第10話 遅くなった王宮の使者が唖然とする伯母たちの前で天使な息子を跡継ぎに指名してくれました。

帰ってきた私を義理の伯父とその息子は喜んで迎えてくれたが、嫌味を言ってくるだろう義理の伯母はいなかったのだ。


後で帰ってきたが、どこに行っていたんだか。


まあ、伯父もそうだが、この叔母も遊んでいるみたいだから、男の所にても行っていたのだろうか?

嫌味を言ったら怒りで震えていたから多分そうだろう。


まあ、そんな事はどうでも良いけれど。


でも、エドからの返事は遅い。1週間もかかるなんてあり得ない。敬語で書いたのが間違いだったんだろうか? まあ、明日も来なかったら、王宮に乗り込もうかしらと考えてその日は寝た。



そして、翌日。

私がお昼を食べて息子におっぱいをやっている時だ。


「ジャンヌ様。た、大変でございます」

マイヤーが飛んできたのだ。


「どうしたの?」

私が聞くと

「王宮からの御使者でございます」

息せき切ってきたからかマイヤーが話してくれるまで少し時間がかかった。


「やっときたの?」

私は呆れて言った。


「ジャンヌ様がなにかされたのですか?」

鋭い視線でマイヤーは見てきた。


「別に何も」

私は首を振った。余計な詮索をさせると碌な事はないだろう。


私がご機嫌なシャルルを連れて応接に行くと伯母夫妻とその息子夫妻も揃っていた。


使者は私の幼馴染のカーティスだった。王太子のエドはさすがに来なかったらしい。まあ、王太子が普通は使者なんかやらないけれど、私の依頼なのに……

それも一週間もかかってくれて!

さすがの私も少しムッとした。


「これはこれは王宮の御使者様。今日はどのようなご要件ですか」

伯母が聞いていた。


「あなたは?」

「私はこの家のバーバラですわ」

カーティスのこの言い方にさすがの伯母もムツとしたみたいだった。

「この家のバーバラと言われますと」

カーティスが更に聞く。これはわざとかもしれない。カーティスも嫌味なやつなのだ。


「あなた、この侯爵家の長女の私を知らないの」

さすがに機嫌を損ねてバーバラが言う。


「ああ、コールマン子爵夫人ですな。バーバラ様はこの侯爵家から嫁に出て子爵夫人になったとお聞きしております。侯爵家のと言われたので、侯爵夫人がこの様にお年を召されたのかと一瞬驚きました」

カーティスの嫌味が炸裂した。


「な、なんですって」

バーバラが切れたが、

「まあ、バーバラ、御使者様の前だ。落ちつけ」

横から夫のブランドンが抑えた。


「しかし、あなた」

「大事の前の小事だ」

ブランドンはそう言うと

「で、御使者殿、この度はどのようなご要件かな」

「あなた様は?」

「私はシャルルの伯父でございます」

「なるほど、で、シャルル殿はどちらに?」

「はい?」

「だから、シャルル殿だ」

「シャルルは先日亡くなりましたが」

伯父はカーティスの問いに困惑したみたいだ。


「何を言っているのです。その亡くなった侯爵殿のお子様のシャルル殿です」

「えっ? ご使者殿はあんな乳飲み子に御用がおありで」

驚いて伯父が聞いた。


「こちらにいらっしゃいますよ」

私はシャルルを抱いて現れたのだ。


私を見た瞬間カーティスは嫌そうな顔をしたが、自分の用を思い出したみたいだった。


「では、皆様宜しいですか」

カーティスは一同を見渡した。


「一同お控えなされ」

カーティスの合図で、全員跪いた。


「うっうっ」

何故かシャルルはカーティスに手を伸ばそうとするんだけど、

「あんなばっちいもの触ってはいけませんよ」

私はシャルルに注意した。


カーティスが舌打ちしたのが聞こえたが私が睨みつけると慌てて巻物を広げた。


「シャルル・オルレアン、貴公をオルレアン侯爵に叙す。また、シャルルは幼少の砌、成人するまではその母ジャンヌをその代行とする」


「そんな」

「信じられん」

伯父夫婦とその息子夫婦が唖然としていた。


「ご使者殿、これは何かの間違いではござらんか?」

「さようでございます。このような乳飲み子に爵位を与えるなど」

四人が使者に詰め寄るが

「控えおろう! この紋所が目に入らぬか!」

カーティスが玉璽が押された所を指差したのだ。

「ははあ!」

四人は頭を下げるしかなかった。


「シャルル殿にこれを」

そう言うとカーティスは書類を私の方に差し出した。


「バブ」

私の腕の中の天使なシャルルはあっさりとカーティスからその書類を取り上げたのだ。

なんかとてもご満悦な様子だった。さすが未来の侯爵様は違う。

私は親ばか全開で皆に自慢したい気分だった。


「なお、ジャンヌは子育てが忙しいと思う故、子供が成人するまでは王宮に参上するに及ばずと陛下が思し召しでした」

カーティスが言ってくれたんだけど、王太子が画策したに違いない。絶対に私に会いたくないからそんな事を言ってくれたのだ。


「そういうわけにも参りません。早速にお礼に参上しなければ」

私が冗談で言ってあげたら、

「いや、絶対に来るなとのことだ」

必死にカーティスが言ってくれるんだけど。


本来ならば王宮なんて面倒で行きたくないのだが、人というものは来るなと言われれば行きたくなるものなのだ。王子が私と一緒に行きたくないと言ったから無理やりドラゴン退治に連れて行ったように……


これは絶対に近いうちに行かねばなるまいと私は心に決めたのだ。


そんなことを考えてご機嫌な私の横で伯父たちは怒りに震えていたのだった。

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