第13話 王子にお礼参りしに行く途中で側妃に『妾風情は黙っていろ』と叫んでしまいました

そして、今、私は天使な息子をあやしている。


「天使な天使な息子ちゃん、可愛い」

私は抱き上げるとチュッとキスした。

「きゃっ、きゃっ」

天使な息子はその度に喜ぶのだ。

私は有頂天だった。


そして、そんな私を熱い視線で見てくる宰相の息子のバリーがいるんだけど……

こいつ、何故、ここにいるんだろう?

あれからしょっちゅう訪ねてくるようになったんだけど……

こいつはエドの側近ではないのか?


弟に尋ねても

「バリーは少し、おかしくなったんです」

残念そうに弟が言うんだけど。


私の雷撃はバリーには当たらなかったはずだ。

その衝撃で弾き飛んだかもしれないが……でも、それはエド等も皆同じなのに!


まあ、エド等はそれまでにチャンバラごっことかで頭を叩いたりしたことがあるから、慣れていたのかもしれない。その点、バリーは宰相の息子だっていうから今まで殴られたり叩かれたりしたことがないのかもしれない。大切に大切に育てられていたんだろう。だから急に弾き飛ばされて、頭をうっておかしくなった可能性はあった。


まあ、良い。天使な息子のシャルルの為には宰相の息子、将来は大臣くらいにはなる男が側に控えていてくれたほうが良いだろう!

シャルルの後見人としても使える? うーん、使えるのか?

そもそもこいつが馬鹿だったから宰相もエドにつけた可能性はあるし、私は悩んだ。


「いかがなさいました。お嬢様。なにかお悩みですか?」

アリスが聞いてきた。


「いや、アレのことを」

私が顎で指すと

「ああ、あのどうしようもないアレですね」

アリスは腐ったじゃがいもを見るみたいにバリーを見ているんだけど……

やっぱり使い物にならないからエドも放っておいているのね。


さっさと放り出そうと私は決意したのだ。


「『あれ』とは? 私のことですか? お呼びになられましたか?」

私に顎で指されたのを見て、喜んでバリーが飛んできたんだけど、本当にこいつは犬みたいだ。

御主人様から言いつけられるのを待って尻尾を振る犬だった。


「ちょっとエドの所に、侯爵位継承のお礼を言いに行こうと思って」

「判りました。私めがご案内させて頂きます」

犬は早速テキパキと準備を始めてくれたのだ。


少しは使えるかも……



馬車の中はバリーがいると暑苦しいので外の御者台に追いやっても、バリーは何も文句は言わなかった。


天使な息子のシャルルは馬車の中で少し騒いでいたが、私のおっぱいを飲んだら眠くなったのかそのまま寝てくれた。


すやすや眠るシャルルもとてもかわいい。本当に天使な息子だ。

私はギュッとシャルルを抱き締めた。




王宮の前に着くと、さっとバリーが馬車の扉を開けてくれた。


そのままエスコートしておろしてくれる。


王宮の入口もバリーのお陰で顔パスだった。


昔はいつも門番と一騒動あったのだが……

エドは冒険の後は絶対に二度と私を王宮の中にいれるなと命令していたのだ。

私にとってそんな命令どこ吹く風なのだが。

今日も門番は私を一瞬見て目を見開いたのだが、


「王太子殿下へのお客様だ」

バリーがそう言ってくれたらあっさり通してくれた。

命令に忠実にあろうとして、いつも最後には私に電撃を浴びせられる彼なんだけど。


いつもこれくらい私にも忠実だったら言うことないのに!

私も余分な手間がかからなくて楽だ。


今は寝ているシャルルを抱えているのだからなおさらだ。

騒動でシャルルが起きたら、門番にまた雷撃を浴びせないといけないところだった……



王宮の中もバリーの先導で誰からも咎められることなく歩けた。


というか、私の知り合いは私を見た途端に血相変えて逃げていくんだけど……


「何も逃げることはないのに!」

私が呟くと

「お嬢様に何かされるのを怖れたのではないですか」

ボソリとアリスが答えてくれるんだけど


「何言っているのよ。普通、人は目の前から逃げられると追いかけたくなるものなのよ」

そう言ったら、

「それは人じゃなくて犬や熊の間違いではないですか?」

アリスに指摘されたんだけど……


「私を熊なんて凶暴な獣にしないで欲しい」

ムッとして言うと

「そうですね。お嬢様はそんなやわなものではなくてドラゴン、それもドラゴンの主ですね」

更に酷いことを言ってくれるんだけど。


それに、今は天使な息子のシャルルを抱えているから追いかけたりしないわよ!

起きたらどうするのよ!


私がそう思った時だ。


「おい、お前、こちらは側妃様のお通りだ。何故横に避けない」

前から大声がした。


その声に反応してピクッとシャルルがしたのだ。


ええええ! せっかく寝ていたのに!

こちらをバリーが振り返ってきたけれど、それどころではない。


「よちよち」

私は再度シャルルを軽く揺すったのだ。

これで、また、寝てくれる。と安心した。

シャルルはいつもはご機嫌なのだが、昼寝を邪魔されるとぐずるのだ。


その間に横に私は横に退いてやったのだ。

この私がだ。


ここで揉めてシャルルが起きて泣き出すよりはましだ。

と私は思ったのだ。


私は必死にシャルルを再度寝かせようとしていたのだ。


「ちょっと、そこの貴方。何で私に頭を下げないの」

そこへ近衛に囲まれたいかめしそうな女が怒鳴りつけてきたのだ。


それで終わりだった。

「オギャーーーーオギャーーーー」

いきなりシャルルが泣き出したのだ。


私も完全に切れてしまった。王宮でなかったら雷撃していたところだった。


「ちょっとそこのあなたいい加減に……」

「煩いわね。妾風情が偉そうにしてるんじゃないわよ!」

私は大声で言い返していたのだ。

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