第31話 私の服装を見て側妃達が笑ってくれました

「止まれ!」

偉そうな近衛騎士が私達の馬車を止めてくれたんだけど。

何なのこいつ!


「俺だ。入るぞ」

エドが御者席から言ってくれた。


「で、殿下!」

門番をしていた近衛騎士は仰天して御者席を見た。

そう、普通、王太子殿下が御者をしているなんて思わない。


「しかし、この後ろの騎士達は」

「途中でならず者に襲われた所を助けてくれたのだ。そのまま連れて行くぞ」

「しかし、殿下、今日は舞踏会で王宮に武装兵を入れるのは問題なのではないですか?」

エドの言葉に近衛が抵抗する。本当に面倒くさい近衛騎士だ。

まあ、職務に忠実だと言えるのかもしれないが……


私は宝剣をかざして押し通ろうかとも思ったが、まだ、早いだろう。


「殿下。陛下に呼ばれているのではないのですか?」

私はやむを得ず、エドに助け船を出してやった。なんでエドを敬語で呼ばなければいけないのか良く判らないが……ここは余計な軋轢を生まないように仕方がない。


「うん、そうだな」

何かエドがピクリと恐怖に顔がゆがんだような気がしたのは気のせいか?


「殿下。こちらの方は」

「オルレアン前侯爵夫人だ。今は現侯爵シャルル様の後見人をされている」

王子が敬語で紹介してくれるんだけど、それもなんか違うような気がする。


「しかし、夜会にそのような格好で行かれるので」

近衛が私の衣装をじろじろ見て余計な事を言ってくれる。


まあ、こちらは側妃に喧嘩を売るために行くのだから、この格好で良いのだ。


それに、鬼退治も兼ねているのだし……


「殿下、早くいきませんと陛下がお待ちなんでしょう」

私はエドをせかしたのだ。


「そうだな。通るぞ」

「えっ、いやあの」

戸惑う近衛騎士を残して


「開門。王太子殿下のご帰還」

ブライアンが大声で叫んでくれた。


ブライアンの大声が勝った。大門が大きな音を立てて開く。


そして、私達の馬車を先頭に中に入っていったのだ。


馬車はゆっくりと王宮内を走って、王族専用の馬車止まりで止まる。


「殿下、遅いですぞ」

そこには王宮の執事が待っていた。


「すまん途中で馬車が襲われたのだ」

「なんですと。王族である貴方様が襲われたのですか」

執事は驚愕した。


「側にいたブライアンが助けてくれたのだ」

エドがブライアンを指さした。


「ウェリントン伯爵令息様がですか」

「そうだ。すぐに陛下の所に案内してくれ」

「判りました」

侍従は私の服装にゲッという顔をしたが、

「襲われたのだから仕方がないだろう」

という、エドのめちゃくちゃいい加減な説明に、何故か納得していた。

まあ、私の奇抜な服装は今に始まったことではないし。


昔はこんな格好で、平気で王宮にエドを誘いに来ていたのだ。

ゴブリン退治とか龍退治とかの為に……


だからこの古くからいる侍従も私のこんな格好には慣れているのだろう。



私達は侍従の案内で今日の夜会会場の庭園に案内された。


このまま陛下の前まで行けるかと思ったのだが、入口で近衛騎士の誰何を受けたのだ。


「陛下に呼ばれているのだが」

エドが近衛騎士に言ってくれたが、


「しかし、武装兵をこれ以上中にはいれられません」

近衛騎士が頑なに止めてきたのだ。


「殿下、騎士たちはここでお待ち頂いたほうが良いかと存じますが」

侍従が言ってくれた。


「ジャンヌ、どうする」

「まあ、陛下に呼ばれるまでは騎士たちはここで待機させるのが宜しかろうと存じますが」

私はエドを立ててやったのだ。まあ、ここで宝剣を振りかざしてなかに入るのはよくなかろう。

まだ……


そう、まだ早いのだ。


侍従を先頭にエド、私、天使な息子のシャルルを抱いたメリー、アリス、そして弟のブライアンの順で続く。


「えっ」

「何あれ」

「王太子殿下のエドワード様でしょ」

「違うわよ。その後ろの女よ」

私を見て、周りが騒ぎ出した。


「何なの、あの汚らしい格好は!」

「違うわよ。あれは戦闘服よ」

「なんであの女あんな服着ているの」

「げっ、あの女、厄災女だ!」

私のクラスメイトだろうか。私は余計なことを言った奴を睨みつけてやった。


「ヒィィィぃ」

その男は腰を抜かしたみたいだった。


「やばい!」

「ジャンヌだ!」

「折角、最近静かにしていたと思ったのに」

「何で殿下はあんな奴を連れて来たんだ」

「これは絶対にろくなことにならないぞ」

「この夜会ももう終わりだ!」

「おい、逃げようぜ!」

私の学年を中心に、皆、ざあーーーーっと後ろに下がりだすんだけど。


うーん、なんだかな。


と思わないでもなかったが……


もっともこれからやろうと思うことを考えれば、仕方がなかった。彼らの判断は正しい。



侍従が陛下の前に行って何か告げる。


陛下はそれを聞いてこちらを向いたが、私の姿を見てぎょっとする。

そして、残念なものを見るような目で私を見るんだけど。

その横の王妃様も驚いていた。


「ジャンヌ。遅かったな。しかし、今日のその格好は何なのだ。今は夜会だぞ。侯爵家の未亡人が夜会に来てくる服装ではあるまい」

陛下が私を叱責してきたのだ。


「まあまあ、陛下。ジャンヌさんはご主人を亡くされたところなのです。夜会場に来てくる衣装の善悪もお判りになられないほどショックを受けていらっしゃるのではなくて」

そう言うと側妃が笑ってくれたのだった。

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ここまで、読んで頂いて有難うございました。

ジャンヌは何もせずに黙っているのか?

無謀な側妃の運命やいかに?

続きをご期待下さい。

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