転生~幼年期 第13話
13.初めての魔物①
アワージへの長閑な帰路、狙いのつけ方にまだ改良の余地はあるものの、高い命中率に満足していた。
さて、戻ってから何を頑張ろうかなぁなどと思案していると、馬車が止まった。
「旦那様、外の様子が変です。前方の林から複数の鳥が飛び立ちました。こちらに来てもらえませんか」
御者をしていたコバからニアマ父さんに声がかかった。
「すぐ行く。皆は馬車の中にいてくれ」
ニアマ父さんは御者台に移った。
二人は海岸とは反対側の進路方向の林の様子をしきりに探りながら何やらささやいているので、俺もなにげなくその方向をみていたが何も変化はない。
(何が起こった。魔物か?盗賊か?やべぇ。なんか緊張してきた。どんどん胸が苦しくなってくる)
その後新たな変化が起きなかったのか、ニアマ父さんは腰に佩いた直刀を確かめながら御者台に残ると落ち着いた声音で俺たちに声を掛ける。
「慎重に進んでいこう。皆落ち着いて。大丈夫だ。父さんがついている。何があってもお前たちを護るからそんなに不安な顔をするんじゃない。安心しろ。コバ、行くぞ」
コバが慎重に馬車を進める。
緩やかな速度で進みだした馬車の中で、ナオ姉とカズチャと俺は、カオを抱くイスリ母さんの傍に無意識に寄り添った。カズチャと目が合った。顔が蒼白だ。きっと俺も同じだろう。カオはすやすやだ。
「二人とも安心して。お父様は商人だけどとっても強いのよ。何も怖いことはないわ」
「そうよ、父さんは強いんだから安心しなさい」
イスリ母さんは普段と全く変わらぬ落ち着いた温和な調子でやさしく声をかけてくれた。今にも鼻歌を歌いそうだ。ナオ姉も普段より緊張した面持ちだがカズチャや俺のように蒼白な顔色ではない。
(なんだろう。少し落ち着いたかな。母さんんもナオ姉も父さんを心底信頼してるんだな)
再び馬車が止まり、ニアマ父さんとコバが御者台から飛び出していった。
「ゴギャッ」
魔物なのか、不気味な叫び声が近づいてきた。
刃物で何かを叩き切っているような音と何か倒れる音が連続して聞こえ、やがて静寂につつまれた。
「コバ、馬車の警戒を頼む。儂は林の中を見てくる。」
俺はイスリ母さんに抱き着き目をつぶってただただ体に力を入れていた。外から聞こえる音が途絶えた。
「大丈夫、お父様は本当に強いんだから。多分、襲ってきた魔物はもう退治し終わってるわよ。今、魔物が出てきた林の中を確認に行ってるんでしょう。」
イスリ母さんは俺たちに声を掛けながらやさしく頭をなでてくれた。一撫で毎に俺の緊張と体の強張りが解れていく。
(ふ~、魔物の襲撃だったのか。前世も含めて初体験か……何もできなかった点は反省点だな。最低でも恐怖心は克服しないと戦うどころじゃないしな。まだ、前世で猛犬に追いかけられた時のほうが体が動いたか。走って逃げたからな。更に追いかけられたけど。それにしても、落ち着いてくると外の様子が気になるな)
緊張と体の強張りがが解れると、反省もそこそこに好奇心が膨らんできた。イスリ母さんから離れると馬車の窓から外の様子をみた。恐る恐る。
馬車の前方20m程先には何かが地面に横たわっていた。赤黒いシミとともに。小柄な人の形をした、だけど首から上のない何か。そして大きな石ころ状の物と赤黒いシミ。
(うわっ、あれが魔物の死体?うわっ、血が出たのか?うひゃ~どんだけ血ぃ出てるんだ?うわっ、首〇ょんぱかよ?それにしても一体何体倒したんだ?あれ?こいつらゴブリンか?やっぱり弱いのか?コバは?あれ?コバは?いるいる。意外と落ち着いてるなぁコバのくせに。そういえば魔石とかとれるのか?死体消えないな、あ、消えるのはダンジョン産魔物か。そういえばダンジョンあるのか?)
俺は恐怖から解放された反動からか、好奇心の趣くままにきょろきょろとあたりを見回すのだった。飽きることなく。しょーもないことを考えながら。異世界初の魔物との遭遇は、何もできない己の現状認識と尽きない魔物への興味をもたらした。
平成の営業マンは喉元過ぎれば熱さを忘れる、だ。何を言ってるんだって?しょうがないだろ?こんな修羅場未経験だしな。
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