第6話【まさかまさかの】



◇まさかまさかの◇


 稲妻をまとう一角獣の横顔。それがえがかれたエンブレム。

 ゲームに登場するリヴァーハイト辺境伯家、その家紋が僕の視界に入った瞬間。

 僕の中である記憶がよみがえる。


 名門であるリヴァーハイト家の家紋が掲げられているのは、シリーズ全作品で共通の仕様だった。しかし、僕のいるこの場所は室内……屋敷に見える。

 高級そうなベッドに暖炉、ギラギラのシャンデリア、貴族であるリヴァーハイト家らしい、豪勢な作りの部屋だ。


「ねぇアル?どうしたのよ、ポケっとしちゃって」


「そうよ?やっぱりどこかを打って……可愛い頭かしら?ま、まぁ、木剣をぶつけたのは私なんだけどね?うん、たんこぶはないわね、顔面だし」


 美女は僕の頭をさわさわと触る。

 美少女も、心配そうに至る所を触ってくる……な、なにこれ?


「いや、あの……」


 リヴァーハイト家のエンブレム、それが屋敷の壁に掲げられているのは、シリーズ中でも1作目だけ(進行不能エリアにはもっとあるはず)……初代【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ】だけだ。

 でも、当時は2Dのゲームで、ましてや粗いドットで作られていたはずなのに。


 視界に映るこれ等は、もしかして高クオリティな再現とかなのかな?

 じゃあこの二人も、ハイクオリティなコスプレイヤーだったりするの?

 いやそれにしても凄いクオリティだ。でも、なんというか……これって。


「――そ、そうか……も、もしかしてドッキリかなにかですか?」


「へ?」


「どっ……きり?なにかしら、それ」


 二人は驚く。おお!なんという役作りだ。

 うん?いやまて、そう言えば僕の身体、声もそうだし、この髪もそうじゃないか。

 なんで真っ先に家紋を気にしてるんだよ僕は!それより先に自分の身体だろ!?


「えと……あれ?」


 リヴァーハイト家は、シリーズ屈指の人気キャラクターたちが集まる一家だ。

 よく見れば、この銀髪の女性……イラスト再現も完璧。

 そして聞けば聞くほど、声も声優さんにそっくりだ。

 むしろ、どうすればそんな深部まで再現できるのかと聞きたくなるレベルで。


「あらどうしたのアル、そんなに母の顔を見て」


 女性は恥ずかしそうに言った。


「母ぁ……!?」


「むー、お母様ばかりじゃなくて、お姉ちゃんの事も見てよぉ!」


「あ、姉ぇ!?」


 驚く僕を、グイッ――!と、美少女は首を掴んで強引に曲げた。

 コキン――と、短く骨の音が鳴った。


「――あがっ!」


「こら、ラフィリア・・・・・!アルベルトは頭を打ったと言ってるでしょう!」


「――痛ぁい!」


 ゴチン……と、美女。母親らしき女性は娘の頭を叩いた。しかもグーで。

 いやいやお母さん、それは今、この時代では絶対によくないですよ?

 今や一発でアウト、昔とは違って、ストライクカウントもイエローカードも存在しないんですからね?炎上しますからね?

 今やしつけもクソもない時代なんですから、だけどそんなアホみたいな子供がそのまま大人になって、そして痛い目を見るんですけどね?

 自業自得じゃそんなもん……じゃなくて!!


「……」


 「ふぇぇん痛ーい」と泣き真似をする美少女を見る僕。

 やっぱりそうだ。この二人の姿、昔のゲームの原画集に載っている。


 この美少女……ラフィリア・リヴァーハイトは、主人公である少年の相手役。

 つまり、【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ】シリーズ一作目の記念すべきヒロイン。元祖ヒロインなんだよ。


 そして美女は、ラフィリアの母親だ。名はサヴィリス・リヴァーハイト。

 リヴァーハイト家当主の妻にして、【銀閃シルヴァリオ】と呼ばれる凄腕の元・騎士……そして、アルベルト・リヴァーハイトの剣の師匠でもある。


 そして最後。この二人がアルと呼ぶのが、どうやら僕の事らしい。

 コスプレ大会なら、絶対に優勝できるレベルのクオリティの二人。

 そのロールプレイの相手をしていると思えば、つちかってきたゲーム知識も役に立つと思うけど……しかし、二人の綺麗な瞳に映る僕の姿は……どう見ても。


 そう、紛れもなく――アルベルト・リヴァーハイトその人だ。

 アルベルト、その少年期の姿。シリーズ1作目の中盤、とある女性の為に命を投げ出し、ラスボスに殺されてしまう、悲劇の人気キャラクターの姿だった。

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