第36話 不意の遭遇 ①
その頃、部活棟の自販機コーナーに着いていた亮は、急に悪寒を覚え、耳が痒くなり、「ハッッックション」と盛大なくしゃみをした。
制服に着替えた後、
しばらく経っても優月は来なかった。
「遅いなぁ、誰かにメシ誘われたかなぁ……」
待ちきれず、亮は先に裏小路へと向かうことにした。
だが、その裏小路から物騒な声が聞こえてきて、亮は身を潜める。
「だからさっさとMPディバイス出せよ、今月の金、まだだろ?」
「ご、ごめんなさい……もう、お金ないです……」
「はぁぁあ?確認させろよ」
亮は建物の角に隠れて、様子を窺った。
五人の不良が一人の男子生徒を囲んでいた。リーダー格の男は髪を金に染め、シャツをだらしなく出して、耳にはピアスが付いている。他の男子たちは他校のブレザーや個性的な学ランを着て、髪をグレーや青に染めたり、長く伸ばしたりしており、制服のブラウスの中に喧嘩上等と書かれたTシャツを着ている。不良の一人がバットを肩に構え、「ハハッ」と笑った。
「金がないならしょうがねぇよなぁ~。お前の母ちゃんがどこで働いてるか、学校中に触れ回ってやるよ」
逃げ場のない男子生徒はその場で四つん這いになり、目からぼろぼろと涙を流している。
「い、あ、ゆ、許してくださいカズさん。僕、もう本当に金がないんです……」
――2年7組の野原和博か。噂には聞いてたけど、他校の不良と組んで金を強要してるのか。でも野原は停学中のはず……。もう復学したのか、それとも不法侵入?予想外だな……こんなところに優月が来たら……。
和博が男子生徒の顔を蹴った。
無抵抗なその男子は、そのままシャツの襟首を掴まれる。
「メソメソしてんじゃねぇぞ」と和博が恫喝した。
「自分で画面出さねぇなら、もっと酷いことになるぞ」
「わ、分かりました……」
突き飛ばすように地面に下ろされた男子は慌ててMPディバイスを操作し、電子マネーの残金画面を見せる。
「チッ、まだ50ネオドルあるじゃねぇかよ」
10ネオドルあれば、サンドイッチが2個とペットボトル一本を買って少しお釣りが来る。彼にとってその50ネオドルは生命線そのものだった。
「それは……今週の食費です……」
一部始終を見ていた
もちろん、オカスソリスを使えばチンピラ五人くらいは容易い。むしろ容易すぎて相手に命はないだろう。それに、人間の自分が、人間を相手に断罪するような自惚れた真似はできない。
そう分かっていても、目の前で起きていることをただ見ているだけなのも気に入らなくて、亮は飛び出した。
「おい、止めろ!」
「は?テメェ誰だよ」
「名乗るつもりはない。卑怯な手口で金を出させるなんて許さない、今すぐ止めろ」
「何だコイツ、喧嘩売ってんのかコラァ!」
青髪の不良が威嚇するように言ったが、亮は拳を握り、さらに大きな声で言った。
「ここで見たことは先生に報告済みだ!」
「チッ、面倒くせぇことしやがって!!」
他校のチンピラたちは息巻いたが、和博は据わった目で亮を睨みつけた。
「嘘つくなよ。お前の言ってるセンセイってのはどこだよ、ホントはいねぇんだろ?」
亮は心の中で舌打ちした。ハッタリで退散するほどヤワなチンピラでもないらしい。仕方なく、亮は眉根を寄せて不良たちを睨み返した。
「どこの誰か知らねぇけど、俺の邪魔する奴は問答無用で後悔させてやるよ。お前ら、やれ!」
和博の号令で、全員が動き出そうとした。
だがその時、カシーン、カシーンと、金属的な鋭い音が二度響き、二人の不良のズボンが脱げ落ちた。
「うお、何だ?!」
「あ、あいつがやったのか?」
チンピラの一人が亮を見て言った。目の中で恐れがちらついている。
「カズさん、こいつ何かヤバイ超能力とか持ってるっすかね?」
「違う、彼は関係ない」
凜々しい声がして小路の反対を全員が振り返る。恐喝を受けていた男子生徒の前に立っていたのは、神宮寺勇真だ。
「先輩たち、随分派手なことをやっていますね」
真剣のように冷たく鋭い空気を纏っている勇真を見て、和博の肌が粟立つ。
「お前……生徒会の神宮寺勇真か……」
和博の言葉を聞いて、周りのチンピラたちが弾かれたように勇真を睨んだ。
「生徒会?へぇ~、俺ヒーローごっこしてる奴が大嫌いなんだよねぇ~」
「こいつ、くたばれ!」
不良の一人がバットを振りかざし、勇真の後ろから奇襲をかけようとした。
だが、そのバットが振り下ろされるよりも一瞬早く、勇真は鞘の先端でその不良の腹を突く。素早い一撃をみぞおちに食らい、バットの不良は呻きながらたたらを踏む。
勇真はさらに振り向き、一歩踏み込むと、不良に一太刀食らわせた。
刀を腰に収めると、不良の着ていたブレザーの裾が裂け、その場に倒れた。
三分と経たず、三人の不良が戦闘不能に陥る。
他校の不良がポケットの中のカッターを伸ばし、こっそりと動き出す。
だが、勇真はその動きを見抜き、余裕を持った動きで襲撃を避けると足を引っかける。不良が躓き重心が崩れたところを狙い、手刀で背骨を打った。
四人の苦しげな声が聞こえるなか、立っているのはもう和博一人になった。
「先輩、もう残っているのはあなた一人ですが、まだ抵抗されますか?」
和博は周囲でくたばっている仲間を見て状況を理解し、不本意ながらもこう叫んだ。
「て、撤退だ。覚えろよ!クソボンボン野郎!」
ズボンをずり下げていた二人は、片手でズボンを持ち、もう片手でバットの不良を担ぎ上げる。和博はカッターの不良を肩に担ぎ上げ、そそくさと現場を離れ去った。
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