第168話【こちらが商品になります!!】



◇こちらが商品になります!!◇


 ガタン――と、荷台が揺れた。

 くっ……ゼファーの奴、運転が荒いんだよ!


「平気ですの?」


「……何がだ?」


「い、いえ……」


 僕が視線を送るプレザは、衣装がボロボロになった……実に煽情的な姿だった。

 衣服が切り刻まれ、見える所が見えてしまっている。そんな危ない状態。

 そこまで肌を出さずともよかったのでは……とも思うが。


「僕はいい。それよりプレザ……貴女は平気なのか?あんな商人の作戦なんて、ろくなものではないと分かっていたはずだ。ましてや、そんな恰好までさせられて」


「ええ、ろくでもないのは察しましたわ……ですが、これしかないならやるしかありませんでしょう。商品でも奴隷でも、なんでもなってやりますわよ」


 下着が見えているが、プレザは気にする事なく言ってのける。

 それに、頬も赤く腫れている。ゼファーに殴られたんだ(平手)……この女が商品だと、敗北してさらわれたと思わせる為に。


「おぉ〜い!!聞こえてんだよガキ!」


 御者席から声が届く。

 どうやら聞かれていたようだ。


「黙れ商人。これしかないから乗っているが、仲間に危険が訪れる可能性のある作戦……本来なら許しはしないぞ!」


「……アルベルト君、ふっ……ふふふっ……!」


「ど、どうしたんだ……?」


 結構良い事を言ったつもりなんだけど、何故か笑われた。

 しかも吹き出すように、堪えきれずに笑われた感じだ。


「だ、だって。そんな格好いい事を言っているのに……恰好が……ねぇ?」


「なっ!!し、仕方がないだろ!僕しか適任がいなかったんだ!ルクスのゴツい身体じゃ到底無理だし、こんな危ない事を姉さんにさせるわけにはいかない!」


 僕はプレザにいきどおりを見せる。

 そう……問題は僕だ。本来、ここはプレザが一人で潜入するのだが、僕は個人的な意思で割って入ったのだ……女装をして。


「うふふっ、そうですわね。大事なお姉さんに、危ない目にはあって欲しくないものね。でも……私はいいんですの?」


 少し残念そうに、プレザは言う。

 しかし、僕は。


「何を言ってる……プレザを守る為に一緒に来たに決まっているだろう」


「……ぇ」


 本心だ。僕が七年で生み出してきてしまった齟齬そご、それが重なり、取り返しのつかない事態が起きてしまう……それを危惧し、僕は正しに掛かる。

 歴史を変えてしまっても、それでも同じ未来に進めば問題ない……シナリオよりも、今を優先する。


「おーおー、恥っずい事を言うじゃねぇのマセガキが」


「だ、誰がマセガキだ!!この……詐欺商人が!!」


「んな!!おいこらガキィ!!言ってはならない事をっ!帰ったら覚えとけよゴラァ!!」


「知るか!僕たちが潜入したあと、外の二人を頼むぞ……しっかりとやれ!」


「るせぇ!!誰に物を言ってんだ!」


 なんだかんだ言いながらも、ゼファーは協力してくれる。

 そして……


「おっと……」


 馬車くるまが停車した。

 ガチャリと後ろが開かれ、傭兵と見られる男二人が入ってくる。


「ほほう、お前が女を連れてくるのは初めてだな……商人」


「ええまぁ。この二人なら、子爵殿でも満足すると思いましてね……どうです、上物でしょう?」


「ふん。ん……?ほう、そうか……でかしたぞ商人。この女は、オーデラ様がご所望の女だ」


 当然だ。潜入なんだからな。

 しかし……この傭兵の男の一人、もしかして屋敷でのボス戦の男か?

 名前はなかったはずだけど、こんな見た目だったんだな。

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