第165話【再びサンバル川(ショトカ)】



◇再びサンバル川(ショトカ)◇


 唯一の不安だったルクスの装備適性は、見事に超えていた。

 やはり、あの【ザァーヴァ】を撃退した事が幸いとなっていたようだ。

 これは嬉しい誤算であり、これでルクスが【煌星天覇斬こうせいてんはざん】を使用しても、あれ程の大怪我を負う可能性は激減するだろう。


 そして、実はルクスの装備以外にも獲得していた物がある。

 しかもそれは最近ではなく……初めてミュゼに【リベラスタの洞窟】へ投げ込まれた時に獲得していた代物だった。


「え……これを私に、ですの?」


「ああ。古い魔術書だ……解読すれば、強力な魔法を覚えられるはず」


 そのアイテムとは――プレザ・ミシス専用の、隠し戦闘スキルの書。

 解読とは言ったものの、ゲームでは使うだけで習得していた。こちらだとどうなるのか、試そうと思って。


「ですがいいんですの?こんな貴重な物を、新参者の私に渡しても……」


 心配そうにするプレザに、ルクスがデカい声で。


「……何を言ってんだよプレザ!仲間に新参も古参もないって!なぁアル、ラフィも!」


「そ、そうだな。受け取ってくれると嬉しいよ、プレザ」


「うん。プレザが強くなるのは私も嬉しいですよ!」


 ラフィリア姉さんも笑顔で賛成だ。


「……皆。ええ、分かりましたわ……旅の途中に、必ずや解析してみせますから!」




 そうして話を終え、二度目の【サンバル川】へ来た僕たち。

 モンスターは以前と同じ。しかし、ルクスの装備がエグかった。


 ザンッ――!!


「――マジか!!」


 創星装備、【レイスターセイバー】と【レイスターアーマー】。

 これがまた格段に強い。雑魚モンスターなんて、一撃で倒せる。


「すっごい!ルクス格好いいわっ!!」


 煌めく鎧に、金と銀の剣身の両刃剣。

 金と銀で半分に別れた剣は、金が魔法を斬り、銀が物理を斬ると言われている。

 実際に、魔法を半減させる効果もある。

 その都度持ち替えて斬らなければならないが、慣れればどうという事はないだろう。


「出番がなかったですわね」


「楽なのは良い事だ、行くぞ」


 その英雄の速い歩みに、僕たちは確かな自信を得た。

 いや……速歩きさせたのは僕だけどさ。しかしそうしているうちに、【サンバル川】はあっという間に攻略……何かの間違いで【ザァーヴァ】が出現することもなく、あっさりとショートカットをしたのだ。


 因みに、ルクスは退院したばかりの病み上がりなのだが……なんだろうね、この異常なタフさは。ここまで難なく来れたのが不思議、正直そこが驚きだったよ。





「おお!あれがオノデラ子爵の屋敷か……」


「オーデラ子爵よ、ルクス」


「【ルビーの町】領主……川に異常を与えたと噂される、悪徳領主ですわ」


 ルクスとラフィリア姉さん、そしてプレザの会話を聞きながら、懐かしさを覚える。このルクスの言い間違いネタ……実はプロデューサーの大田おおた氏が当時、仲違いしたディレクターの小野寺おのでら氏を参考に組み込んだ、ゲームを通した彼へのメッセージだったらしい。


 悪徳領主に見立てたディレクターさんの、横暴と暴言をいさめる為にやったそうだが、逆にごねたらしいよ。

 そこから二人の関係は更に悪化、チームを辞めた小野寺おのでら氏は、別の会社に行くも……結果は変わらず、同じように不評を買ってしまい、ゲーム業界の嫌われ者になったそうな。もしかしたら、大田おおた氏のメッセージに気付ければ、あるいは良い関係性になれてたの……かなぁ?

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