第15話 窓の向こうの砂浜



 今日はコナーが仕事に行った後に雨が降り出した。ハワイでは雨が一日中降り続くことは滅多になく、すぐに止んで何もなかったように晴れることが多い。


(今日は結構降るなぁ…あ、コナー濡れなかったかな?)


 コナーは仕事場まで自転車で行っている、コナーが出掛けたすぐ後に雨が降り出したから心配だ…窓から雨が降っているのをボーっと見ながらコナーのことを考えていた。



 コナーがいない時は家がシーンと静まり返っている、外から聞こえる人々の生活する音だけが聞こえる…以前は自分もあちら側ににいて日々の生活に追われていたのだと思うと、今のこの状況は不思議そのものであって現実なのかさえも分からなくなる…でも、確かなことは今のこの生活はとても気に入っていて…出来ればこのまま…     ―――考えてもしょうがないことが繰り返し頭に浮かんでくる……


 雨の音が心地よく頭に響いてくる…窓越しに見ていた雨から窓に映し出されている自分に焦点が合う…


(……猫…、なんで…?)


 ララサチが見つめている、今は自分が中にいるとはいえ…なんて綺麗な猫なんだろう―――


 ララサチの瞳は相変わらず大きな雨の雫の様で…目が離せなくな…る……


―――雨の音だけが頭に鳴り響く様だ…なんだか…体がフワッと……


「……え⁈⁈」


 気が付くと私は上からララサチを見下ろしていた。




 今の私は幽体なのだろうか? 下を見るとララサチが…いや、今はララだけか…私の方を見ている、相変わらず視えているのだ…なんとも言えない感覚だ、何カ月もあの体の中で共に行動していたのにいまは別の所から見ているのだ、ララサチもそう感じているんだろうか?じっと私の事を視ている。


「…出られたんだ、こんなにあっけなく…」


「ニャー」


 そうだね、とも言っているのだろうか?ララも自分の体から何かが抜けて変な感じなのか、不思議そうな顔をしている…

私もララを見ながら不思議な感覚に襲われていた…ずっと一緒にいたからなんだか自分がもう一人…と言うか分離した感覚だ。

 

―――とにかく体が軽い! 久しぶりの感覚……ん? なんだろう…???


―――引っ張られる…⁈



 何かに吸い寄せられる感覚から解放されて意識がはっきりとしてくると…

目に飛び込んできたのは透明な波が打ち寄せてくる真っ白な砂浜…


―――天国………ではなくてハナウマ湾だ…

そう、私はまた自分が死んだ場所であるハナウマ湾にいた…


「なっ…⁈」


 まあ、自分自身が不思議そのものなのだから…相当なものでも驚かない自信はあるが…猫から出た途端にここに飛ばされるとは…これって結構すごいと思うんだけど!

テレポートって…こういうこと? う~ん…、ここに戻された?


「……私、どうすれば???」


 私は一人浜辺で呆然と立ち尽くすしかなかった…

相変わらずここの浜辺は美しい、辺りを見渡してみるとそこにいるモノ達も相変わらずだ、別にもうここには用はない…帰りたい…


―――どこへ? …私はどこに帰りたいの?


 私の中で何かがはっきりとしてくるような感覚に陥っていると、目の端に何かが光るのを見た…岩の上で何かが光った…誰かがどこかで見つけてここへ置いて行ったのか…

 傷だらけになっているけど見覚えがある………


「……私の…指輪…」


 フフッ…高かっただけあってこんなに時間が経っても私の指にあった時とあまり形は変わらず… 懐かしい… 


 これが見つかれば成仏できるかも…なんて考えていた…

今、この指輪が目の前にあっても何も感じない…もちろん何も起きない…


 それよりも…私の頭に浮かんだのは…


「……イヤだ…成仏なんてしたくない…!…」








 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る