第46話 辺境娘の独り言3 厄災女の弱点を攻めることにしました

「な、なんですって!」

その報告を聞いて完全に私は切れていた。


「どういうことなの? 古代龍が厄災女を見た途端、尻尾を振って家来になったですって! そんなのありえないでしょ」

私が言うと


「いえ、古代龍は尻尾を振ったのではなくて厄災女にお腹を見せたのです」

龍使いのジムが言ってくれるが、


「どっちでも同じじゃない!」

私は更に切れて言った。


「そんなの普通はありえないでしょ!」

「いえ、それが、確かに私はそれを見ました」

ジムがムキになっていってくるんだけど……


「何言っているのよ。そもそも、古代龍は祈りの首輪をしていたんでしょ。我々の言うことを聞くはずよ。古代龍には厄災女を襲えって命令したのよね」

私が聞くと

「そこまで細かい命令は出来ないので、館を完全に破壊しろと命じたのです」

ジムは答えた。


「で、館は破壊したの?」

私が聞くと

「だから、厄災女を見た途端、いきなりお腹を見せて転がったのです」

「何故なの? 厄災女に従えなんて命じていないんでしょ。なんで厄災女に腹見せるのよ」

私が指摘すると

「そこが良くわからないところで」

ジムは首をかしげてくれたんだけど。かしげてどうするのよ。私は思わずジムを張り倒しそうになった。


「やはり首輪を小指にかけたのでは効果が薄かったのかもしれん。首にかけないといけなかったのだな」

父が訳知り顔で言ってくれる。


「何言っているのよ。お父さま。あんな太い龍の首にあの首輪をかけたら、絶対に龍は窒息して死んでしまうじゃない。竜の首にあの首輪を嵌めるなんて端から出来るわけ無いでしょ」

私が言うと、さすがにお父さまは黙ってしまった。


「どうするのよ。古代龍まであの厄災女にペットにされてしまって。ここまで苦労して連れてきた分私達の大損じゃない」

私の悲鳴に誰も答えてくれなかった。


「王妃様の所に毎日のようにあの厄災女が行っているし、このままではなし崩し的に王太子殿下の婚約者はあの厄災女になってしまうわよ」

私はヒステリー気味に叫んでいた。


「あの厄災女は毎日のように赤ん坊を連れて王妃様に面会しているそうだな。第2王子殿下も奴の屋敷で世話しているみたいだし、このままではあの厄災女に王家を乗っ取られてしまうわ」

お父さまは忌々しそうに舌打ちした。


「宰相様も高位貴族の方々もとてもその点を気にしていらっしゃるのだ。

たとえ、第一王子殿下の婚約者にお前が決まったとしても、あの厄災女のことだ。

第2王子殿下を養子にして、王家を継がせて、母として王家に対して専横を働く可能性もあるのではないかと高位貴族の中でもその点を気にしていらっしゃる方もおられるくらいだ」

父は言ってくれた。


「と言うかお父様。最近は第一王子殿下にすら、近衛騎士たちが邪魔してほとんどお会いできないんだけど」

私が文句を言うと


「やはり問題は全てあの厄災女だ。あの傲慢な女をなんとかせねばいずれ王家はあの女に乗っ取られてしまうわ」

「天下の悪女ですからな」

お父さまの言葉にジムが頷いた。


「こうなればあの厄災女を何とかするしかあるまいて」

お父さまが言ってくれた。


「でも、どうするのよ。あの館には古代龍までいるのよ」

私が指摘した。


「あの女は結構魔力も多いみたいです。我が方の魔術師達で立ち向かえるかどうか」

ジムまで弱音を吐いてくれるんだけど。


「でも、あの女、何故か自分の息子をとても大切にしているわ。その息子さえこちらの手に入ればなんとかなるんじゃなくて」

私は良い事を思いついたとばかりに言った。


「それはそうだが、あの厄災女は中々息子を離さないそうだぞ」

「そう、でも、第2王子殿下が誘拐されたらどうでしょうか」

「さすがに助けに行くだろう」

お父さまが頷いてくれた。


「そうか、その隙に息子を拐うのか」

お父さまは手を叩いて言ってくれた。


「そうです。王子を助けに行くのに、さすがの厄災女も息子は連れて行かないでしょう。第二王子殿下の配下の者の中には我が方の手の者がいるはず。厄災女が助けに出た隙に、その者を使えば案外簡単に息子を拐えるのではないですか」

私が言うと

「そうじゃな。そして、息子を拐われたと慌てふためいて我らが待ち構えている所に厄災女が来れば、いくら厄災女とはいえ、我らが勝てるな」

「こちらには人質もいるのですから」

私とお父さまは顔を見合わせて笑いあったのだった。

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