第49話 天使な息子を助けに向かいました

私はダンジョンをエドらと攻略していた。


ダンジョンの最深部、ラスボスのいるところだ。


ラスボスは巨大イノシシ型の魔物だった。


巨大イノシシが私に向かって突進してきた。


私はこれで最後とばかりに、爆裂魔術を見舞おうと手に魔力を込めたのだが、その瞬間立ち眩みがしたのだ。


「えっ」

こんなことは初めてだった。


その日は朝から何か調子が悪かったが、私は無視してここまで来たのだ。なのに、最後の最後にこんなことになるなんて。


私が額を押さえてしゃがんだところでイノシシが突っ込んできた。さすがの私も命の危険を感じた時だ。突然私は付き飛ばされていた。


地面に激突する。


激痛の中、慌てて後ろを振り返るとエドがイノシシに弾き飛ばされるのが見えた。


「エド!」

私は自分の大声ではっとして目が覚めた。


「お嬢様、大丈夫ですか?」

傷だらけのアリスが私に叫んできた。


周りを見渡すと、私はベッドの中にいた。


「どれくらい時間がたった?」

私がアリスに聞くと、

「一時間くらいです」

アリスが答えてくれた。


「メリーは」

「腹を刺されて重体です。爆発音が起こって第二皇子殿下が襲われているとの報告を受けて私が駆けつけている間にシャルル様が襲われたのです。それを防ごうとしてメリーは刺されて重体。シャルル様がさらわれてしまって、申し訳ありません」

アリスが頭を下げてくる。

「屋敷を出た私が間違っていたのよ」

私が首を振った。


「エドは?」

「重体ですが、命に別状はないかと」

「そう」

私はそれだけ聞くと体を起こした。

別に骨も問題ないみたいだ。

エドにまた助けられた。本当に情けない。


「お嬢様、そんな体でどうされるのですか?」

慌ててメリーが聞いて来た。


「シャルルを助けに行く」

私は立ち上がった。


「しかし、お嬢様。お体の調子が悪いのでは。生理が復活したのですよね」

アリスが真実をついてきた。


そう、妊娠中と出産後しばらくなかった生理が復活したのだった。


そして、生理期間中は私の魔力も弱くなり、体に変調を来すのだ。


そんな事も全く知らなかった子供の時に、ダンジョン内でいきなり生理が来て、死ぬ思いをした。その時はエドたちに助けてもらって、なんとか助かったけれど。


それ以来生理期間中は、極力無理はしないようにしてきたのだ。


生理の間は魔力も波があるが弱まり、体も変調を来すのだ。人によって違うそうだが、私は極端にその影響が大きいみたいだった。魔力はいつもの十分の一以下になり、威力も十分の一になった。

障壁の強度も落ちて、その展開のスピードも落ちるのだ。体の体幹強化も下手したら間に合わずに今回のような無様な結果になるのだ。


皆には極力誤魔化してきた。あの最初の時は、エドたちには風邪で体調不良だったと言い訳して誤魔化した。それ以来、極力生理期間中はダンジョン攻略や盗賊退治はしない様にしていたのだ。


どうしてもの時は、訓練と称して、エドたちを前面に出して、対処してきた。


今まではそれで誤魔化せてきたのだ。


でも、最近は妊娠期間中から生理が無かったから、完全に忘れていた。

そんな油断していたところに生理が始まってしまったのだ。

それも敵が襲って来た今日復活するなんて本当に最悪だった。

私としては授乳期間中は生理は来ないものだと思っていたのだが、そんなことは無かったらしい。


私ですら知らなかったのだから、敵が察知したとは思わないが、最悪の時に重なってしまったのだ。

私は忸怩たるものがあった。


そんな体調不良の最悪な時に私が出るなんて無茶かもしれない。


でも、天使な息子のシャルルちゃんは私の息子なのだ。そして、今私を求めて泣いているのだ。

ひょっとして、今日、私に抱かれて泣いていたのは、敏感な赤ちゃんの感覚が私の体調の変化を読み取ってくれて私に忠告してくれていたのかもしれない。


シャルルちゃんがわざわざ教えてくれていたのに、泣き出したシャルルちゃんにムカついてシャルルちゃんを置いて屋敷を出るなんて、なんて私は馬鹿だったんだろう。

私は自分を許せなかった。



「体調不良なんて関係ないわ。天使な息子のシャルルちゃんが泣いて待っているんだから私が行きます」

私はそう宣言したのだ。


アリスは私をじっと見て来たが、私の決心が固いのを見て取ると、諦めて戦闘服を出してくれた。


戦闘服に着替えて、宝剣を腰に差すと私はドラゴンの龍之介の背中に乗ったのだ。


「行くわよ。龍之介。私の天使な息子のシャルルちゃんに手を出したこと、死ぬほど後悔させてあげるわ」

そう叫ぶと私は龍之介の背中を叩いた。


ガォーーーー


龍之介は咆哮すると空に飛びあがったのだ。


そして、一路泣いている天使なシャルルちゃんの所に向かって飛んで行ったのだ。

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