第14話 側妃の眼の前に勅書を出して頭を下げさせました

「な、なんですって。あなた、もう一度言ってみなさいよ!」

女が叫んでくるけれど、私はそれどころではなかった。


シャルルは号泣していたのだ。

「ああん、シャルルちゃん。このおばさんが怖かったのね。大丈夫よ。お母様がついていますからね」

私は必死にシャルルをあやしたのだ。


「そこのお前、側妃様に対して無礼であろうが」

そんな私に近衛の騎士が飛んできたんだけど。


「煩いぞ。お前こそ、オルレアン侯爵様に無礼だろうが」

私の前にバリーが立ち塞がってくれたのだ。


「侯爵様? どこに侯爵様がいらっしゃるのだ? いるのは夫人と乳飲み子だろうが」

馬鹿にしたようにその近衛騎士が言ってくれた。


私はその言葉にむっとした。


「アリス、アレをバリーに渡して」

私はアリスに指示したのだ。


「判りました」

そう言うとアリスはカバンの中から陛下からの勅書の入った筒を取り出してバリーに渡したのだ。


「えっ、これは勅書では?」

バリーは慌てた。

「えっ、勅書?」

それを聞いた近衛騎士等も慌てるが……


「そうよ。バリー、近衛の皆さんはシャルル様が侯爵だと信じられないみたいだからそれを近衛騎士に見せて上げなさい」

「判りました」

バリーはその筒から取り出す。


「えっ、お前、このようなところ勅書なんて」

近衛達は慌てたんだけど、もう遅いわ。


「ええい、控えおろう」

バリーが勅書を広げたのだ。


「「はっ」」

近衛騎士達は慌てて、跪いたのだ。


目の前に勅書を広げられて頭を下げなくてよいのはそれを持っている人間だけだ。


女性も頭を下げることになっているのだ。


忌々しそうに見ていた側妃も慌てて頭を下げたのだ。

この空間だけ、皆の動きが止まる。


「シャルル・オルレアン、貴公をオルレアン侯爵に叙す。また、シャルルは幼少の砌、成人するまではその母ジャンヌをその代行とする」

バリーが読み上げたのだ。


「皆様。おわかりになりまして。こちらにおはすのが、オルレアン侯爵です。無礼の無いように」

私が一同を見渡していうと、近衛達は頭を下げるしか無かった。


なんとか、泣き止んだ。シャルルが周りをキョロキョロ見ている。


ふん、ざまあ、見たか!


私は睥睨してやったのだ。


「ちょっと、その乳飲み子が侯爵なのは判ったけれど、私は側妃なのよ。何故私が頭を下げないといけないのよ」

陛下の妾が何か言っている。


「何を言うの? 陛下の正妻の王妃様にはシャルル様も頭を下げさせて頂きますけれど、妾風情に頭を下げる謂れはないわ」

私は完全に見下してやったのだ。


「な、なんですって」

つっかかってこようとする妾を周りの侍女とかが必死に抑えている。


「何をしているのだ!」

そこに太った中年の親父がやってきた。


「誰、アレは?」

私がアリスに聞くと

「財務卿のナッツフォード伯爵です」

バリーが答えてくれた。

「ちなみに、側妃様の父親です」

そうか、道理でよく似ていると思った。


「お父さま。あの生意気な女が私に道を譲らないのよ。この側妃の私に」

側妃は父の財務卿に泣き込んだのだ。


「何だと。その女が譲らない理由は何だ」

財務卿は私を睨んできた。


ふんっ、来るなら来い。

「何、あれがオルレアン侯爵代行だと」

財務卿はムッとした顔をした。


「オレアン侯爵代行、確かに侯爵様はお偉いとは思うが、側妃様には道を譲られるのが筋ではないのですか」

この財務卿、怒鳴り散らしてくるかと思いきや、意外や意外冷静だ。

バリーもアリスも不安そうにこちらを見る。


「ああら、財務卿。国の規定に侯爵は側妃の下だとどこかに書かれていましたか?」

私が今度は逆に聞いてやったのだ。


「いや、それは無いが、ここは恒例的にはですな」

「恒例と言われますと、どこにそのような文章が載っているのです。王室典礼辞典にでも載っているのでしょうか」

財務卿に対して私は更に聞いた。


「いえ、そのような事は載っては……」


そう、載っているわけは無いのだ。

そもそも側妃などという役職は昔はなかったのだ。ここ何代かの国王の為に特別に設けられたのが側妃で、そもそも正式なものではないのだ。


非正規なものが文章に残っているわけはなかった。


「私は拝見したことも無いのですが、あれぱお教えいただきたいですわ」

私は鼻で笑ってやったのだ。


「ちっ」

思わず舌打ちして、忌々しそうに財務卿はこちらを見ると、

「失礼します」

そう言うと、


「えっ、お父さま。まだ話しがついては……」

「良いから来るんだ」

納得行かない娘を連れて財務卿は去っていったのだった。


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