第7話 月高の名人たち ⑤

「例えば、今学期入ったばっかりの英語の先生。あの、神宮寺財閥の長女の神宮寺咲月=キャサリン先生とか?」


 亮は隆嗣のセンスを疑った。


「ビシリン!?いきなり先生かよ」


「いや、最後まで聞いてくれ。キャサリン先生はブリタニア州の名門大学院でダブルメジャー修士を持つ才女だ。世界オリンピックではアーチェリー種目で連続二大会出場し、優勝。海外の試合で多数のトロフィー持ち。今は月高で洋弓部の顧問をしているが、葉月ちゃんですら及ばないほどの才媛だぜ?」


 申し分ないだろ?と言わんばかりだが、一方の亮はといえば、母国語以外の才能がない。英語では赤点からの追試という底辺軍団に属している。

 そのため亮の咲月との一番の接点といえば、彼女の補習を受けることだった。


 そんなキャサリンは、葉月と似ているかというとそうではなかった。輪郭こそ欧米系よりもアジア人よりの丸顔だが、長身に金髪、シルバーに近い碧眼、高い鼻、白い肌と、石膏像のように立体感のある外見をしている。これでもし流麗な日本語が話せなければ、由緒正しい神宮寺財閥の血を受け継ぐ令嬢とは信じられないだろう。


「海外まで出て色んなもの見てきた先生が、今さらただの男子高校生なんか眼中にないだろ」


「それこそチャレンジしてみなきゃわかんないだろ?補習だってよく受けてるんだしさ」


「ダブルメジャー修士の才媛が、高校レベルの英語すら補習が必要な奴と付き合いたいかよ」


「だからわかんないじゃん。年の差だって七つだし、そんなの大人になったら大差ないじゃん?今は秘密の恋で愛を育んで、卒業後は好きなだけ人前でもラブラブすればいいんだし。お前年上好きそうだし、よくね?」


「よくね?じゃねぇわ。うちのクラスのバカップルだって、授業中ビシビシやられてただろ。告っただけで射貫かれそうだわ」


「お前ほんっとに恋バナだけは否定するよな~。でもさ、キャサリン先生もそういうとこあるし、お前となら似たもの同士、通じ合うものがあるかもじゃん?」


 ライトは頬杖をついたまま「はぁ~~」と重い溜め息をついた。


「ムリムリ、やめ」


「何でそんな簡単に諦めちゃうんだよ」


「100%ありえないって。結果が見えてるのにぶち当たっていくのは勇敢なんじゃなくて無謀なアホだろ」


「そんなことないって!恋の力を信じれば、100%不可能に見えてることでも、奇跡は起こるんだって!」


「じゃあお前はその「奇跡」ってやつが起きたことあんのかよ」


 隆嗣りゅうじの追撃がひるむ。言い過ぎたかと、亮は譲歩した。


「……先生はハードルが高すぎるだろ?」


「んーじゃ難易度下げればいいのかよ」


 隆嗣は目を閉じてこめかみをグリグリ押しながら、眉を寄せた。「あっ!」と目を見開き、指を弾く。


「そーじゃん、いたわ一人。うちのクラスのチョ~人気スポーツウーマン、我妻碧琴あがつまみこと。葉月ちゃんと同じテニ部で、シルバーライトペアも組んでさ、美人ペアだって話題にもなった!」



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