第9話 伯母視線2 甥の嫁を始末すると心に決めました

「ダニー、侯爵位の継承の件だけど」

私はベッドの中で昔の伯爵令息で、今は王宮の書記官をしているダニーに再度念押しをした。


「ああ、判っておりますとも。気にされなくてもゼロ歳児が爵位を継いだ前例などほとんどありません。心配されなくても、今は亡き侯爵様の叔父であるあなた様のご主人に降りる様に手配しております」

ダニーは私に頷いてくれたのだ。


「有難う、ダニー」

私はダニーにしなだれかかって微笑みかけたのだ。


「まあ、気にしなくても、その母親のジャンヌも今頃は商人のエイミスに抱かれているはずよ。本人が望もうと望まないとね。その息子も連れて行ったみたいだからゼロ歳児はエイミスの養子になるんじゃないかしら?」

そう言って私が笑うと、


「あの侯爵夫人をエイミスに抱かせたのですか?」

驚いたようにダニーは言った。


「だって、ブランドンに色目を使ったのよ。許せないわ」

私がむっとして言うと、


「こういう事とをしているあなたが、それを言われますか」

「何言っているのよダニー。それはあなたも一緒でしょ」

私達はじゃれあったのだ。




「これで私も侯爵夫人ね」

帰りの馬車の中で私はにたりと笑った。


伯爵家出身のあばずれ共に今まで散々コケにされたのだ。


その苦難の歴史もこれで終わりだ。


これからは私を馬鹿にしたやつらをじっくりと仕返ししてやらないと。


幸いなことに侯爵家の借金はジャンヌが体で払ってくれているはずだ。今頃は泣き叫んでいるだろうか? 自分の美貌を笠に着てわが夫や息子に粉をかけた報いを受けるのだ。あの金まみれで醜悪な老人に抱かれて泣いているかと思うと本当にいい気味だ。


まあ、パーサのように殺さなかれなかっただけましなのだ。感謝してほしいくらいだ。


時間があればまた、呼び出していびってやってもいいのかもしれない。


それを思うと楽しかった。


馬車の中で、私はこれまで私に対してむかついた事をしてくれた奴らをどうやって虐めてやるか、考えて楽ししんでいた。そうだ、お茶会を開いて呼び出してやるのもいいかもしれない。


私は一人でこの世の春を謳歌していたのだ。





そんな私は館に帰って驚いた。


「なんですって、ジャンヌが帰って来たですって!」

「はい。シャルル様と一緒に」

騎士団長のコルビルが馬車付き場で話してくれた。


私は慌てて歓談室に向かった。


歓談室では夫と息子に囲まれてジャンヌが私の席に座ってくつろいでいたのだ。


私はピキッと切れた。


「ジャンヌ、どうだったの?」

私が鋭く問い詰めると


「あら、伯母様、お帰りなさいませ。どちらに行かれていたのですか?」

何とジャンヌは私を迎えるために立ち上がりもせずに、鷹揚に質問してきたのだ。

この侯爵夫人になる私に対して……


私はちょっとむっとしたが、

「ちょっと買い物に行っていたのよ」

「ダーリントンにですか? ならば私もご一緒しましたのに」

「ダーリントンではないわ。カリストンよ」

「まあ、カリストンなんて遠くに行っておられたのですか?」

ジャンヌは驚いた顔をして私を見てきた。その目は何をしてきたんだと楽しそうに見てきた。

「バーバラ、カリストンなんて遠くに買い物など何を買って来たのだ」

夫が不審がって聞いて来た。

ジャンヌの奴、何を余計な事を聞いてくれたのだ。

私は更にむっとしたが、


「新しいブランドの店が出来たのよ。だから、見に行ってきたのよ」

笑って誤魔化した。


「あんな遠くまでか」

訝しげに夫が言うが、

「どうしても欲しいものがあったのよ。それよりも、エイミスの所はどうだったの?」

「それがだな。ジャンヌが交渉してくれて借金を帳消しにしてくれたそうなのだ」

夫が喜んで言ってくれたのだ。この夫は何を喜んでいるのだ?


「そう、じゃあ、あなたが、エイミスさんの後妻になることになったのね」

私は喜んで言ってやった。結局ジャンヌはエイミスに抱かれて帰って来たのだ。


「何をおっしゃっていらっしゃるのですか?」

不思議そうにジャンヌが聞いて来た。


「エイミスさんは新侯爵の就任祝いに借金を帳消しにしてくれるそうですわ」

「はい?」

私はジャンヌの言ったことが理解できなかった。

あの金に汚いエイミスがボランティアでそんな事をするわけは無いではないか。

この女は何をしたのだ?


「そうか、新侯爵の就任祝いにか」

愚かな夫は笑って聞いていたが、こいつは本当に馬鹿だ。私は呆れて見ていた。


「はい、私の息子シャルルの為にそうしてくれるそうです」

「「「えっ!」」」

その瞬間私達は絶句したのだ。


「ジャンヌさん。ゼロ歳児の爵位継承はなかなか難しいのではないのか」

驚いて夫が言った。

「継承するにしてもしかるべき後見人が後ろにつくと思うよ」

息子も話していた。


まあ、まさかゼロ歳児が継ぐことは無いと思うが、もしあったとしても夫が後見人にはなるはずだ。


「まあ、そうでしょうね。その時はよろしくお願いします」

ジャンヌは媚びを含んだ目で夫を見てくれたのだ。

おのれジャンヌめ!

何をしてくれるのだ。


あのくそ豚は何をしてくれたのだ! せっかくジャンヌをくれてやったのにそれを返してくるとはどういう事だ? 私は明日問い詰めてやろうと思ったのだ。


まあ、どのみち、ジャンヌがどうあがこうが、継承権はわが夫ブランドンが継ぐことになっている。

そうなった暁にはジャンヌを絶対に始末してやる。

私は心に決めたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る