第26話 天使な息子が侍女を許したのでそのまま息子を任せることにしました

「あなた、何をしているのよ!」

私が再度叫んでいた。


その声にビクリとメリーが震えた。


私の声に固まったみたいだ。


「その子をどうしたいのよ!」

私は苛立っていた。

そう本来なら、ここでメリーに雷撃を食らわせるところなのだ。


でも、天使な息子のシャルル2号が

「うーうー」

言いながらこのムカつく侍女の裏切り者のメリーに手を差し出しているのだ。


私は信じられなかった。


何なの2号は! この女は大丈夫だと言いたいわけ?

この状況では絶対に攻撃できない。


私は天使な息子のシャルル2号をちょっと精巧に作りすぎたかもしれなかった。


シャルル2号はシャルルと同じでメリーの感情を感知するのだ。


リアクションもシャルルそのままなのだ。


即ち、天使な息子のシャルル2号がメリーに手を差し出すということは、本物のシャルルもメリーに手を差し出すということで、メリーはシャルルに対して何も悪感情を持っていないということになるのだ。


そう、赤子は自分に好意的かどうかよく判っているのだ。

だからこの前もシャルルは側妃には手も差し出さなかったし、顔を見た途端に泣き出したのだ。

明確に側妃はシャルルに悪感情があったのだ。

それを敏感なシャルルは明確に認識したのだ。


でも、このまま、この女を許すなんてことは出来ないだろう!

私が思った時だ。


「オギャーーオギャーー」

天使な息子のシャルル2号がいきなり泣き出したのだ。


すわ、この女はやはりシャルルに悪感情を抱いたか、と私が雷撃しようとした時だ。


「何をしている、メリー! 早くその赤子を掴んでこちらに持って来い!」

扉の後ろから入ってきた執事が叫んだのだ。


ピカッ


ズドーーーーン


一撃だった。


私は雷撃一撃で執事を吹っ飛ばしたのだ。


頭にきていたので、ちょっと力を入れすぎたみたいで、壁に穴が開いて外まで見えるんだけど。


なんか、アリスの視線が痛い……


そして、執事がいなくなると、また、天使な息子のシャルル2号は機嫌を直してニコニコ笑ってメリーに手を差し出すんだけど……


「ちょっとそこのお前、いつまで固まっているの」

私が後ろから女に声をかけた。


「メアリー=ドー?」

「メリー=ドットです」

私の間違いを後ろからアリスが訂正してくれる。


「そう、その……そんなのどっちでも良いじゃない」

私はアリスに文句を言った。


「早く、私を殺しなさいよ。ジョンを殺したみたいに」

メリーが天使な息子のシャルル2号の方を見たまま叫ぶんだけど。


「誰よ、ジョンって?」

「騎士見習いのジョンです。このメリーと将来を約束していたみたいで」

アリスが教えてくれた。


「あああの、シャルルに剣を向けた中にいた男ね」

「そんなの嘘よ。ジョンがそんな事するわけないわ」

私の言葉にメリーが反論するんだけど。


「お前の男は私のシャルルに剣を向けてきたのよ。こんな可愛い子によ」

「信じられないわ」

メリーがこちらを向いて言うんだけど。


「じゃあ聞くけれど、私のシャルル様を殺したのもあなた達でしょ」

「そ、それは私は聞いていなかったわよ」

メリーが言い訳するんだけど、


「それにそのお父さまも殺したじゃない」

「それも私は知らされていなかったわ」

「でも事実でしょ。バーバラがあのままこの子を殺さなかったと思うの? 既に二人も殺しているのよ。爵位を継ぐためなら何でもしたでしょ」

私は言い切ったのだ。


「それは……」

メリーも言い訳出来なかった。


「もう、言いわ」

私はそう言うとメリーの前にシャルルを出したのだ。


「えっ、赤子が二人いる」

メリーは唖然とした。


「こちらが本物よ。あちらは精巧に作った幻影なのよ」

私が説明すると


「うーうー」

本物のシャルルがメリーに手を差し出したのだ。


「可愛い」

メリーがシャルルの手を軽く握ったのだ。


きゃっきゃっシャルルは笑っていた。

「本当にシャルルも馬鹿ね。誘拐犯に笑うなんて」

私はムツとしてうと、抱っこ紐を外したのだ。


「ちょっとお嬢様、何をしていらっしゃるのですか」

アリスが言うのも無視してそのまま、呆然としているメリーの体に結びつけたのだ。


シャルルはきゃっきゃっ言って私から抱っこする相手が変わっても何も文句を言わないのだ。


「いや、ちょっと、ジャンヌ、いえ、ジャンヌ様、これはどういうことですか?」

驚いてメリーが聞いてきた。


「よいこと。これから私は王宮に乗り込むからあなたはそのまま一緒にいらっしゃい」

「はい?」

メリーが呆然としている。


「お嬢様、そんな事して大丈夫なのですか」

アリスも慌てるし


「ジャンヌ、お前雷撃で攻撃するんじゃなかったのか」

エドまで言ってくれるんだけど。


「仕方ないでしょ。メリー、あなたはシャルルに感謝するのね。シャルルがあなたを選んでくれたのよ」

私は言い切った。


「私から離れない限りあなたのことは守ってあげるわ。シャルルは多少の攻撃を受けてもびくともしないような加護をかけているけれど、あなたはそうは行かないからね。十分に注意することよ」

私はそう言うと歩き出したのだ。


「えっ、あの、ジャンヌ様」

戸惑ったメリーを


「さあ、さっさと歩きなさい」

アリスが後ろからメリーをせっついた。


「お嬢様はああ言って、あなたを信じたみたいだけど、私は信用していないからね。裏切ると判った時は即座に殺すから」

後ろで不穏なことをアリスが言っている。


メリーはその剣幕に首をこくこくと振っていた。


「殺人鬼のジャンヌが人を許すなんて」

なんかとてもムカついたことを言ってくれたエドの頭を思いっきり叩いた。


地面にエドが激突する。


「貴様、ジャンヌ、何しやがる!」

顔を押さえてエドが起き上がるが、


「余計なことを言うからでしょ。さっさとしないと置いていくわよ」


私はそのまま、馬車に乗ったのだ。


遅れてアリスに急き立てられたメリーとアリスが乗ってきた。


「ちょっと待て」

動き出した馬車にエドも飛び乗る。


こうして私達は一路王宮に向かったのだ。


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