第38話 第二王子が剣で斬り掛かってきたのでそのお目付け役を張り倒しました

その翌日のことだ。

私は今日も何故か迎えに来たエドと一緒に馬車に乗っていた。


なんでエドがまた、迎えに来るのよ!

私は今朝はムッとしてエドを睨みつけたんだけど、母親の命令でしかたなく来たというのだ。

まあ、王妃様の命令ならば仕方がないかと私もシャルルと一緒に馬車に乗ったんだけど、エドは不機嫌で明後日の方に向いて座っていた……


馴れ馴れしくされるのも嫌だが、無視されるのもなんだかなと思わないでもない。

それはそれでムカついたので、私は思いっきりエドの弁慶の泣き所を蹴飛ばしてやったのだ。


「ギャッ」

エドが思わず足を押さえて叫んでいた。


私がニヤリとすると、


「ブー」

可愛い天使な息子のシャルルちゃんが不満げに私の顔に手を伸ばしてきた。


「えっ、どうしたの? シャルルちゃん。お母様がよそ見したのが気に食わなかったの?」

私が見るとニコッと天使な息子は笑ってくれたのだ。


「まあ、めちゃくちゃ可愛い! ごめんなさいね。変な王子を見てしまって。もうシャルルちゃんしか見ないから」

私はエドのことなんて無視してシャルルちゃんを抱き締めたのだ。


「お前な……」

なんかエドが言っているが無視だ。


「シャルルちゃん、大好き!」

私は天使な息子のシャルルちゃんに頬ずりした。


シャルルちゃんはキャッキャッと喜んでくれたのだ。


私の隣に座ったメリーはそんな私とエドを見て何故か頭を抱えていたけれど、何でだろう?





私達はそのまま王宮の中に入って王族専用の馬車止まりから降り立った。


そこには王宮の女官長が迎えに来ていて、そのまま、私達は王妃様の部屋に向かったのだ。



「兄上」

その途中の渡り廊下で庭にいる者が声をかけてきたのだ。


そう呼ばれてエドがそちらを向いた。


私も釣られてそちらを見る。


そこにはエドに良く似た男の子がこちらに向かってきていた。

後ろに騎士を伴っている。

私は何故か騎士がニタリと笑うのが見えた。


そして、こちらに向かってきた男の子が私を見て顔色を変えたのだ。


「お前、毒婦ジャンヌ。母上の仇!」

男の子はそう言うといきなり腰に下げていた剣を抜いてこちらに向けて駆けてきたのだ。


ええええ! この子はあの側妃の子供の王子か。


さすがの私も少し怯んだ。


「やめろ、ダグラス、死にたいのか」

驚いたエドが慌てて飛び出してくれた。


「兄上、退いて下さい。この女は母上の仇なのです。私がここで成敗してやります」

「お前は馬鹿か」

そう言うと、前に出て、あっさりと剣をエドが取り上げてくれた。


さすが腐っても王子だ。

私は少しだけエドを見直したのだ。その時は。

でも、そう思った私は馬鹿だった。私はすぐに後悔したのだ。


「愚か者! お前が敵う相手ではない。こいつはな、ドラゴンの巣の中に俺とカーティスを放り込んで平気で昼寝していた奴だぞ」

私を指さしながらエドは言ってくれるんだけど、そう言えばそういう事もあったかもしれない……


「俺達が死にそうになってやっとこいつはやってきたんだ。そして、いきなり怒り狂っている龍を一撃で張り倒したんだぞ。

あの史上最強の龍をだ! 俺達はただ逃げ惑うしか出来なかったのに。普通は古代龍ともなれば騎士団総出でも勝てるかどうかなんだぞ。それをたった一撃で、それも大群をたった一人で蹴散らしたのだ。

その後龍が泣いて許しを請うたのに、あの傲岸不遜な龍が泣いて許しを請うてきたんだぞ!

なのに、こいつはもっと泣けって笑って言いやがったんだ。

こいつは人の皮を被った化け物なのだ。

そんな化け物に立ち向かうにはお前はばか……ギャッ」

エドは途中まで言えなかった。


私が後ろから頭を叩いたのだ。

エドは地面に顔から激突して這いつくばっているが、私なりに手加減はした。


「ヒィィィぃ」

私が王子をちらっと見たら、完全に真っ青になって震えていた。


思いっきり張り倒してやろうかとも思ったが、まだ子供だ。一度くらい大目に見てやろうと私はそのお目付け役の騎士を見た。


笑っていた騎士はいつの間にか笑うのを止めていた。


というか、ぎょっとした顔をした。


私はシャルルをメリーに渡すとつかつかとその騎士に向かって行ったのだ。


「な、何だ。俺は公爵家の人間だぞ。侯爵家の未亡人風情が俺に敵うわけはないのだ。寄るな! 来るんじゃない!」

必死に男は叫んでいるが、この男が王子に何か吹き込んだのだろう。


私の前で勇気のある事をしてくれたものだ。


私は完全に切れていた。


こんな子供にまで私のあること無いことをエドが話すきっかけをくれたこいつは許さん。


「や、止めて!」

男が最後に頼んできたがもう遅い。


バシーーーーン

「ギャっ」

次の瞬間、騎士は私に張り飛ばされていた。


ドーーーン

そのまま、渡り廊下の木塀を2枚突き破ってバラ園の中に飛んでいったのだった。


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ここまで読んで頂いて有難うございました。

王宮で平気で王子を叩くジャンヌ。

その前に第2王子の運命やいかに?

本日もう一話更新します

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