第178話【怒れるアルベルト】



◇怒れるアルベルト◇


 「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」と叫び、僕は知らぬ内に【聖剣リィンステラ】を抜いていた。切っ先をシャラン――とオーデラ子爵の首元に突き付け、怒りに溢れる表情で言葉を投げる。


「その暴言!姫殿下に聞かせるまでもなく……僕が断罪してくれる!!」


 切っ先が喉に触れた。

 ツーっと赤いものが垂れ、深く差し込もうと力を込め――


「アル!!それじゃ駄目だっ!!」


「アル落ち着いて!」


「アルベルト君!」


 三人に押さえられるも、そのレベルとステータスで振り切ろうと。

 体格の違うルクスでさえ驚く程に。


「うわっ!な、なんて力……おいアル、キレすぎだって!」


「アルって、こ、こんなに力持ちだったのぉ!?」


「アルベルト君!冷静になって下さいまし!」


 いいや……このクソッタレな貴族を生かしてはおけない。

 本来の歴史なんて知ったことか……この男はレイシア姫殿下を愚弄ぐろうしたんだ、それだけで、万死に値する愚かな行為なんだ!!


 オーデラは僕を見上げながら。


「……ふん、まさしくあの好色女の好きそうな男子おのこだ!これで確定だ、座して滅びるがいい!!」


「貴ぃ様ぁぁぁぁ!!」


 僕から発生された魔力は……黒紫こくし

 【バニシングキャリバー】の、ミュゼとの契約の光。


「きゃあぁぁ!」


「くっ……ア、アル!!馬鹿野郎!!」


 ここまで言われては、聖王国の騎士が黙っている訳にはいかない!

 絶対に許してはいけないセリフなんだ……この男が口にしたのは。


「……な、なんだよこの……デカい魔力の波動は!」


「なんて高密度の魔力なの……これは、本当にアルなの?」


 僕にしがみつく誰かが何か言っているが、もう聞こえない、関係ない!


「くそ……アル……っ!!そ、そうだ!ラフィ、ミュゼさんがくれたやつ!!」


 このまま【バニシングキャリバー】を顕現して、一撃でこの世から消滅させてやる!!跡形もなく……消え去れ!!


「あ!もしかして、師匠せんせいはこの時の為にアレ・・を!?わ、分かったわ!」


 あーもう、声が邪魔で集中力が続かない。

 【バニシングキャリバー】が上手く顕現しないじゃないか……でも、別にいいか。

 これくらいの雑魚なら……【聖剣リィンステラ】で真っ二つに――


 その瞬間だった。

 僕の背後から回され、口元に当てられた何か。


「――アル!!」


「……んぐっ……ぁ……」


 一瞬で意識を刈り取られる。

 急激な眠気?睡眠薬か……いや、この血のような味。これは覚えがある……【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ8】の貴重品である――【ザクファレース】だ。


 ガクン――





「ね、眠ったのか……?」


「そうみたいですわね。ふぅ……焦りましたわ」


 崩れるように倒れたアルベルトを、ラフィリアが優しく介抱する。

 それを見届け、ルクスは【レイスターセイバー】を持ち子爵に詰める。


「……アルがあそこまで取り乱すような言葉を吐く貴方を、俺も許しはしません。大人しく、縛を受け入れて下さい、オーデラ子爵」


「……ふん、好きにするがいい……」


 ルクスはラフィリアが【ディメンジョンボックス】から取り出した縄を受取り、オーデラの腕を縛る。


「それにしても、アルベルト君があんなふうに怒りの感情を見せるなんて思いませんでしたわ……それと、あの液体はなんなのです?」


 プレザがラフィリアに問う。

 ラフィリアは、愛しい弟の銀髪を優しく撫でながら言う。


「えっと確か、【ザクファレース】という睡眠薬です。私の師匠せんせい……ミュゼさんに受け取っていたんです、ルクスが意識不明の時に」


 「万が一の時、アルに吸わせなさい」と……言われた時は、どういう意味か分からなかったラフィリアだが、そのまさかがこんなにも早く訪れるとは思わなかった。

 まるで見通していたかのような授けに、ラフィリアも……ミュゼの謎を不思議に思い始めていたのだった。

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