第177話【しかし事実】



◇しかし事実◇


 ルクスの【雷斬衝らいざんしょう】は、オーデラ子爵の腹部に命中した。

 プレザの意表をついた技と、身体を影にした作戦で、一瞬だけ子爵の視線を上へ向けたのだ。

 その小さな隙を、ルクスは見逃さずに成功させた……僕の心配は、徒労に終わったのだ。


「こんな子供に……この我が、負けるのか」


 一歩、二歩……三歩後退し、ガクリと膝を着く子爵。

 大体の戦闘は一瞬でケリがつくと何かで読んだが……まさしくその通りだった。

 何合かルクスと子爵が剣を合わせた。それで、子爵が実力者だと理解した。

 腕前だけなら、ルクスよりも上だと思った僕は全員で戦おうと提案したが、プレザは任せろと言った……僕は、二人を信じられなかったのだろうか。


「貴方は俺に負けたんじゃない。貴方が支配する……【ルビーの町】の住人の思いに負けたんだ!!」


 切っ先を向け、ルクスは叫んだ。


「……むぅ!!」


 そうか……僕がプレザの潜入に加わったから、本来ルクス、ラフィリア、アルベルトの三人で行われる川でのイベントが、二人だけのイベントになった。

 僕とプレザが潜入した際、ルクスとラフィリアは……屋敷近くの【サンバル川】から流れる水質の謎を解き明かしたんだ。


「そうですわ。オーデラ子爵……貴方は、【ルビーの町】の女性を拐って手籠めにし、そしてやがて……心が壊れてしまった女性を殺害し……非道にも川に遺棄したのです」


 それは、【ルビーの町】の住人だ……プレザの、知り合いの。

 その女性もプレザと同じ魔術師であり、彼女は死の間際に、自分の身体に呪いをかけたのだ……自分の遺体から、水質を変化させる魔力が発生するように。


「彼女の遺体は特殊な魔力を発し……川の水質を変貌させたのですわ。そして、私のような魔力の高い人間は……それを感知できるのです」


 だから、外にいたラフィリア姉さんも気付けた。

 それをルクスに話し、そしてルクスは怒りを覚えたんだ。


「そうか、だから……こんなにも急に、そなたが」


「私を欲して、町にまで害を成す悪党を……許す訳には行きませんわ!こうして、頼もしい仲間たちが協力してくれて、貴方を……捕らえる事が出来る!彼女の思いを、無駄にはしませんわっ!!」


「ふん……ごはっ……しかし、この国は変わらんぞ」


 吐血する子爵、しかし……その言葉は。


「なんだと?貴様……聖王国貴族の身で、王家を愚弄するのか!」


 知っていて口にするのは、心が痛むが。

 しかし事実……この国の貴族は、多くが腐っている。

 そして僕の家も、リヴァーハイト家も同じ貴族……言われて嬉しい訳はない。


「リヴァーハイトの小僧……確か、レイシア殿下のお気に入りだったか。あの小娘、やはり好色だったか」


「「「!」」」


「貴様ぁぁぁぁ!!」


 その言葉に、知っていても血が沸騰した。

 僕だって、レイシア姫を推してはいない……しかし、これが正史の事実。

 アルベルトは彼女に恋をする……そして死ぬ。

 その正史の歴史に強制されるように、僕は怒りに震えたのだった。

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