転生〜最初の町

第4話【ここはどこ?僕はいったい】



◇ここはどこ?僕はいったい◇


 あれ……?おかしいな、僕は社内開発室で……【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ8】の最終チェックの最中だったはずだ。

 なんて暗い場所なんだろうか、まるで海の底の更に底、深淵だ。

 何も見えないし聞こえない。なんだろうここ……どこなんだ、いったい。

 凄く身体がフワフワする、眼鏡まで浮いている気がするもん。無重力ってこんな感じなのだろうか。


 そんな感覚で、海に漂う海月くらげのように身を任せていた僕だったけど、その異様なシチュエーションにようやく気付く。

 自分の身体さえ見えない暗闇の中で、僕はふと思い至る……なに?この状況。


「――いやいやいや!!おかしいってこれは流石に!!」


 後はマスターアップを待つだけ、そうすれば神ゲーの復活(予定)。

 念願の最新作、【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ8】の完成だったんだ。


「こ、ここは、いったいどこなんだろう?」


 まるで魂が抜かれたかのように、身体が浮いているのだけは分かる。

 暗過ぎて何も見えなかったけれど、ようやく少しだけ、その詳細が判明しだした。


「なっ!!手が透けてる!足もだ!それに、滅茶苦茶光ってる!?何なんだこれ!」


 若干透けて見える自分の手足も、光のように輝く身体も、この世の物ではないような光景だ。というか全裸じゃないか、恥ずかしい。

 すみませんね、粗品程度のモノを見せてしまって。


「――そ、そうだ!!ゲ、ゲームは!【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ8】は完成したんだよね?まさか僕、寝落ちしたの!?こんな最終局面で!?そんな馬鹿なっ!僕は阿呆か!?」


 お、思い出すんだ。僕はマスターアップ直前、最終チェックを見逃さないようにPCの前に張り付いていた。他のスタッフさんにも連絡したし、プロデューサーの葛城かつらぎさんにも、イラストレーターのティルニーさんにも作曲家の神庭しんばさんにも、ライターさんたちにも集まって貰って、皆で完成を見守るって……言ってたはず。しかし、冷静になればなるほどに。


「あ、あれ?でもそう言えば……まだ誰も来てなかったっけ?僕、一人だけだったかな?」


 そうだ間違いだ。眠気でおかしかったのかも知れない。

 あれはまだ集合前で、誰も来てない開発室で僕は、別端末でβ版……つまり体験版で遊んでいたんだ。

 【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ8】は、複数のプラットフォームでプレイできる。勿論PCでも、プリステでもスワッチでもいいし、S箱でもオーケーだ。


 いやいや、そうじゃなくて。


「β版をスワッチで遊びながら、PC画面を見てたんだ。そうだ……そうだよ!」


 段々と思い出してきた……朝一で誰よりも早く出社(宿泊ルームで寝泊まり)し、他の開発スタッフを待ちながら体験版で遊び(バグチェック)、完成間際のPC画面に視線の釘を打っていたんだ。トントンと。


 そこでいきなり、ありえない程の眠気が襲って来たんだ。

 流石に三徹目、最終局面だから踏ん張ればいいって高をくくった、そのせいで。


 僕は真っ暗な宙に身体を投げ出して口にする。


「あーあ、寝ちゃったのか、僕は。じゃあ起きないと……でも、夢ってこんな感じだっけ?なんだか意識もはっきりしているし、こんな感触まであるし……まったく、誰か起こしてくれればいいのに」


 誰か、開発室に来た人が起こしてくれればいいのにと、そう思った。

 もしこれで目が覚めた時、もう既にマスターアップしていたら僕は泣くね、絶対に泣く。駄々をこねるように泣くよ。

 だってそうだろ?自分で言うのもお門違いだけどさ、【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ8】の開発を、一番真剣にやったという自負だけはあるんだ。


 【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ】の生みの親、大田おおた正蔵しょうぞう氏が亡くなって、僕がこの開発チームに誘われた時、命をささげる覚悟を決めた。


 まぁ……勝手に色々とやっちゃったから、プロデューサーの葛城かつらぎさんは煙たがっているかも知れないけど。でも、嫌われてはないと思うんだけどなぁ……仲間だし、皆。


「むぅ……それなのに皆、薄情じゃないかな?……ん、あれ??」


 おっと……だけどそろそろ目が覚めそうな気がする。

 なんだかスーッと、意識が離れていく感覚だ。

 これは逆に眠る時の感覚に近いけど……うん、分かる。


「……よし、目が覚めそうだ!」


 さぁ、目を覚ましたら皆で……神ゲー(予定)、【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ8】、完成の宴を開こうじゃないか!

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