第167話【ゼファーの作戦】



◇ゼファーの作戦◇


 オーデラ子爵の屋敷の傍で、僕たち四人は作戦を考えていた。

 そこへ、偽装した馬車くるまで訪れる商人……ゼファー・クリスタラー。


「よぉ!また会ったなお前さんたち、なぁにしてんだ?こんな場所で」


「えっと、確か……」


 ルクスは思い出そうとする。

 しかし流石ラフィリア。ルクスが答えに辿り着く前に答えてしまう。


「確か……ゼファーさんですよね、【パールの町】で会った移動商人さんの」


「おー嬉しいねぇ。お嬢ちゃん、オレを覚えててくれたか」


 ゼファー・クリスタラー。

 商人として、このオーデラ子爵の屋敷に来た……フリをする男。


「仕事か?」


 僕の言葉に、ゼファーは目を細めて。


「おーガキ。相変わらず生意気だな……ま、良いが。そうだよ、食料を運んできた。いくら悪どいとは言え、中の娘・・・さんたちには食わせねぇとな」


「なっ!それじゃあ……この屋敷には!」


 ルクスが憤りを見せ、ゼファーを馬から降ろす。


「お、おい兄ちゃん……落ち着けぇ!」


 と言いながら素直に降りるゼファー。

 ゼファーは詳しい話をしてくれるはずだ。

 しかしゼファーは気付く。セクシーなお姉様がいる事に。


「お?なんだ……こんなべっぴんさんが仲間になったのか?」


「あら、私の事ですわね?」


 ゼファーは目を輝かせて、プレザの前にひざまずく。

 そして何処からか、花を取り出した。


「そりゃあそうだろう……麗しいお嬢さん、花を一輪……どうぞ」


「それはどうも。ですわ」


 プレザは笑顔で受け取った。


「おい商人。話すつもりあるのか」


 この女好きめ。


「んだよガキ……目の前に綺麗な花があれば褒めておけ。男として当たり前のルールだぞ」


「えぇ……わ、私は褒められてないんですけどぉ」


 ラフィリア姉さんが何故か落ち込む。

 言葉通りに取ったのか、可愛い姉さんだ。

 しかし、ゼファーは。


「悪いね嬢ちゃん。オレはお手付きを褒める真似はしないんだ」


「お手付き??」


「なんの話だ?」


 気にしなくていいんだよラフィリア姉さん、ルクスもね。

 後、念の為に言っておくけど、まだお手付きじゃない……はず。


「商人、お前ならこの屋敷に入れるのか?」


「んあ?そりゃまあ、オレは商人だからな。んで?お前さんたちはなんでこんな木陰で涼んでるんだよ……つーか年上だぞ!お前はねぇだろが!」


「別に涼んでいる訳ではないですけど……俺たちも、屋敷に入りたくてですね」


 ルクスはゼファーの言葉をスルーして答えた。


「……ほぅ」


 その言葉に、ゼファーは今度はルクスを細めた目で見る。

 何かを見定めるような、値踏みする視線だ。

 数秒、彼はルクスをマジマジと見ていた。ルクスはキョロキョロと、自分が見極められているとは知らずに。


 そして。


「まぁいいぜ。オレの馬車くるまの荷台に乗りな……ただし、そこのべっぴんさんだけだ」


「はぁぁ!?」

「はいぃ!?」


 ルクスとラフィリア姉さんは声を上げる。


「……なるほど、そういう事ですのね」


「……」


 プレザは全てを理解したようだ。

 しかしここはシナリオ通り。これはゼファー発案による、プレザの潜入イベント。

 そして僕が危惧したばかりの、仲間の身に何かが起きたら……という、不安の種。

 回避する為に、僕はどうするべきだ……シナリオを壊さないように、それでも誰も傷つかないようにするには……どうすればいい!?

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