第7話【死んだのだろうか、僕】



◇死んだのだろうか、僕◇


 屋敷の洗面所に立ち……鏡に映る、銀髪の少年を見詰める。

 【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ】1作目の仲間キャラクター、アルベルト・リヴァーハイト。その少年期と思われる姿だ。


 自分でペタペタと触る。顔を、髪を、手足を、身体を。

 本物。というか、これが今の僕の身体らしい。

 成長途中の少年……こう言ってはなんだが、立派なショタだ。

 という事は、下の方も。


 こっそりとズボンをめくり、息子を確認する。


「……お、おお」


 我が息子、未使用のまま退化する。


 毛も生えていないツルツルだった。

 身体を見れば、今は七歳くらいだろうか。

 となると、姉のラフィリアは三才年上だから、今は十歳か。


 つまり、ゲーム本編の開始まで、後七年という時間がある。

 僕は鏡に映る自分の姿を見ながら、改めて思う。


「いや〜……これって、やっぱり転生なのかな……それとも、ゲームの世界に迷い込んだ?」


 現実世界の僕、笹鷺さささぎ幾太いくたは死んだのだろうか。

 あの状況、ゲームがマスターアップ直前で?嘘だろ?信じられない、信じられなぁぁぁぁい!!


 ガタン……!


 鏡台に両手を着き、息を荒くする。

 段々と現実味を帯びる。荒い呼吸、心臓の鼓動、本物だ。


「はぁ、はぁ、はぁ……最悪だ、最悪だぁ!」


 初めて携わる事が出来たゲーム、その完成を見届ける事も出来ないまま命を落とすなんて。それに、死因は?

 僕は確かに、ヒョロくて不健康っぽいと言われる事もあったが、健康診断でも悪い所はなかったし、自覚症状もない。


「あーあー……どうなってるんだ、こんなまさか、転生?しかも、なんでアルベルト・リヴァーハイトなんだよ……中盤で、死んじゃうじゃん」


 鏡に映る銀髪の少年が困惑している。いや、僕だ。

 ゲーム開始まで残り七年。主人公の友人でヒロインの弟、しかし物語の途中で死んでしまうんだ。このアルベルト・リヴァーハイトというキャラは。


 長い歴代のシリーズ、リヴァーハイトの名が付くキャラは多い。

 なにせ名門で、実力も折り紙付きだ……しかし、メインでの死亡キャラはアルベルトのみ。


 一作目で死亡し、しかしその愛と勇気、とある女性への忠誠は女性人気を集めたんだ。アプリ板での実装時にはお祭り騒ぎで。SNSでは毎年誕生祭と命日が。


「ど、どうしよう」


 今までも考えた事はあるさ、転生とか転移とか、僕だって漫画やアニメが大好きな立派なオタクなんだから。

 だけど、まさか死亡するキャラに転生するとは思わないだろ?

 それならラスボスとか裏ボスとか、むしろ主人公になりたかった!なんなら女体化でもオーケーなのに!!


「――アル?」


「ひぃや!!ラ、ラフィリア……ね、姉さん?」


 背後に美少女。

 よかった、もうアソコは隠してた。

 独り言は……聞かれていないようだ、キョトンとしている。


「どうして疑問形なのよ、私はアルのお姉ちゃんでしょ?」


「うん。そ、そうだった」


「なにそれ、もう……やっぱりどこか悪いのね、よしよし」


 近付いて僕を抱き締め、頭を撫でてくれる。優しさに溢れた少女。

 さすが元祖ヒロイン。成人の儀で聖女の称号を得る、心優しき才女だ。


「……」

(どうしよう、ゲーム中のセリフは覚えてるけど)


 今はまだ、ゲームが始まる前だ。

 セリフなんて存在せず、なりきって乗り切るしかないのかな。

 でも……は、恥ずかしい。僕に演技は無理だよ。


「アル?」


 ラフィリアは僕を慈愛で包む。

 幼い姿とは言え、【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ】の初代ヒロイン。

 す、凄い、僕は……ゲームのキャラに触れているんだ。


 あーなんだか興奮してきた。

 もう転生とかどうでもよくなるくらい、クラクラと。


「……ア、アル!?」


「え?」


 生暖かい感覚。

 口や胸元に。それと、ラフィリアの服にも。


 そう、鼻血だ。

 さっきも何かにぶつけて鼻血を流したそうで、短期間で二回目。

 これ、本当にあの美少年剣士、アルベルト・リヴァーハイトなんですかね?

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