第2話【笹鷺幾太について】



笹鷺さささぎ幾太いくたについて◇


 実際、物作りに命を賭ける人はいるはずだ。

 僕や他のチームスタッフたちだってそうさ。僕の場合、ましてや憧れの作品であり、いざチームになったメンバーの多くは、ゲームクレジットや雑誌インタビューなんかで見た歴代のクリエイターたちだった。

 だから気合が入らないほうがおかしいんだよ、僕に言わせればさ。


 でもって、僕は元・顧客なんだよ。

 発売当初ではないが、【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ】を初代からプレイし、子供ながらに攻略本を手書きで作る程にやり込んだ。

 グッズも当然かき集め、大人になってからは、金策と言われたアプリゲームにも、月に数万円は必ず課金した。多くて三十万くらい注ぎ込んだなぁ。


 イベントがあれば参加したし、そんな素晴らしいイベントを見て夢を抱いて、いずれは【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ】に関わりたいと願って専門学校へ進学した。

 当時は【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ6】の開発時期……5で失墜してからの暗黒期だった。


 そんな5も、6も7も、アプリも全部プレイした。

 クソゲーと言われて投げ売りされた5でさえ、僕は三本持っている。

 プレイ用、観賞用、布教用。ファンなら当然だ。ふ、布教は失敗したけどね。


 専門学校卒業後、部署は違えど開発会社に入社出来た。

 そこから【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ6】の発売、そして7が開発、発売される所を間近で見られて、僕は感動していた。

 そんな折、僕に吉報が入ってきた……アプリの開発情報だ。


 【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ】のアプリ板。

 歴代キャラ総出演のお祭り、いわゆるスターシステム。

 だけど、信頼を失ったファンたちは口を揃えてこう言う……「集金」だ。と。

 堕ちる所まで堕ちたゲーム、信頼回復は難しいんだなと、改めて思った。


 だけど、5でクソほど炎上した3Dモデルは見直され、声優も変更。

 戦闘システムも従来のスタイルへ戻して、発表された際には、称賛の声の方が多かった気がした。

 しかしそんなアプリゲームも、リリースから3年でサービスが終了した。

 最近は1年も持たないゲームも多くあるから、よくやったと社内でも少しだけ褒められていた。


 そんな時だった。初代からゲーム開発に携わっていた名物プロデューサー……大田おおた正蔵しょうぞう氏が亡くなったのは。

 彼こそが【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ】の生みの親であり、しかしクソゲーに堕とした張本人でもある。

 彼を戦犯では終わらせない……それが、現開発メンバーの総意だった。

 資金をかき集め、情熱を以って実力あるクリエイターたちを口説き、会社を説得し、一大プロジェクトとして、それは決定した。


 【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ8】。最新作であり最高傑作(予定)。

 クソゲーと言われた5から続く闇を払う、希望のソフト(予定)だ。


 僕がチームに呼ばれたのは、その【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ】への愛が、社内でも有名になっていたからだそうだ。良い意味でも悪い意味でも。

 初代からアプリゲームまで、モブを含む全キャラの詳細を記憶し、攻略本を自ら作成する阿呆……そういえば、そんな事をチームリーダーには言われてたなぁ。


 それが僕、笹鷺さささぎ幾太いくたの半生だ。

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