第5話【目を覚ますと、そこは】



◇目を覚ますと、そこは◇


 光だ。眩しくて、目が開けられない……寝起きにはよくあ――


 ガンッ――!!


 目を覚ました瞬間、顔面に受けた衝撃。

 生暖かい感覚が鼻から口に……ああ、これは鼻血だ。

 何かが顔にあたったのか、いや……寝落ちして、顔面をデスクに強打したのかも知れない。結構痛いんだよね、あれ。


「――痛い」


 え、あれ?何だこの違和感。


「だ、大丈夫!?木剣が思いっきり顔面に直撃したけど!?」


 ん?誰だろう。僕に声を掛けてくれているのか?

 あ、駄目だ……それどころじゃない、これ――目眩で、倒れる。


 グラリ……ドサッ。


「わぁぁぁぁぁ!アルベルト・・・・・ぉぉぉぉぉぉ!?」


 はい?


 かすかに聞こえた、誰かを呼ぶ声が。

 その名前……確か……【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ】1作目の。


 声を掛けてくれた女の人だろうか、凄く揺さぶられる。


 それにしても、どうしてゲームのキャラの名前を。

 主人公の友人にして、ヒロインを除いた初めての仲間キャラクターだ。

 名はアルベルト・リヴァーハイト……物語の中盤、愛する女性を守る為にパーティーを離脱し、ラスボスに倒され命を落とす、シリーズでも屈指の人気の美少年剣士。


 そんな人気のある美少年剣士の名前を、どうしてこんなヒョロヒョロガリ勉眼鏡の僕に投げかけたのだろうか……


 そんな疑問を抱きながらも、僕は再び気を失った。

 あーあ……マスターアップ、どうなったんだろう。





「……ぅ……うぅん……」


 目覚めた。うん、完全に目覚めたよ。

 だけど、なんだこの感覚。

 視界が奪われている……これは、濡れタオルか何かで覆われているのかな?


 それになんだか、身体が軽い気がする。


「あ!!アルが目を覚ましたわっ!お母様っ、早く早く!」


「嗚呼アル……訓練中にぼーっとするなんて、もしかして熱でもあったのかしらねぇ?」


 女性の声だ、それとさっきのは子供?女の子の声だ。

 開発チームに、子連れのスタッフなんて居たっけな?

 それにしても、アルって誰だろう?


 う〜ん、【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ】にはアル……から始まるキャラは複数いるけど、あれ?そう言えばさっきの夢で、アルベルトって言ってたな。

 あ……その前に。


「く、苦しぃ」


 へぁ!?なんだこの声!!


「はっ!お、お母様!アルが死にそうだわっ!?」


「いやいや、流石にそこまでは……えっ――アル!?嘘でしょう!?」


 いやあのすみません、僕は笹鷺さささぎと申しまして。

 いやいやその前に、お二人は誰に何を言っているのですか?


「ぷはっ……!し、死ぬかと――!!えっ……!?」


 再度驚く、今度は声に出して驚いた。

 その僕の驚きは、自分の声帯から発せられた声が原因だった。


「ア、アル?どうしたの?」


「……え、えぇ?」


 僕の、声が違う。

 なんだ、この女の子のような声は。

 まるで変声期前の少年のような、そんな高い声だ。


 聞こえてくる声を無視して、僕は喉に触れる。

 細い……僕の身体もヒョロい身体だけど、もっともっと細い。


「ねぇアル?私もお母様も、心配しているのよ?無視は酷いんじゃない!?」


 いや、だからね!?


「あの……誰かと勘違いを――」


 ようやく目を開けられる。

 視界に映るのは、絶世の美少女と、美女。

 そしてチラチラと目に掛かる、二人と同じ銀色の髪。


「……へ?」


 二人共、どう見ても日本人ではない。

 ましてや知り合い……開発スタッフの誰でもなかった。


「変な子ね、我が愛しのアルベルトは」


「ねぇお母様、やっぱりアル、頭を打ったんじゃ……」


 キョトンとする僕。

 そんな僕を見て、美少女と美女は僕を両側から抱き締めてくれる。

 嬉しい状況のはずなのに、真っ直ぐ視界に映る物体に、心が揺れた。


 それは、とある貴族のエンブレム。

 その名はリヴァーハイト家、その家紋。

 【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ】でも人気のある歴代キャラクターを多数排出した、ゲームの花形。


 じゃあまさか、まさかっ――アル……っていうのは。

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