第8話【屋敷の中を見る】



◇屋敷の中を見る◇


 姉、ラフィリアに介抱されて、僕は再びベッドに横たわっていた。

 普通に考えたら情けない限りだけど、今は考える時間と調べる時間が欲しい。

 だから、ラフィリアがタオルを濡らしに行った隙に、僕は部屋を抜け出した。


 こっそりと、誰にも見つからないように。

 そして周囲を見渡し。


「よし、脱出完了だ。次は、っと……リヴァーハイト家には、複数のメイドがいたよな。しかも、後のシリーズでも重要キャラクターたちが」


 初出時では名前のないモブキャラだけど、イラストまで描き起こされている。リヴァーハイトメイド隊。シリーズ1作目から出演を続ける、有能メイドたちだ。

 その中でも、シリーズ3作目で名前が判明するキャラクターがいる。


 ツインテールの金髪、たわわな胸。

 際どいミニスカートのメイド服に身を固める、有能メイドさん。


 屋敷内を探していると、直ぐに。


「――いた!……ね、ねぇ!」


 思い切って声を掛ける。

 彼女は振り向きながらこちらを見た。

 うわ……凄い、メイド服の再現度が凄まじい……これ、当時2Dで三頭身だったキャラとは思えないな。


「え?……これは坊っちゃん、如何なさいましたか?」


 屈んで僕の身長に合わせる女性。

 確か年齢設定は……3での登場時に二十六歳だから、今十六歳だな。


「えっと……き、君の名前は?」


「はい?」


 今は1作目の初代が始まる七年前。

 モブとして出ていたこの子に、名前はまだ無い。

 だから、シナリオ外の歴史がどうなっているのか、興味があったんだ。


 怪訝けげんな顔をアルベルト、僕に向けるメイドさん。


「坊っちゃん、そういえばお嬢様が言っていましたが……どうやら頭を打ったとか、だからメイドの名も忘れてしまったのですね」


 眉を寄せて悲しい顔をするメイドさん。

 そうだけどそうじゃない。でもそういう事にしておこう。


「そ、そうなんだよ。だから、君の名前を教えてくれないか?」


 極力、ゲーム中のアルベルトの口調で話そう。

 彼は幼い頃から裏表のない設定だったし、少し生意気に聞こえる方がいいだろう。


「はい、坊っちゃん。私は……ドロシー・ウェズタリアと申します。ここ、リヴァーハイト家のお屋敷で働くメイドで、旦那様……オズウェル・リヴァーハイト様の専属メイドです」


「お……おぉ〜」


 完璧。名前も役職も、シリーズ3作目と同じ。

 現在の歴史は1作目のゲーム開始前だと言うのに、現時点のモブの名前まで完璧だ。

 やっぱり完全なゲームの世界という訳では無いのだろうか……考えられるのなら、ゲーム【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ】の世界観を踏襲した、異世界?


 アルベルト・リヴァーハイトの父、辺境伯オズウェルの専属メイド、ドロシー。

 シリーズ3作目の仲間キャラで、アルベルト・リヴァーハイトから剣を学び戦う、戦闘メイドだ。

 3作目は1作目の数年後を舞台にしているから……その時アルベルト・リヴァーハイトはもう、死んでいる。


 憧れていたゲームの世界とは言え。

 僕は、どうしてそんな世界に来てしまったんだろう。

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