第22話 エドに言われて仕方なく天使な息子を邸宅に置いて王宮に向かいました

そして、夜会当日になったのだ。


私は久々にきれいな夜会服を着てい……なかった。


迷彩色のブラウスにズボン、手には銃はないからムチを……は持っていなかった。


そして、胸の抱っこ紐の中にシャルルをバッチリ抱き込んでいたんだけど。


完璧だ。これで敵一個師団が来ても即座に殲滅できる。

私は一人で悦に入っていた。


目の前のアリスは呆れていたけれど……



迎えに来る時間ぴったりに、エドが来た。


「えっ!」

エドは私の服装を見て、完全に目が点になったのだ。


「ジャンヌ何をしているんだ?」

「見てわからない?」

「判るか! どう見ても戦闘服を着込んだ化け物なんだけど」

「誰が化け物なのよ」

私がパンチを繰り出したのだが、エドは小癪にも軽く躱してくれたのだ。


ふんっ、でも甘い!


ドシーーーン

エドはにたっと笑った後に、私のパンチの作った風圧で壁に叩きつけられていたんだけど……


「で、お前、その格好は何なんだ?」

なんとか立ち上がったエドが聞いてきた。


「えっ、これで夜会に行こうと思うんだけど、駄目かな?」

「良いわけ無いだろう!」

私の言葉にエドが切れているんだけど。


「だって、私の天使な息子のシャルルちゃんをおいてなんていけないわ」

私がそう言ってシャルルを抱くんだけど。


「お前な。どこに王宮の夜会で赤子連れで参加する奴がいるんだよ」

エドが叫んできたが、


「ここにいるわよ」

私は胸を張って言い切った。別に周りからなんと言われようと全然平気なんだけど……


「そんなの認められるわけ無いだろう!」

エドが叫んでいた。


「ええええ!」

私は盛大に不平をその言葉に込めたのだが、


「ほら、ほらお嬢様。だから言ったじゃないですか」

アリスが呆れて言ってくれるんだけど……


「だって天使な息子のシャルルちゃんが一番安全なのはここよ」

私がはしゃぎすぎて寝ているおんぶ紐の中のシャルルを抱くんだけど。

私が変わった格好しているので、シャルルは超ハイテンションで私に付き合ってくれて、その結果寝てしまったのだ。寝顔もとても可愛い!

私は思わず天使なシャルルにキスしていた。



「お前な。何処の貴族が王族の主催の王宮の夜会におんぶ紐に戦闘服で参加するんだ」

エドが完全に切れて言うんだけど。


「だって置いて行ったら側妃に何されるか判ったものじゃないわ」

「お前、そのために騎士もいるんだろう!」

「たかだか20人じゃない! 私一人いれば1個師団でも叩き潰すわよ」

私が力説するんだけど。


「20人騎士がいれば十分だろう! 王宮でも俺に付く騎士の数は10人だぞ」

「まあ、エドだからね」

私がどうでも良いもののように言うと、


「おい、どういう意味だ。俺は一応この国の王太子だぞ」

懸命にエドが自己主張してくれるんだけど、


「側妃が懸命に第二王子を王太子にしようと暗躍しているそうよ。あんた弱いんだから100人くらいつけたら」

私はバッサリと切り捨てた。


「いや、頼むからジャンヌ。今日は普通にして参加してくれ。お前がそんな格好で現れてみろ。すわ戦争かと皆逃げ出すから」

エドが頼んできたんだけど。


「でも、判っているの? もし私の天使な息子のシャルルが誰かに拐われたりしたら、私そいつら許さないからね」

「えっ」

ギョッとした顔をエドがしてくれた。


「そんな命知らずなやつがこの国にいるとは思わんが」

実感の籠もった声でエドが言ってくれるんだけど。


「当然、あんたも陛下も同罪だからね」

「えっ、ちょっと待て、俺等は関係ないだろう」

私の言葉に青くなってエドが慌てだした。

まあ、エドにはバツゲームと称してダンジョンに一人で潜らせて半死半生の目に合わせたり、ドラゴンの巣に一人で落としたりして、私も教育したのだ。

その割に全然強くなっていないけれど……


「何言っているのよ。私を連れて行った結果、シャルルが襲われたんだから当然同罪よ」

私がニコリと笑ってやったのだ。


「いや、待て、そんなリスク負えるか」

エドは真っ青になっていた。


「直ちに将軍に連絡してこの屋敷を一軍で守ってもらおう」

いきなり慌てだしたんだけど。


「やっぱりそれだけ危険なの?」

「いや、危険なのはお前だろうが! 世界最強のドラゴンがお前には涙を流して許しを請うたのだぞ。なのにお前はもっと泣けって言ってドラゴンにドラゴンドロップを一杯作らせたんだ。その悪魔のような所業に人間ではないと思ったぞ」

エドが何かほざいているが、そう、ドラゴンドロップという宝石は竜の涙が固まって出来るのだ。それを一杯作らせたけれど、でも、私は一個も受け取っていない。


「ちょっと待ちなさいよ。ドラゴンドロップは全部王妃様に上げたのよ。それ言うなら、涙のないのは王妃様じゃない。今度会ったら言っておこう」

「ちょっと待て、ジャンヌ。余計なことわ母上に言うな」

「ええええ! 絶対に言ってやる」

そう言う私を無視してエドは話しだしたのだ。


「取り敢えずだ。お前のターゲットになったら例え剣聖と言えども逃げ切れないと思う。いわんや俺は人間だ」

なんか自分だけいい子ぶっているんだけど……


「じゃあ、行かなくていいのね」

私が言うと


「来るって約束してくれただろうが」

エドはしつこい。


私は面倒くさくなってきた。


「判ったわよ。着替えれば良いんでしょ」

私が服に手をかけると


「ちょっと待て。男が部屋にいるんだから」

「じゃあ、あんたが出なさいよ」

「判った。出るから」

エドが慌てて出ていく中、私は着替えたのだ。


そして、寝ている天使な息子のシャルルを泣く泣く置いて馬車の中の人になったのだ。


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