第4話 山賊との遭遇

 リサのおかげでわりと温かくぐっすり寝られたので体は軽い。

 筋肉痛が少し厳しいが、歩く分には問題ないと思う。

 リサがこちらを見て


 「ガウ、ガウー」


 と唸るのだが、どうやら「背中に乗っても良いんだぜ!」と言っているようだ。

 何となくだが、昨日よりもリサの言いたいことが理解できる気もするが、ま、気のせいだろうけども。

 なので


 「ありがとうな、リサ。でも、お前に負担はかけられないよ。」

 「クゥーン……」


 と、自分の足で歩くことにする。

 もしかすると、俺の歩行速度が遅いので合わせるのが億劫なのかもしれないけどね。

 だけど、いかにリサが巨躯でも、人間一人載せるのは大変だろうよ。


 そんな事を考えながら歩いていると、何やら前の方から人が走ってきた。

 5人ほどだろうか、なんか金属の棒みたいなのを持ち、マタギみたいな恰好をしていて何かに追われ遁走しているような感じだ。


 「おい、あれ、誰かいるぞ!」


 先頭を走っている人が、俺をみてそんなことを叫んだ。


 「くそ、先回りされたか!」

 「どうする!」

 「どうするって、殺って突破するしかねぇだろ!」


 と、なんか物騒な事を言いながら勢いそのままにこっちに突進してる。

 手にしてるのは金属の棒じゃなくて、何だあれ、刃物か?

 すると、リサがとっさに俺の前にでて威嚇態勢を取り


 「ワオーーーー!」


 と遠吠えをした。


 「グッ、何だあのでかい狼は!」

 「あれは、神狼の仲間じゃねぇのか!」


 と、その人たちは立ち止まって刃物を構え直す。

 そして


 「てめえもあいつ等の一味だな!」

 「かまわねぇ、殺っちまえ!」


 などと言いながら、なんか襲ってきそうな感じだ。

 咄嗟に俺は両手を前にだし手を振って


 「いやいやいや!ちょっと待て!」


 と叫んだ。

 ここにきてただならぬ状況なのではないかと感じる。

 でも、昨日来ようやく会えた人間が、なんか半グレの輩集団みたいな人ってのはどうなんだ。


 「うるせえ!おい、一気に仕掛けるぞ!」

 「神狼はどうすんだ!」

 「まずはあの男からだ、無視しとけ!」

 「無視って、無理じゃねぇかたぶん……」


 そうは言いながらも、じりじりと俺を囲みつつ間合いを詰めてくる輩たち。

 俺としてはなんとなく現実味がないし、刀なんだか剣なんだか知らんが、あれも本身とは思えないし。

 何より普通に考えれば俺は今襲われているんだろうけど、あまり危機感を感じない。


 そうか、これはアレだ。

 素人を相手にしたドッキリだ、たぶん。

 そんなの、もう昭和で終わってたと思うのだが。

 令和の今じゃ、コンプライアンス的にNGだろ。

 そんな事を考えながらも輩に囲まれた俺。

 リサが威嚇しつつ、即応できる姿勢を取っている。

 リサを警戒して男たちは動けないようなので、とりあえず話をしてみる。


 「あのー、あなた達は何をしているのですか?俺はただの通りすがりの普通の人なんですけど」


 答えは無い。


 「もう、行っていいっすか?」


 答えは無い……何だろう、言葉が通じないのか?

 いやいや、この人達は普通に日本語で話していたはずだけど。

 と

 一人が殺気を放ちつつ、素早い動きで俺に切りかかってきた!

 すかさずリサが俺の前に出てその一人に襲い掛かり、そいつは左肩から先をリサに喰いちぎられた。

 断末魔の叫びと共に、その一人は絶命した。


 うわーお、グロい、ちょっとしたショッキング映像である。

 というか、リサ、容赦ないな!

 そんなよそ見をしている俺に、別の一人が音もなく切りかかってきた。

 リサはそちらにも気づき、尻尾でそいつを薙ぎ払う。

 大質量の尻尾でドタマをどつかれた男は、どうやら首の骨がぽっきりと折れたようだ。

 リサ、強えぇな!

 そんな感じでリサが3人を屠ると、残り2人が距離を取って構えなおす。


 「ちッ、やっぱり神狼じゃ相手にならねぇか……」

 「逃げ道もない、このままじゃ俺たちもやられちまう」


 膠着状態のまま、数秒が過ぎただろうか、俺は両手を上げ争いの意思がない事をアピールしているが、相手には通じて無いようだ。

 と

 俺たちと輩の間に何かが飛んできた。

 見ると、それはどうも剣みたいだ。


 「ちッ、追いつかれたか!」

 「かまわねぇ、突破するぞ!」


 なりふり構わないという風で残りの2人は俺に襲い掛かってきた。

 すると、突然左背後から


 「下がってろ」


 と声がしたと思ったら、一人の男が輩たちを迎え撃った。

 おそらく時間にして一瞬、0.5秒ほどじゃなかろうか、交差したと思ったら二人同時に輩たちの右腕が切り落とされていた。


 うわ、やっぱりグロい。

 その男が剣を鞘に仕舞うと、道の先にはいつの間にか屈強そうな別の集団がいた。

 男は俺とリサを交互に見ると、なんと跪き剣を地に置き、リサに向かって話し始めた。


 「ご機嫌麗しゅう、リサ様!」


 え?

 どゆこと?

 ってか、何でその狼に俺がつけたリサって名前知ってんの?

 それを受けてリサは一吠えする。


 「え?え?リサの知り合いか?」


 リサに問いかけると


 「ワフッ!」


 そうだ、と言わんばかりだ。

 そんな状況の下、向こうにいた集団は近くまで来ると男と同じようにリサの前で跪く。


 「お久しぶりでございます、リサ様!」


 ひときわ豪奢ないで立ちの女の人が恭しく頭を垂れながらリサに告げる。

 俺そっちのけで、みんなリサを崇め奉っているかのように跪いている。

 すでに俺は空気状態であります。

 何なんだこりゃ?

 すると、その女性は立ち上がり、こちらを見つつ


 「あなたは?」


 と問いかけてきた。

 と思ったら、女性はハッとしたように動きを止めてこちらを凝視し始めた。


 ちょっと状況に追いついていけない。言葉も出ない。

 というか……

 俺も動きを止めてその女性に魅入っていたんだ。


 すげえ美人だ!

 やや桃色がかった長髪に整った顔立ち。

 立ち姿も凛としていて、何かこう、高貴な雰囲気を醸し出している。

 着用している服?というか鎧?は実用的でもあるが華美な装飾もされていて、それらが余計にこの女性の容姿を引き立てているかのようだ。

 言葉も出ずに、お互いしばし見つめあっていたが


 「お頭、この者は先ほどの盗賊連中に襲われていたようです。」


 と、男が口火を切ったので女性も我に返ったようで


 「は?、え、あぁ、コホン、そうなのですか。しかし、なぜリサ様と?」


 これが切欠で、、ようやく俺も声を出す事ができた。


 「あ、いや、あの、ホントすみません、何が何やら、状況がまったくわからないんですけど……」


 マジでわからんのだけども、とりあえず自己紹介でもしとくことにする。

 とりあえず無難に旅人を装っておこう。


 「俺、いや、私はトモベ タカヒロと言います。別の国から来た、まぁ、旅の者です。」

 「その服装、やはり異国の方ですか。しかし、こんな所まで旅とはいったい?」

 「話せば長くなるのですが、(いろんな意味で)道に迷って困っている折に、このリサと出会いまして、こうして同行している次第です。」


 何やら騒めき始めた人たち。


 (リサ様を呼び捨てに?)

 (というかヘンな服だよな?持ってる袋も何か怪しいし……)

 (旅をしてるのに剣も持ってないなんて……)

 (それよりさっき、お頭と見つめあってたよね)


 などと呟いている。

 というか、さっきこの女性を「お頭」って呼んだよな。


 「そうなのですか、何やら込み入った事情がおありのようですが」


 まぁ、不審ではあるだろうな、絶対に。


 「しかし、リサ様が一緒にいらっしゃるという事は……」

 「あの、すみません。あなた方はなぜ、リサの名前をご存じなのですか?」


 とても疑問に思ったことを、率直に聞いてみた。


 「え?リサ様は出会った当初からリサ様ですけど……」

 「え?」

 「え?」


 ……どゆこと?

 もしかして、リサってマジで元々リサって名前だったの?


 「リサ……そうなのか?」

 「ンワフ―!」


 何やら、してやったり!という感じで返事した。

 マジか!

 偶然すげー!

 ま!それはそれとして。


 「あの、重ねて申し訳ありませんが、俺、いや私はここが何処で、何が起こっているのかさっぱりわからないのですが」

 「えぇと、トモベ様、でしたか、申し遅れましたが私どもは『ミーア山賊団』と申します。この周囲一帯で活動している山賊団ですわ。」


 山賊ときた。

 山賊ってあれだろ、昨日ムーンが言ってた、要は悪さする集団だろ?

 集落襲ったり旅人襲ったりして金品を奪う事を生業とする荒くれもの。

 7人の何とかとかいう映画に出てきたアレだろ?


 「山賊さん、ですか?」

 「はい。」

 「てことは、あれですか、私もここで身包み剥がされて殺されてしまうんでしょうか?」

 「え?あ、い、いいえ、そんな盗賊のような事は致しません! 私どもはそうした盗賊や害獣、魔獣から住民を守るために山賊をしています。」


 え?

 山賊と盗賊って、同じじゃないの?


 「ワオーン!」


 と、リサが一吠えしてくれたことで本題に戻る。


 「そ、そうですわね、ここでは詳しく話を伺うのも難しいでしょうし……リサ様もご一緒でしたら心配は無いと思いますし、どうでしょうか、私どもに付いて来て頂けますか?」


 どうも一緒に来いという事らしい。

 ま、尋問でもするんだろうけど、こちらとしてもこのまま歩き続けていても拉致があかないし、ここは素直に従っておこう。


 「それは願ってもない事です。ご一緒させていただいてもよろしいですか?」

 「ええ、こちらも色々とお話を伺いたいと思いますので。あ、申し遅れましたが、私の名はサクラと申します。以後、お見知りおきを。」


 そんなこんなで山賊さん達に連行?されることになった。

 結局真相は聞けなかったが、どうもこの人達はリサを知っていて、というか何やら崇めていて、それにくっついている不審者を野放しにはできない、という感じのようだ。

 とはいえ、こうしてようやく人に出会えたのは前進だよな。

 つい今しがた目の前で殺人劇があったけど、思考がまだ麻痺しているようで現実味がないんだけどね。

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