 「えーと、トモベさんと言ったか。」


 ダイゴさんが話しかけてきた。


 「あ、はい?」

 「素朴な疑問なんだが、あんた何処から来たんだ?」


 もっともな質問であるが、普通に答えて良いんだろうか。ま、いいか。


 「えーとですね、三重県からです。」

 「ミエケン?はて、そんな国あったか?」


 何となく予想はしていたが、知らないらしい。


 「どこかの自治集落か?聞かない地名だな……」


 そうですか。

 まあ、日本人でも三重県ってどこ?っていう人も居るくらいだしな。


 「で、武器も持たずに旅しているって、正気なのか?」

 「いや、あのですね、お、私の国では武器とか凶器を所持して歩くのは禁止なんです。なので所持して歩いていると捕まりますので。」

 「なに? そんな治安に厳しい国なのか。」

 「はい。」

 「というか、俺に対しては別にかしこまる必要はないぞ、トモベさん。」

 「そ、そうなのですか。」

 「ああ、普通にしていれば良い。ただし……」


 ああ、何か条件があるわけですね、わかります。


 「お頭に対しては敬意を払って接するようにしてくれ。あの方は特別なんだ。」


 あ、違ったか、でもそれはわかる、わかります。


 「わ、わかりました。」


 そんなこんなで、拠点とやらに着いたようだ。

 割と堅牢な造りの、ちょっと大き目な山小屋って感じだ。それが3棟ほど連なっている。

 その奥にはなにやらただならぬ雰囲気を放っている洞窟があり、しかもあれ鉄格子だよな?牢屋みたいな感じだ。

 俺、あそこに放り込まれるんだろうか。


 「さて、着きました。トモベ様とリサ様はご一緒にこちらへ。」


 というと、真ん中の建物へと促された。

 ひとまず牢屋直行じゃなくてホッとした。

 中に通されると、しばらく待つように言われた。

 楽にしてよいとサクラさんに言われたが、楽の度合いがわからんのでリサの横にちょこんと正座する。


 待っていると、サクラさんを始め先ほどの7人に加え、さらに5人が集合した。

 サクラさんが上座らしき所に座ると、そこを頂点に両サイドに10人が整列して座る。

 サクラさんの横には、これまたきれいな女性が座る。


 「お待たせしました。空腹とお疲れの所すみませんが、まずは確認したい事がございますので。」

 「あ、はい、それは良いですが……」


 うーん、何か微妙なプレッシャーを全員から感じたりして、ちょっと嫌な状況ではある。

 完全なアウェー状態な上にさらし者みたいな状況である。

 しかも俺以外の全員が、これ以上ないくらいの強さ、というか手練れっぽいんだもの。


 「まずは、貴方の素性を詳しく聞かせていただきたいと思います。」


 尤もでございますな。

 しかし、正直に話したところで、先ほどのダイゴさんと同じ反応になりそうだが……

 うーん、ここはあれだ。案ずるよりも生むが易し、だな、たぶん。


 「えーと、誓って正直に話しますが、若干可笑しなこともあるかと思いますので、不審な点は都度おっしゃってください。」

 「はい。」


 俺は包み隠さず、正直に答えた。

 元居た世界から、訳も分からずにここへ連れてこられた事。

 困っている所でリサと出会ったこと。

 その翌日に、こちらの山賊団と出会ったこと。

 精霊云々の話はとりあえずやめておいた。

 怪しいというより、さらにかわいそうな人と思われそうなので。


 「……ちょっと、言っていることが普通というか、まともじゃないわね。」


 サクラさんの横にいる美少女は、もっともな事をおっしゃられた。

 そりゃそうだろう。


 「え、えーと、リサ様とは偶然に出会われたのですか?」

 「そうですね、偶然、だと思います。」

 「ワフッ!」

 「とても信じられないようなお話ではありますが……」


 それはそうだと思います、俺自身信じられないんだから。


 「しかし、リサ様がトモベ様と一緒にいるという事は、おそらくはその話も全くの出鱈目という訳では無さそうですけど……」


 すると、お座りしていたリサがすっくと立ちあがると「ワオーン!」とひと吠えした。

 と思ったら、体が光に包まれると体が徐々に人型へと変化した。


 「な、な、なんだこれ!おい!リサ!」


 まるで夢でも見ているようだ、というかずっと夢見ているようなもんなんだけど。

 人型へと変化したリサは、一糸まとわぬ姿でその場に凛として立っている。

 というか、リサって雌だったのか。

 これまたなんてキレイな女性になってんだよ、リサ。


 それを見た山賊団の方々はというと……

 驚くこともなく平伏しています。

 マジですか。

 どうもリサを知っているようだし、この姿のリサも知っているみたいだな。


 「聞くがよい、親愛なるミーアの者たちよ。」


 リサがしゃべりはじめた。

 一同はそのままの体制で「ははッ!」と答える。


 「この者、タカヒロはとある使命の為に、過去から召喚されたのです。」

 「そ、そうなのですか!?」


 と、サクラさん。


 「そ、そうなのか?」


 と、俺。

 そういや精霊たちもそんなことを言っていたが、召喚主ってまさか、リサなのか?


 「タカヒロは、とある存在により過去から召喚された。その手助けをするために私はタカヒロの元へと赴いたのです。」

 「そうなのですか。」

 「その召喚主の事は私も知りません。しかし、タカヒロは助けるに値する者であると確信しました。」

 「リサ様、トモベ様は何か大きな使命があるとの事でございますが、それは……」

 「それは私にも分かりません。だがしかし、我が母よりその使命は我々の未来にもかかわる事らしい、と告げられました。」

 「ジャネット様から!それは、また……」

 「故に、私はタカヒロと行動を共にします。もっとも、その使命がなくともこの者は守らなくてはならないと思わせるのです。」

 「そ、それはわかります!……あ、いえ……」


 なんか、話が進んでますが、最後サクラさん、食い気味に同意してませんか?


 「ミーアの者たちよ、この者は決してあなた達に害を与える存在ではないと、私が保証しましょう。」

 「それは……」

 「今の段階では、すべてが詳らかにはできない事も多いですが、私を、そしてこの者を信じてください。」

 「リサ様の言葉なれば、私達はその言に従います!」


 なんか、俺そっちのけで話がまとまってしまったみたいだ。

 すると、リサは再び光に包まれる。


 (タカヒロ、心配しなくていいよ。私が一緒だからね。)

 「リサ、お前……」

 (この体になるのは結構大変なのよ、疲れるからもとに戻るね。)


 光が消えると、リサは元の狼の姿に戻った。

 しばしの沈黙の後、何とも言えない、居心地の悪さについ口を開いた。


 「あ、あのー……」


 それが切っ掛けなのか、山賊団の皆さんは一斉に立ち上がり、俺を見つめる。

 すると


 「我らミーア山賊団は、トモベ様を保護することを誓います。」


 ええー!何で?

 そういう話だったっけ?

 おい、リサ、どうなってんだコレ?

 リサをみれば、やり切った感を出しつつ、どこか優し気な顔でしっぽを振っている。


 「いや、そっ、それはとても助かりますが、保護って」

 「これから先、貴方様の使命が明らかになり、指針が判明するまで、我らは貴方様を客分として保護いたします。」


 そして団一同も


 「我らは貴方様を保護します!」


 と言い出した。


 「あ、あの! それはまた後で話し合うとして!」

 「はい!」

 「いや、はいじゃなくて……」


 まぁ、殺されるよりはずいぶんマシではあるが、何とも場違いな感じもする。


 「で、ではせめて! 俺は“様”を付けられるような人間ではありません。なので、“タカヒロ”と呼び捨てにしてください!」

 「し、しかし、それは……」

 「お願いします、俺はそんな大層な者でもありませんし、分不相応みたいですので。」

 「そんなことはありませんが、わかりました、そのように致します。」

 「ありがとうございます」

 「ですが、そうであれば此方からもお願いがございます。」

 「へ?」

 「私共も敬称は付けず、普通に話していただきたいと思います。皆もよろしいですね?」

 「はい!」


 ええー、ナニコレ……

 そんなこんなで、ひとまず話はまとまった。かに思われたその時である。


 けたたましく携帯の呼び出し音が響いた。


 もう、ビックリである。

 リサもビクっとしてすかさず警戒態勢をとる。

 バッグの中にあるスマホが呼び出し音とともにライトが点滅している。

 とりあえす画面を見てみると、「カスミ」と表示されている。


 カスミ?

 はて、誰だ?知らないぞそんな人、というか、登録してないけど。

 というか、何で電話かかってくるんだ?

 とりあえず、わからないままに通話をONにしてみると


 「ああー、もう、やっとつながったわよ!」


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