第23話 侍女視点 いとしの侯爵令息がいけ好かない女とくっつきました

私は侍女のメリー・ドット、ドット男爵家の三女だ。


私の実家の男爵家は女ばかりの三人だ。お父様は跡継ぎの男の子が欲しかったみたいだが、結局、三人とも女で、諦めて今は一番上の姉に婿を取っていた。


残った私達は、家に残るわけにはいかず、と言って貧乏男爵家だ。嫁にもらってくれる貴族なんて、探すのは大変だ。これで容姿が優れていたら別だったが、人並み、だった。だから金持ちの商人の息子ですら中々振り向いてはくれなかい。


だから、学園でも必死に婚活に頑張ったのだ。

王立学園は基本は貴族の子弟と金持ちや騎士、文官の子弟が通っていた。その中には婚約者のいないものも多く、多くのカップルが誕生しそして結婚していくのだ。いわば一大婚活会場なのだ。


そんな中で当然私も頑張った。


そんな、私達の学年では一番人気は生徒会長をしていたシャルル・オルレアン様だった。見目麗しいお姿と誰にも優しい性格で、学年で一番人気だった。きれいだと有名な伯爵令嬢や上の学年の侯爵令嬢がアプローチしていた。しかし、シャルル様は誰も相手にしなかったのだ。まあ、男爵家の三女の私なんて候補にすらならなかったが……


そんなシャルル様に付きまとったのが、私達の二学年後輩のジャンヌだった。


そのいけ好かないぶりっ子の女、ジャンヌは一年にもかかわらず、私達の三年生の教室に休み時間のたびにやってきたのだ。そして、シャルル様は何故かそのジャンヌに気を許してしまったのだ。

私達は信じられなかった。


なにしろ今までシャルル様は誰にも側に近づけなかったのだ。

たしかにジャンヌは容姿は見るに耐えられるものであったが……


そのシャルル様に褒められてジャンヌが赤くなったのが信じられなかった。


何しろ、ジャンヌのがさつさは学園では有名で、実家のウェリントン伯爵家の威光を笠に着て、爵位の下の男達を顎で使って雑用をさせているという噂だった。

一度なんて、廊下で第一王子殿下に頭を下げさせている現場を遠くから見た時は、私は目が点になったのだ。


たかだか伯爵令嬢がどうやって未来の陛下の王太子殿下に頭を下げさせたんだろう?



そんなジャンヌがシャルル様の前ではとても純情な女を演じていた。

私には信じられなかった。


余程シャルル様にあなたは騙されていますよ、と言いそうになった事か。もっとも私なんてシャルル様と話せるわけは無かったが。


意を決した侯爵家のご令嬢がその事実をシャルル様に話したのだ。

でも、その時のシャルル様の氷のような対応を見て言わなくて良かったと思った。


可哀想に令嬢は事実を告げただけなのに、二度とシャルル様と口をきいてもらえなかった。


私はシャルル様が真実を知った時に後悔されると思ったのだが、侯爵令嬢ですら氷の対応なのだ。私がそんなこと言ったら学園を追放されないと黙っていることにした。



私は結局、学園ではいい男を捕まえることは出来なかった。


貧乏男爵家の娘なんて男爵家に嫁げれば良い方で、金持ちの商人の跡継ぎなんて夢のまた夢、年老いた商人の後妻か、騎士の妻か王宮の文官の妻、あるいは貴族の侍従の妻くらいしか道はなかった。


結局学園で相手を見つけられなかった私は父の命令でオルレアン侯爵家に行儀見習いで上がることになったのだ。


私は憧れのシャルル様の実家に行くという事が嫌だった。だっていずれはシャルル様が、あのジャンヌとかいうあばずれ女の尻に敷かれて苦しむさまを見るのだ。そんなのは見たくも無かったし、下手したらジャンヌとかいう女の下につけられるかもしれない。


それだけは嫌だとごねたのだが、父は許してくれなかった。


しかし、心配は杞憂だった。

侯爵家ではその伯母のバーバラ様が権力を握っていて、当主でシャルル様のお父様のヘクター様はバーバラ様の言いなりだった。何しろ当主なのに、うらびれたボロボロの離れに住んでいらっしゃるのだ。


私はそのバーバラ様付になったのだ。


私は何故かその気難しいバーバラ様に何故か気に入られた。私が平凡な顔をしていたからかもしれない。旦那様のブランドン様は女性関係にだらしなくて、しょっちゅう使用人に手を出しては、バーバラ様と喧嘩されていたから。私はブランドン様に手を出されない容姿だと知って安心されたのだと思う。

それを自慢して良いものかどうかは、とても微妙なものなのだが……


まあ、もっともバーバラ様も騎士団長らと宜しくしておられたが。


私はその騎士団長について来た騎士のジョンと仲良くなったのだ。

ジョンはまだ騎士見習で騎士になったら結婚する予定だった。


そんな時だ。侯爵家の名目上の主のヘクター様がいきなりお亡くなりになったのだ。

元々病弱だったヘクター様だが、亡くなるような具合の悪さとは聞いていなかった。

その時の取り乱したようなバーバラ様の様子を見て、私はさてはバーバラ様がなにかされたのかなと思ったが、黙っていることにした。


私にとってはヘクター様はあくまでも名目上の当主で、バーバラ様こそが私の御主人様であったから。


私は出来たらバーバラ様が侯爵夫人になったら良いのにと思ったのだが、やってきたのはいけ好かないジャンヌだった。


そう、ジャンヌはシャルル様と結婚していたのだ。


でも、何故かジャンヌらは本館には入らずに、ヘクター様がいらっしゃったうらびれた離れに入ったのだ。それに信じられないことにシャルル様はジャンヌの尻に敷かれておらず、とても仲睦まじく過ごしているのだ。私はそんな二人の姿を見て目が点になった。


そんな二人に子供が生まれてジャンヌが実家に帰っている時に、いきなりシャルル様が亡くなったのだ。


私には信じられなかった。


私なんて全然相手にされていなかったが、私の憧れの人でもあったのだ。

そんな方が亡くなって私は悲しくなかったかといえば、悲しかった。例えその人がいけ好かないジャンヌと夫婦になっていてもだ。


その悲しんでいる私の目から見ると、何故かバーバラ様はとても嬉しそうだった。私は今回こそバーバラ様の関与を確信した。


でも、私はバーバラ様の侍女なのだ。バーバラ様についていくしかなかったのだ。









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