第32話 側妃に誠意を見せてもらえなかったので、私の怒りが爆発寸前まで高まりました

ピクッ

私は側妃のその言葉に切れたのだ。思わず雷撃を浴びせそうになって、慌てたアリスに止められた。

私がムッとして、アリスを見るけれど、アリスが首を振ってくれたのだ。


まあ、仕方がない。血祭りにあげるのはもう少し先で良いだろう。


「あは、あは、あはははは」

ワタシは笑ってやったのだ。


大半の奴はこいつ気が触れたのか?

と馬鹿にしたように見てくるんだけど、


「おい」

「ヤバい」

「厄災女が切れているぞ」

「ここは逃げよう」

私の事をよく知っている人間は私から更に距離を取ったのだ。


私達の周りに残ったのは陛下と第二王子派が多かった。

その中心には側妃とその父親の財務卿、そして、近衛騎士団長だった。

まあ、この方が好都合だ。


「ほら、陛下、やはり前侯爵夫人は気が触れていらっしゃるのですよ。馬鹿笑いしていますし……」

側妃が馬鹿にしたように言ってくれた。

「いや、アデラ、ジャンヌはこれが普通だ。気にするな」

何気ない陛下の言葉の方が私には堪えたんだけど。


「いやあ、側妃様に喧嘩を売られるだけはありますな。このような下品な高笑いをするなど本当にお里が知れるというものです」

近衛騎士団長のコールマンが高らかに言ってくれた。


「本当じゃの。さすがウェリントンの血筋は争えぬな」

財務卿までもが言ってくれるんだけど。

後ろでブライアンが切れているけれど。私も切れた。


「王太子殿下。何か話が違っておりませんこと?」

私は財務卿らを無視して、エドに氷のような冷たい声で話しかけてやった。


「えっ」

エドも私の機嫌の悪さを感じたみたいだ。


ギョッとした顔をしている。

「おい、カーティス!」

しかし、頼ろうとした側近のカーティスはエドから三メートル以上下がったのだ。


私の同学年のクラスメートも。いや違う、シャルル様がいらっしゃらなくなった時の学園生、即ち、一学年上のメンバーから2学年下のメンバーまでが、一斉に3メートルくらい下がってくれたのだ。

彼らとその親兄弟、親戚一同も一斉に下がってくれた。


それで完全に側妃達、即ち第2王子派の面々が私の前に残ったのだ。

この脳天気な面々は側妃に合わせて笑ってくれているんだけど、これで私も心置きなく戦える。


魔力の充填も120%。やる気満々だ。


「陛下。私、本日は、側妃様が私に謝りたいことがあると王太子殿下にお伺いしたからここに参ったのですけれど」

私は一応陛下に話しかけてみた。


「おお、そうじゃったな。アデラ。その方、前オルレアン侯爵夫人に何か言いたいことがあるという話しじゃったの」

おいおい、話が違うぞ。言いたいことってなんだ?


謝りたいって話しでは無かったのか?


私は不機嫌な顔でエドを見たんだけど。


「ああ、そうでした。前オルレアン侯爵夫人、御主人様がお亡くなりになって大変でしたのね」

次の側妃の言葉に私は更に切れそうになった。


「エド、話が違うんだけど……」

私の絶対零度の凍った声が会場内に響いた。


「ヒィィィィ」

エドが悲鳴を上げる。


カーティスが更に3メートル下がった。


私を知る学園生とその家族達も更に3メートル下がって、もう、会場ギリギリにまで下がっていた。一部は柵の向こうに隠れた者までいる。


「へ、陛下。私は側妃がジャンヌに謝りたいと言っているからと陛下に頼まれて無理やりジャンヌを連れてきたんですけど」

エドが真っ青になって陛下に進言した。


「左様か。そのようなことを私が言ったかの」

陛下は笑って誤魔化してくれるんだけど。私相手にそれをやる?


私は爆発寸前だった。


「さて、私は確かに王太子殿下から側妃様が私に失礼な態度を取ったから土下座して謝りたい。だから頼むから一緒に来て欲しいと言われたんですけれど」

「いや、さすがにそこまでは言っていないぞ」

エドが必死に言い訳するが、

「儂もアデラが謝りたいと申しておったとは言ったが、土下座とまでは言っていないぞ、それはエドワードが悪いのではないか?」

さすがの陛下も私の機嫌の悪さに気づいたのか言葉をいきなり変えてきた。

「いや、私もそこまでは言っていません。側妃が謝りたいと言っていたと陛下の言葉を伝えただけです」

必死にエドが言う。


「そうでしたのね。では、側妃様に誠意を見せていただきましょうか」

私はちらりと側妃を見てやったのだ。なんて優しいんだろう

最後の命乞いの機会を与えてやったのだ。


皆ほっとしたみたいだ。特に、私の同級生連中はそうだった。


でも、側妃は嫌そうな顔をして黙り込んでしまったのだ。

「アデラや、何か言うことがあるのだろう」

陛下が猫なで声で言うが、

「はい、陛下、先程お悔やみの言葉は話しました」

平然と側妃は言ってくれたのだ。


「悔やみの言葉? 儂はその方がジャンヌに謝りたいと申しておったと思ったが」

「いえ、あの陛下」

側妃は口ごもった。


「陛下。前回の件、側妃様が一方的に悪いわけではございますまい。そちらの前侯爵夫人が側妃様に妾と言ったのが悪かったのではございませんか」

騎士団長が言った。

「左様でございます。陛下。娘だけが悪いのではなくて、そちらの前侯爵夫人も悪いと思うのです」

財務卿まで言うのだ。


私の頭にパチパチ火花が散りだした。


それを見て、思わずエドまでが3メートル下がってくれた。


「やばい」

「逃げろ」

柵のギリギリまでいたクラスメートたちが慌てて柵を強引に越え出したのだ。


柵を越えられずにひっくり返るものもいるが、皆我先に越え出したのだ。


「えっ、皆どうしたの」

さすがの側妃も慌てだしたが、もう遅いのだ。

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