第5話 商人の所に天使な息子連れで行ったけど厭らしい事したので殴り飛ばしました

私は早速部屋に戻って、シャルルと一緒に外出準備に入ったのだ。

当然アリスも行くので離れは誰もいなくなるが、取られるようなものもないし問題ないだろう。


御者のトムが私が子連れで来て驚いたようだが、まあ、別に問題はないはずだ。


この前、実家に帰った時に遠出したばかりと言えばばかりだが、その時はシャルルも「うー」とか「あー」とか言って喜んでくれるのだ。


「絶対にお嬢様の方が喜んでいると思いますけど。シャルルちゃんはお母さんが喜んでいるから一緒になって喜んでいるだけかと」

なんか外野が言っているが無視だ。

まあ、大叔母と伯母が傍にいないのでとても気分は楽なのは事実だけど……


あくまでも私はシャルルが喜ぶから連れてきたのだ。


途中のお花畑の前でキャッキャッ喜ぶシャルルも可愛かったし、眠くてぐずるシャルルも可愛かった。

今は私の胸の中ですやすや眠っているシャルルも超可愛かったのだ。シャルルは本当に天使な息子だ。


そうこうしているうちに馬車はこの辺りでは一番大きな町ダーリントンに着いた。

エイミスの屋敷は町はずれにあったが、大きな庭付きの屋敷で、貴族の屋敷とそん色はなかった。


でも、守っている者たちが目つきの悪い破落戸だった。


「なんか碌でもないところみたいですが」

アリスがぼそりと言ってくれた。


「本当ね。こんなのをのさばらせるなんて、この町の騎士団は何をしているのかしら」

私も頷いた。


本来ならば許さないところだが、結婚してからは出来る限り大人しくすることにしていたのだ。

そう、我慢だ我慢。


「ね、シャルルちゃん。お母さまは我慢しますからね」

私は寝ている我が子に小さい声で語りかけた。


「侯爵家のジャンヌ・オルレアン様です。この館の主人に用があるのですが」

「おう、聞いているぜ。ついてきな」

男の一人が私の前に立って案内してくれようとした。


「結構な別嬪じゃないか」

その後ろにいた男が下卑た笑いをした。


「何を言う失礼な」

破落戸にアリスが切れたが、

「アリス、良いのです。それよりも早く済ませましょう」

私は注意をした。


「姉ちゃんも別嬪だな」

男の言葉に思わずアリスが手を出しそうになるのを

「アリス!」

と注意する。


私達は屋敷の中に迎え入れられた。


「ギャッ」

後ろで破落戸の叫び声がした。

「な、何だ」

前を案内している男が慌てて言うが、

「何かに躓いたんじゃないですか」

私がアリスのフォローをしてあげた。

大方破落戸の足でも踏んだんだろう。


「覚えてろよ」

後ろから破落戸の愚痴が聞こえるが。


「威勢のいい姉ちゃんたちだな」

前を歩く男は呆れて言った。


言いたいことはいろいろあったが、取り合えず無視して私達はついて行った。


私達は豪勢な応接室に案内された。

余程儲けているらしく下手したら侯爵家の応接よりも立派だった。


机も椅子も金色なんだけど、下手したら机は本当に金かも知れない。


本当に成金趣味だ。


まあそれよりも、シャルルだ。シャルルは寝顔まで可愛い。

思わずほっぺをチョンとつついてみる。


「うーん、可愛い」

これをあんまりやると起きてしまうのだ。


シャルルが、少し首を振る。

つんつん、

「もう少し」

「おい」


ちょんとつつく。

今度はシャルルが手を動かした。


「おい、姉ちゃん!」

大きな声がした。


「おぎゃーーーー、おぎゃーーーー」

いきなりシャルルが泣き出したのだ。


「ちょっと、何起してくれているのよ」

「いや、あんたが、来たのに無視するから」

私が文句を言うと、目の前に商人と思しき男と先ほどの男がいたのだ。


「少しお待ちくださいね」

私はそういうと、シャルルを抱いて立ち上がった。


「さあ、シャルルちゃん、大丈夫でちゅよ! 目の前に怖いおじちゃんが来たんでちゅね! でも、もう大丈夫でちゅからね」

目の前の二人は唖然としているが、知った事じゃない。

コイツラが私のシャルルを起こすのが悪いのだ。


私は何とか、シャルルを泣き止ますとアリスに渡したのだ。


目の前の二人は呆れた顔をしていたが……


「で、何の御用でしたかしら」

「はああああ! 用があるって訪ねて来たのはそっちだろうが」

商人と思しき男が大声を上げた。



その瞬間だ。

「おぎゃーーーーおぎゃーーーー」

その大声でまた、シャルルが泣き出しのだ。

何をしてくれるのだ! この男は。

私はムッとして、また、シャルルが泣き止むまで、抱っこしなければならなかったのだ。


私はシャルルが泣き止むと、アリスに渡して私を案内してくれた男と一緒に外で待ってもらう事にした。


「しかし、お嬢様」

アリスは嫌がったが、

「用はさっさと終わらせるから、そちらの方と外で待ってもらっていて」

私はさっさと二人を追い出した。シャルルがいるといつまた泣き出すかしれない。私もこんな男と一緒にはいたくなかったが、さっさと終わらせよう。

まあ、シャルルの事は二人に任せておけば大丈夫だろう。


「ようこそいらしていただきましたな。夫人。いや、ジャンヌ様とお呼びした方がよろしいかな」

「どちらでも良いわ」

私としてはさっさと終わらせればそれでよい。


「で、ご要件とおっしゃるのは」

「侯爵家があなたに借金があると聞いたので、その返却をもう少しお待ち願えないかしら」

私は頼んだのだ。めったに人に頼んだことのない私が。


「それは困りましたな。侯爵夫人」

男はいかにも困ったという顔をしてくれた。


「これでも、あなたのお義父が亡くなった時から半年もお待ちしたのです。その時にお約束させて頂いた侯爵様もいきなりお亡くなりになって、私共としても困惑しているのです。私達も慈善事業で金貸しをしているのではありませんからな。お約束したことはお守り頂かないと」

そう言うと商人は笑ったのだ。


私は反吐がでそうだと思いながらも、

「そうといわれても無いものは無いですわ。なんとかもう少しお待ちいただけませんか?」

「それは困りましたな。侯爵夫人。お約束はお約束です。守ってもらえなければお役所に訴えねばなりません」

「そんな、それは困ります」

そうだ。天使な息子のシャルルが侯爵家は継ぐのに、訴えられたら傷がつくではないか。

それだけは阻止したかった。

私はもう少し我慢することにしたのだ。



「金は無い。訴えられるのも嫌だでは、子供の使いではないのですぞ」

でも、今度は男はどすをきかせた声で言ってきた。


私は怯えた顔をしてあげた。


「でも、私も鬼ではないのですよ。侯爵夫人」

そう言うと、男は私の横に座ってきたのだ。

一瞬殴りかかろうかと思ったが、息子のことを考えて我慢した。


「あなたさえ、私のものになって頂ければ」

そう言うと男はなんと私の足に手を伸ばしてきたのだ。


次の瞬間だった。私の我慢も限界を超えたのだ。


バシンっ


「なにすんのよ!」

私の叫び声とともに左アッパーが男の顔面を直撃、男は吹っ飛んでいったのだ。





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