第37話 不意の遭遇 ②
勇真は「ふん」と鼻で笑ったが、機嫌は良いわけではないらしい。
「また汚い者を斬った……」と、ムッとした声で呟いた。
「た、助けていただき、ありがとうございます勇真さま!」
いじめられていた男子が地面に頭を付ける勢いで感謝を伝えた。
「頭を上げてください」
勇真はそう言うと、男子生徒の手を引いて、立ち上がるのを手伝った。
「まったく、容易く彼らの要望を聞き入れてはいけないと言っていたでしょう?」
「弱みを握られていて……親のことがバレたら、僕はもうこの学校に通えません……」
「それは確かに厄介です。でも、野原先輩はまた学則を破ったわけですから、今度こそ退学処分になるでしょう。それから連絡を断てば、問題ありません。ところで君、食事がまだなんじゃないですか?」
「え、あ、はい」
「昼休みはもうすぐ終わってしまう、先に戻ってください」
「分かりました、ありがとう、本当にありがとうございます」
男子生徒は何度も頭を下げながらその場を去った。
そして現場に残ったのは亮と勇真の二人きりになった。亮は勇真が不良たちを、なるべく傷つけることなく戦闘不能へと追い込んでいくその腕を見て、感心しきりだった。
「お前、凄いな」と、亮が勇真と目を合わせていった。
対する勇真は、明らかに格下を見る目で亮を見て、薄ら笑いを浮かべる。
「滅相もない。それに比べて貴様は随分と滑稽だったな」
「滑稽……?」
声の色から、侮蔑されているのが分かり、亮も険しい声音で返す。
「あんな連中相手に小賢しい嘘をついていたが、通じるとでも?」
「学生の、普通の対応だろ」
「普通の学生であればな。貴様は普通の学生ではないだろう?なぜその力を使わない」
「どう使おうが俺の勝手だろ、人間を撃ち殺すためにこの力があるわけじゃない」
「笑止。どうせ肉眼では見えない武器なんだから、使い方次第ではチンピラ数人追い払うくらいわけないだろう。人を助けたいと言いながら中途半端な覚悟しかない貴様は本当に情けない」
「俺は……」
勇真は亮の言葉を断ち切るように「は~ぁ」とわざとらしい溜め息をついた。
「なぜ
言い訳はいくらでもあったが、亮は何も言い返せず、ただ不満を目に浮かべてみせるだけだった。その言い訳を口にしたら、本当に優月を守る資格がなくなるような気がした。
勇真の肩が、亮の肩のすぐそばを通って去っていく。
それから数分その場で待ってみたが、優月は現れなかった。
昼休みが終わるゴングを一人で聞きながら、亮はこの場に優月が来なかったのは幸いなことだと思った。あんな危険な場所に彼女を近付けるわけにはいかない。だが、優月はなぜ来なかったのだろうという淡い疑問は、亮の心の中に渦を巻いた。
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