第15話 王太子の執務室に押しかけました
側妃を撃退した私達はそのまま王太子の執務室に向かった。
泣き止んだシャルルはやっとご機嫌になってくれた。
私の顔をぺたぺた触ってくれるんだけど……その手もとても可愛いし暖かい。
「怖いおばちゃんでちたね。でも、もう大丈夫でちゅよ」
私が言うと
「絶対にお嬢様の方が怖かったですから」
後ろでアリスが何か言うが無視だ。無視……
「ご苦労」
バリーはエドの執務室の前の近衛に声をかけて中に入ろうとした。
「あの、バリー様。そちらの女性とお子様は?」
近衛が私と腕の中のシャルルを見て戸惑いがちに声をかけてきた。
「こちらはオルレアン侯爵様とその母君だ」
「オルレアン侯爵様?」
近衛が不思議そうにシャルルを見る。
「うーうー」
シャルルは手を伸ばしてその顔に触ろうとするのを私は止めた。
「そうだ。こちらのお子様がオルレアン侯爵様だ」
そう言うと、バリーがまた勅書を出そうとすので私は手で制した。
「バリー、それは良いわ。それよりもさっさとエドの所に行きましょう」
「判りました」
私達は毒気を抜かれた近衛騎士の横を服に手を伸ばそうとしたシャルルの手を押さえて通り抜けたのだ。
「シャルルちゃん、変なもの触っちゃだめよ。あの子らどんなばい菌を持っているかもわからないんだから」
私は小声で天使な息子に注意したのだ。
一方の近衛騎士たちの間では、私が子連れでエドの執務室に入ったので、シャルルが王太子の隠し子ではないかとの噂される事になるなんて思ってもいなかったのだ。
シャルルはわが夫シャルル様と私との間の子であって、エドなんかの汚らしい血は一滴も混じっていないのだ。本当に失礼しちゃうわ。
そして、エドの部屋に私が入った途端に、皆がギョッとしたのが判った。
ガシャーーーン
大きな音がして、お茶を出そうとしたカーティスがそのポットを落としてしまった。
当然あたり一面にガラス片とコーヒーが飛び散る。
エドなんて私を見た瞬間に、驚きのあまり椅子ごと後ろにこけてしまったんだけど、どういう事?
「ジャ、ジャンヌ、何しに来たのだ?」
地面から起き上がろうとして起き上がれずにエドが聞いて来た。
「あら、殿下、何を言われるんですか! シャルルが侯爵位を継承できた御礼に参ったのですわ」
私がさも当然のように言うと、
「何を言っている。カーティス、お前はジャンヌに礼に来るには及ばずと伝えなかったのか?」
エドがカーティスに小声で文句を言うのだが、地獄耳の私には丸聞こえだ。
「何をおっしゃっているのですか。私は殿下のおっしゃるように一言一句違わずお伝えしましたよ。『お子様が幼少のみぎり子育てに専念して王宮に参上せずとも良い』と」
「それがいけないのだ。参上せずとも好いではなくて来るなと何故はっきりと伝えん!」
「言いましたよ。来ないでくださいって」
「じゃあ、何でいるのだ?」
エドは何かムカつくことを言っているんだけど。
「殿下丸聞こえですわよ」
「ヒィィィィ」
私が近付くとエドは必死に後ずさって逃げようとするんだけど……
逃げられたら追いかけてみたくなるのが人間だ。
アリスからはドラゴンの主だと注意されたが……私は誰が何と言おうと人間だ。
面白がって、私はエドのズボンのすそを踏んでみた。
「ヒィィィィ」
更にエドは更に悲鳴を上げるんだけど。
ここまで怖れられる理由はないはずなんだけど……さすがの私も少し可哀そうになった。
ズボンが破けたら見たくもないものをもせられるかもしれないし……
私は手を差し出して
「や、止めろ、離せ!」
逃げようとするエドの手を強引に引くと椅子ごと起き上がらせたのだ。
「はい」
そして、手を離したら、
「離すな!」
今度は暴れたアドがそのまま頭から地面にいすごと突っ込んでいった。
「えっ?」
これは私の想定外だ。
暴れるからだ。
そのまま地面と激突してくれるんだけど……
「ジャンヌ、何をするのだ!」
怒り狂ってエドが立ち上がるんだけど……
私は知らないわよ。
「えっ、私は起こしてあげただけよ。手を放せって言うから離してあげただけじゃない」
私が文句を言うと。
「はああああ! どう見ても貴様は俺で遊んでいるだろう!」
エドの言葉にアリスまで頷くんだけど、何でよ! 私もそこまでひどくはないわよ。
さすがの私もむっとしたのだ。
「お取込み中申し訳ありません。陛下がお呼びです」
そこへいきなり王宮の侍従が現れたのだった。
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