第3話 山小屋で小休止
林道とも山道ともつかない、緩やかな傾斜の道を歩くこと数時間。
もう陽も暮れかけて、このままでは道端で野宿となりそうな気がしてきた。
マジでコンビニどころか、一軒の民家もない。
数時間歩いて、そんな状況にも慣れてしまった自分が怖い。
とはいえ、だ。
11月末ともなれば朝晩は冷え込むし、野宿はヤバいよな。
そういえば、墓参りの時は季節外れの陽気だったから結構な軽装だ。
歩き続けて暑いのは今だけだし、休んだら冷えるのは確実だな。
何より腹減ったし。
「なあリサ、このままだと野宿になりそうだよ。」
「ワン、ワウン!」
そんな愚痴にまるで「大丈夫!自分がついてるぜ!」と言っているように答えるリサ。
そのふさふさモフモフの毛に包まっていればあったかいだろうな。
というか、真夜中の山ん中、一人じゃ心細すぎるしなぁ。
リサが居てくれるだけでそんなのも払拭できるのは有り難い。
ありがとうな、リサ。
と、少し先になんともご都合主義のように掘っ立て小屋らしきものが見えた。
近づくと、なんとも草臥れた、今は何も使っていない様子の小屋だ。
簡素な造りではあるが割と頑丈なようだが、造りは日本とは違う感じだ。
どちらかというと、昔の西部劇映画に出てくるような小屋だ。
それよりも気になるのは壁や柱にある、どう見ても鉈かなんかで切りつけたような損傷の痕と、黒く変色した、液体が乾いた痕だ。
周囲を見るとこの小屋以外に人工物らしきものは無く、当然のように人影というか、人がいる気配もない。
ま、ここは渡りに船だ。
一夜を凌ぐのに使わせてもらうか。
「すいませーん!お邪魔します!」
と大声で呼び掛けながら中に入ると、最初に目に飛び込んだのは……
白骨死体である。
骸骨である。
それが数体。
着衣を付けたまま白骨化し、結構な月日が経過しているみたいだ。
「中々にスリラーな展開だな……」
と言いつつも、夜露を凌ぐにはここしかないしな。
(おい、フェスターさんよ)
(お、何だい?普通においらに話しかけられるようになったな)
(そ、そうなのか? いや、そんな事より、この死体って?)
(うーん、よく分かんないけど、だいぶ時間が経ってる死体だね。
なんか、殺されたっぽいね、魂は欠片も残ってないから、今はただの骨だね!)
(おそらくですけど、この辺りで悪さしているっていう山賊ではないですか?)
山賊?そんなのが闊歩しているのか……
(気を付けてくださいね、タカヒロ様。)
(もっとも、ちょっとやそっとじゃ死なないと思うけどな!)
(おお?、俺の名前って教えたっけ? )
(結構融合が進んできましたので、あなたの思考記憶もリンクしてきているのですよ。)
(な、なるほどねー、わかった、ありがとう。)
まぁ、何にせよここで一休みだな。
「すんません、お邪魔しますよってに。」
と、その骸たちに断って中を検めてみると、どうも生活空間というよりは休憩所か道具置き場小屋みたいな感じだな。
外観とは裏腹に、中は小上がりみたいな場所もあり、ちゃぶ台みたいなものもある。
土間、なんだろうか、そっちにはいろんな農工具とテーブルもある。
やっぱり、農家さんの休憩小屋なんだろうか。
どうでもいいが、中身はどこの国の空間なのかもわからないくらい、いろんな様式が混在しているようにも思えるなぁ。
すでにほぼ陽は落ちて暗くなってきているので、暖炉っぽい物にそこらへんの可燃物を放り込んで所持しているライターで火を灯す。
タバコは吸わないんだけど、墓参りで線香に着火するのに必要なので所持していたんだ。
当然ながら、なのか照明とかは無い。ホントに電気のない、昔の生活様式の空間だな。
一応ランタンみたいなものはあるが、これ油が切れてるな。
警戒していたリサも、周囲に脅威がないのか落ち着いているのでここでようやく一息つけるだろう。
「疲れたー。とりあえず飯食うか。」
と、バッグの中にある、コンビニで買っておいたおにぎりとサンドイッチを取り出してみる。
所持している食料はこれとバランス栄養食ひと箱だけだ。
なのでおにぎりにするかサンドイッチにするか選択しないとな。
この先まだまだ人気のない道が続くなら、どちらかは残すべきだし。
若干体力も確保しないといけないのでここはおにぎりを選択しよう。
3個入りのおにぎりパックが2つ。
なんでこんなに買っていたかというと、朝ごはんと昼ごはん用だった。
結局、子供たちと合流したところで喫茶店でモーニングを頂いたのでそのまま残っていたわけだ。
では頂くとする、んだが、ここには俺だけじゃなくリサもいる。
俺よりも大きな体躯なので腹も減っているだろうし、ここは一緒に喰うべきだよな。
「リサも食べるか?」
と問いかけると、何やら不思議なものを見るようにおにぎりを見ている。
「おにぎり知らないのか? 大丈夫、俺が好きな食いもんだよ。ほら。」
といいつつ俺がおにぎりに食らいつき、一個をリサに差し出す。
スンスンと匂いを嗅ぎつつ、俺がおにぎりを頬張る姿を見て、食べ物と認識したようだ。
「ほら、食べな。」
「ワウ!」
と言うなり、大きな口を開け、バクッ!と俺の手ごと口にした。
「おーい!俺の手は食うなよ!」
と、とっさに言ったが、リサには小さすぎるおにぎりだけを口にするのは無理ってもんだ。
リサもそこはちゃんと考えているようで、口にいれた俺の手を舌で舐めつつ、おにぎりをキャッチしたわけだ。
ま、手はべとべとになったが、これはこれで面白いと思ってしまった。
結局、3つずつおにぎりを食べて、休む事にした。
まぁ、まだ頭の中は整理できていない、というか納得も理解も追いついていない。
が、休まない事には何ともならないし明日も歩かないといけないようだし。
リサが体を横たえ、こちらに来いとばかりに声をだすので、遠慮なくリサに寄り添い体を休めた。
ここでようやく一息付けたのか、若干センチメンタルな思考が沸き立ってきた。
離ればなれになってしまった子供たちの事。
仕事の事。
そして、この現状とこれから先の事。
子供たちの事は、もう成人しているので生活の面では心配はないが、つい3年前に母親を亡くし、そして今日、目の前で父親が消えたという事象は、あいつらに更なる悲しみを与える事になってしまった。
何か、申し訳ないというか、そんな事しか頭に浮かばなかった。
つい、目頭が熱くなり、ポロっとしょっぱい水が目から零れた。
いかん、とにかく今は寝よう。
リサが慰めるように顔を舐め、尻尾で俺を包む。
「リサ、ありがとうな。」
「クゥーン」
そうして、俺は睡魔に身を委ねた。
翌朝、まだ体の痛みは続いているが、それ以上に何と足が痛い。
筋肉痛のようである。
いや、普通に言って昨日の歩行で今日筋肉痛になることはあり得ない。
何故なら、俺はもうそんなに若くないからである。
50も過ぎた、もはやジジイなのだ。
筋肉痛になるなら、明日の遅く辺りにクるはずだよな。
ま、気にしても仕方がないので起きてみると、昨夜は気づかなかった建物内の様子が良く分かった。
白骨死体はそのまま地べたに転がっている。
簡素なテーブルにはおそらくこの人達が使っていたであろう道具類が転がっていた。
ふと見れば、割れた手鏡があった。
寝ぐせがないか確認しようと自分の顔を映したのだが……
びっくりした、誰かと思った。
いや、確かに俺の顔なんだけど、何か違和感が半端ない。
どう見ても顔が、若返っている。
30代の頃くらいの顔、肌つや、目尻の皴も無い。
これは……やっぱ夢だな、うん、間違いない。
気を取り直して、小屋を出ることにした。
一宿の恩義を、骸骨たちに手を合わせる事で果たす事にして、俺はリサと一緒に再び歩き出す。
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