第17話 波に攫われないように


 さてどうしたものか…?


 幽霊に戻り、死んだ場所であるハナウマ湾に戻って来た。

何故か体が重く感じられ、まるで体が砂の中に埋まっていくかのように感じる…

私の何かが変わろうとしているのか? ついに成仏の時がきたのか?


 ここにいつ来たんだっけ?なんだか色々なことが頭の中でぼやーっとしていて白い靄の様に広がっていく…考えることもフワフワと砂と一緒に沈んでいく…でもなんだか心地が良いな。


―――ああ、このまま……


―――……ん?…これは?……遠くから感じる暖かいような感覚……


―――何だろう??? 何度も何度も…胸をくすぐるように…ひっかくような?


 何か忘れている…大事な……? とてもとても大切な…

あれ?……なんだっけかな? 

 足元が砂に埋もれていく…何かを考えたいのに波が来るたびに足の裏の砂が波に攫われて行って倒れそうになる……このまま身を任せて砂と一緒に…



―――違う…嫌だ…!


 足に力を入れるんだ!……踏ん張れ!! そうだ、波と一緒になんかならないように…私には大切な―――


「……サチ!!!」


 ああ、そうだ……確かに聞こえた…あれは…



「―――コナー…!!」


 コナーが近くにいる! いつもの優しい声が少し違く聞こえる、でも確かにコナーの声だ…波にのまれそうになっている場合じゃない!戻らないと…


―――私の大切なコナーの元に!!!


 波打ち際にいたはずなのに今はまるで大波の中にいるようで何も見えない…

ああ、あんなに願った成仏の時が今⁈ もう…タイミング!!

いや…こんな時だからコナーの大切さに気が付いたのか…、あんな風に私を探しているコナー…近くにいるのに遠くに引き離されそうだ…


 もうお祈りやらお願いなんてしている場合じゃない…、自分で何とかするんだ!

思い出せ!!! あの感覚…幽霊でいた感覚、いや…ララちゃんの中にいた時の感覚!…集中してあの瞳を思い出そう…あの…大きな緑色の雫……目を閉じる…



―――見えた…!!! 


 まるでハナウマ湾の遥か上空から下を見下ろしているような…それとも海の中から見ているのか…自分の意識がバラバラに散らばっているような…でもあの緑色の瞳がこちらを見ているのは分かる…もっと……もっと集中するんだ!




―――体中がざわめくような感覚…新しくて懐かしい……



波の音


全身をくすぐるような心地よい風


綺麗な緑色の葉の間から時折目に当たる日差し


誰かの暖かい気配


…そして…聞き慣れた優しい声



「……ララサチ…起きた?」


 目を開けるといつもの様に大きな暖かい手が私の頭をポンとたたく…


「……おはよう?」


「…うん…良かった……心配、した」


 言葉に詰まるコナーの声がどれだけ心配したのか分かる…見上げると優しい笑顔、

うん、この角度…いつもの高さ


「…ごめんね、もう大丈夫だよ…だと思う…」


「………」


「…ところで、ここハナウマ湾だよね?」


「うん、子供の時に来ただけだから…久しぶりに来たよ、ララがね…ここに連れて来てくれたんだよ」


「…ララちゃんが?………」


「うん、そう!」


 そう!って…猫といる男………綺麗な砂浜にキャリーケースに入った猫と一緒に座っている…変だろ………こんな観光地で何やってるんだ⁈ コナーが言うにはキャリーケースにビーチタオル掛けて来たし、誰も猫を連れているなんて思わないから大丈夫だよ、って何が大丈夫なのか分からないが…とにかく、ララちゃんが大人しい猫で良かった!


「綺麗だね、ここで死ぬ人がいるなんて…」


「…ぷっ…そうだね」


 コナーの何気ない一言に思わず笑いながらしばらくハナウマ湾の美しい景色に心を奪われて二人でそのまま座っていた


「…ララがね…キャリーケースに入ってね、行こうって誘ってくれたんだ…本当に偉い子だよ…僕は…ただただ愕然とするしかなかったよ、でもララと外に出たらハナウマ湾のことが真っ先に頭に浮かんだんだ…」


「…そうなんだ…あんなに成仏したかったのに…怖くなっちゃった…」


「ララサチはずっと僕といればいいよ…」


「…うん…」






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