第169話【女装少年アルテちゃん】



◇女装少年アルテちゃん◇


 オーデラ子爵の屋敷に入れられると、僕とプレザは牢に入れられた。


「おら!入っていろ!!クソガキがっ!」


 ドン――と背中を蹴られ、僕はゴロリと転がる。

 その様子を見て、プレザが駆け寄り。


アルテ・・・ちゃん!!」


「……」


 怪我もなければ痛くもないが、か弱い設定だからね……今の僕は。


 大きな足跡の付いたドレスを、プレザは手でサッと払ってくれた。

 はい?そうですけど?僕はゼファーから買ったドレスを着てますけどなにか!?

 問題でもありますかねぇぇぇぇ!?


 プレザに睨まれると、傭兵の男は「けっ!」と唾を吐いて牢の扉を閉めた。

 その傭兵の姿が消えたのを確認すると、プレザは。


「平気ですの?アルテちゃん」


「……ああ、平気だ」


 アルテちゃん。

 その名前は、リヴァーハイト家の次女が生まれた場合に付けるはずだった名前らしい。騎士団に入る少し前、サヴィリスから聞いた。

 そんな設定は初めて聞いたけど、なんだか……知らない事が知れて嬉しかった。

 まさかこんな形で、女装するとは思わなかったけど。


「プレザ、あの傭兵に何もされなかったか?」


「ええ。大丈夫ですわ……ジロジロと見られはしましたが」


 そりゃあね……普段の衣装でも露出が多いのに、こんなボロボロに引き裂いて。

 黒い下着が常に見えてるようなものだ、誰でも見るだけはするだろうさ。


「アルテちゃんは平気ですの?思い切り蹴られて、それに、入口では顔を殴られていましたわ」


「……平気だ。それよりも、ルクスと姉さんの手引をしないと」


 ゼファーから売り渡しの際、男がプレザの身体を触ろうとしたので、体当たりしたら殴られたんだ……そのおかげでタイムリミット、プレザは無事だ。


「え、ええ……ですが、あの商人の方は本当に……」


 外でゼファーが問題を起こす、いや起こさせる。

 「この屋敷は壊滅させる……ここでの商売はもう出来ないぞ」と言っておいたら、ゼファーは「なら派手にやろうぜ♪」と好意的だった。


「大丈夫。時間は……もう直ぐだ」


 ドン……


「?……まさか、今の?」


 小さな爆発音。

 ここは地下だから、大きく聞こえないのは当然。

 よし……騒がしくなってきたぞ。


「プレザ、脱出する」


「分かりましたわ、でも……どうや――」


 バキィッ……!


「ん?どうした?」


「い、いえ……なんでもありませんわ」

(軽々と金属製の檻を……ルクス君よりも筋力があるのではなくて?)


 ニコリと笑ってくれたプレザ。

 ふふふ……好感度上がったかな。女装だけど。


「……よし、見張りも全部外に行ったみたいだ。プレザ、服はどうだい?」


「駄目ですわ、着られるものはありませんね」


 ここは牢屋だが、木箱も幾つか置いてあった。

 その中には衣服もあるはずだが……着られないの?

 僕も確認する。


「うわぁ……全部若い女性用、しかも全て……なんていうか、その」


 女性用なのにプレザが着られない、その意味とは。


「そうですわね、私では……胸囲が。うふふっ」


 その大きな胸では弾け飛んでしまう!!

 し、しかい男用もない、くそぅ……これじゃあ僕も女装のままじゃないか!

 え!?ちょっと待て!?もしかして、このままオーデラ子爵と対面するのか!?

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