第172話【いつまで女装を?】



◇いつまで女装を?◇


 二階に上がった僕たちは、傭兵数名を倒して部屋を探す。

 僕は場所を知っているけど……ルクスに任せている。


「ここかぁぁぁぁ!」


 違うよ。


「じゃあこっちかぁぁぁ!」


 残念。


「なら……ここだ!!」


 ハズレだ。


「……くっ、どこだオーデラ子爵!」


「ルクス、私室はともかく、ダンスホールは分かりやすいんじゃないかしら」


 姉さんが言う。

 うん、確かにその通り。ダンスホールは一階階段から正面。

 実は通り過ぎてる。ここは宝箱もないから、実は真っ直ぐ進んでも良かったりする。しかし、もしかしたら何かあるかもと思って、黙って見てた。


「そ、そうか!じゃあさっきのデカい扉が!」


「きっとそうだ。行こう」


「そうね、アル」


「……」


「プレザ?平気、ですか?」


 悪徳領主オーデラ。

 プレザを執拗に狙っていたらしいが、【ルビーの町】も【サンバル川】も被害を受けている。大人しく縛に付けばよいが……難しいだろうね。


「ええ、ありがとうラフィリア。行きましょう」


 プレザは険しい顔をしている。流石に、領主を倒す事の意味を分かっているようだった。しかし、その覚悟を持っている、強い女性だ。


 そうして、僕たちはダンスホールの扉の前へ到達。

 扉の向こうから気配がする……数は。


「十人はいるかな」


 お!ルクスが扉の向こうの人数を当てた!!

 凄いぞ、いつもは考える前に行動するのに!小さな進歩だけど、これは嬉しいぞ!


「そのようだ……ん、どうしたルクス。それに姉さんも」


 なんだか視線を感じると思ったら、めちゃくちゃ見られてた。

 プレザも見てるな、変な笑顔で。


「あーいや、その恰好で行くのか?アル」


「う、うん……着替えならあるわよ?」


「……はい?」


「――ぷふっ……ふ、ふふふ……」


 プレザが吹き出した。

 え、ちょっと待ってくれ……着替えや装備は、ゼファーの馬車じゃないの?


「じゃーん、はいこれ」


 あああああああ!!【ディメンジョンボックス】があるじゃないか……!!

 くっ!忘れてたぁぁぁぁ!!


「き、着替えてから行くに決まってるだろう!」


「あら、そのままでも充分魅力的よ?アルテちゃん?」


「そうだぞアルテちゃん、似合ってるぞそのドレスもカツラも」


「うん!私も、妹が出来たみたいで実は嬉しかったのよね!!」


「や、やめてくれ!いいから姉さん、着替え!!それと剣も!」


 僕の顔は真っ赤だっただろう。

 まさか、こんな風にプラスになる不慮があるとは。

 だ、だけどこれはありがたい。自分で招いた女装という齟齬そごを、修正力が直してくれた気がする。


 着替え終わり。


「――よし、気を取り直して」


「そうね、アル」


「もっと見たかったなアルテちゃん」


「うふふ、そうですわね」


「……勘弁してくれ」


 恥ずかしい思いはしたが、このダンスホールの前まで来たら全て修正された。

 自分の意思でシナリオを少し変えてしまったが、それでもここで元に戻った。

 一旦の安心と、この先の不安。

 入れ交じる感情と共に、最序盤の敵……オーデラ子爵との決着を。

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