第36話 侍女達に天使な息子のために王太子と結婚したほうが良いと勧められました

「アリス、どう思う? 王妃様のお言葉。絶対に冗談よね」

私は帰ってくるなり、天使な息子のシャルルちゃんにお乳をやりながらアリスに聞いていた。


「えっ、いやだから、お嬢様。私は元々王妃様はお嬢様と殿下をくっつけたいって思っておられるって言っていましたよね」

アリスが言ってくるんだけど、そう言えばアリスはそんな事を言っていた。


「でも、ありえないわよ。私は未亡人なのよ。コブ付きの未亡人を王太子の配偶者になんかにするなんて常識では考えられないわよ」

私は常識論で反論したのだ。


「まあ、普通はそうなんですけれど、最近は子供のできぬ妻も多いと聞いています。その点、お嬢様はすでにシャルル様という実績がありますから」

「でも、エドに種があるかどうかはわからないじゃない」

アリスの言葉に私が反論した。


「そうですよね。殿下はお嬢様に小さい時から虐められていますから、種無しになっているかもしれませんよね」

アリスがとんでもないことを言ってくれる。


「アリス。悪いけれど、私はエドを宮刑に処してはいないわよ」

私が文句を言うと、


「当たり前です。そんな事していたらお嬢様は処刑されていますよ」

アリスがとんでもないことを言ってくれた。王子を種無しにしたところでさすがに処刑はされないだろう、私はそう思ったのだが、隣でメリーがウンウン頷いているんだけど……

たかだかエドを不能にしたからって、それで処刑はさすがにないだろうと私は思わないでもないが、世の中の反応は違うみたいだ。まあ、エドなんて全然なんとも思っていないのだが、天使な息子のシャルルのためには少しは頭に入れておこうと私は思った。



「と言うか、私は愛するシャルル様を亡くしたところで傷心の未亡人なのよ。しばらく再婚なんてありえないわ。それにそもそも、私は天使な息子のシャルルちゃんの後見人なんだから、結婚なんて無理よ」

私は言い切ったのだ。


天使な息子のシャルルちゃんは満足行くまでお乳を飲みきったみたいであくびをしている。


可愛い!


私は背中を抱っこしてトン、トンと軽く叩く。


ゲプッ


そうだ。こんな可愛い息子をほって嫁に行くわけには行かない。

私が決意も新たにしたのだ。


「でも、もし、お嬢様が王太子殿下と結婚して……」

「するわけ無いでしょ!」

私はアリスの言葉をぶった切った。

「こんな可愛い天使な息子のシャルルちゃんがいるのに!」

私は半分寝かかっているシャルルを抱き締めた。


あくびするしぐさもとても可愛いのだ。


私は思わず笑みがこぼれた。


「でも、それがシャルル様の為になってもですか?」

「シャルルのためになるわけないじゃない」

私が否定すると、


「何をおっしゃるんですか、お嬢様。もし、お嬢様と殿下が結婚されて子供が出来たら」

「だからそれは無いって、エドが私の下僕になるならあり得るけど」

アリスの言葉に私が反論すると、皆が白い視線で見てくるんだけど、何でだ?

今でも、エドは私が呼んだらすぐに飛んでくるはずだ。下僕と変わらないじゃないと私は思ったんだけど……


「例えばですよ。その出来たお子様は当然お世継ぎになられるわけで、シャルル様とは血のつながった兄弟になるわけです」

「まあ、父親は違うけれどね」

私は残念そうに言った。

「私の天使な息子のシャルルちゃんのお父さまは素晴らしかったシャルル様だし、その子の父親はあのエドだしね。なんかその子が可愛そうじゃない?」

私の言葉にアリスとメリーが頭を抱えているんだけど、何故に? エドがどうしようもないのは事実だし。


「まあ、それはおいておいて、シャルル様の弟様が国を継がれるのです。即ちシャルル様はいずれは国王陛下のお兄様になるのです」

アリスがもったいぶって言うけれど、

「それがどうしたの? 別に国王の兄だからって偉いわけじゃないじゃない。現実に私は王太子を下僕のように使っているし……」

私が言うと

「それはお嬢様だけです。ねえ、メリー、未来の国王陛下の兄君になる事はシャルル様もメリットが有るわよね」

「それは、そう思います。確かに最強のジャンヌ様がいらっしゃる間はシャルル様に手を出してくるような不届き者はいないと思いますが、ジャンヌ様もいずれはお亡くなりになります。その時にシャルル様の後ろ盾が国王陛下ならば、誰もちょっかいを出すものはいないと思われます」

メリーが意見を言ってくれたのだ。


「まあ、それはそうだけど」

私はその言葉には頷くしか無かった。


確かに私は不死身ではない。生きている間に天使な息子のシャルルに手を出してきたら、私が叩き潰してやるが、私が死んだ後まではたしかに面倒は見られない。侯爵家の親戚はあの大叔母とかがまだ残っているのだ。いつ何時牙を向くかもしれなかった。


うーん、しかし、それと私がエドと結婚するのは違うと思うんだけど……


その日の夜はその事を考えて5分ばかり悩んだが、天使な息子のシャルルちゃんを抱き締めたら、その温かさで、そのまますぐにすやすや眠れたのだった。

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