第4話 叔母に商人の家に交渉に行くように言われました
「天使な天使なシャルルちゃん! あなたはどうしてそんなに天使なの?」
私はその日もシャルルをあやしていた。
その横で呆れてアリスが見ているんだけど……
そんなのは無視だ。
「あれっ? アリス! この白いのはひょっとして」
「歯だと思いますよ」
私の質問に冷めた声でアリスが答えてくれた。
「凄いわ! シャルルちゃん! 歯よ! 歯! 歯が生えてきたのよ!」
私は有頂天になった。
それをアリスが呆れたように見てくれるんだけど。
「アリスは冷たい!」
「だから、私は赤ちゃんが苦手だって言ってるでしょ」
冷めた声で言ってくるが、私がいないところではシャルルをめちゃ可愛がりしているのを私は知っている。
「普通は半年で生えてくるのに、この子ったら三ヶ月で生えて来たのよ。凄いわ、シャルルちゃん!。あなたは天才ね」
私はシャルルを抱き締めたのだ。
「歯が生えるの人によって違うんですよ。それだけで人より優れてるとは一概に言えないんですから」
アリスは冷静に答えているが、私は聞いていなかった。
「ジャンヌ様、奥様がお呼びです」
そこへノックが鳴って侍女長のマイヤーが入ってきた。
「ちょっとあなた、この屋敷の奥様はジャンヌ様でしょ」
ムッとしてアリスが食ってかかるが、
「アリス、そんなのどうでもいいわよ。それよりも何の用かしら」
私はアリスを抑えて言う。アリスを怒らせると碌なことはないのだ。
「さあ、判りかねます」
無愛想にマイヤーは答えた。
でも、折角シャルルをあやしているのにと思わないでもなかったが、
「お嬢様。何でしたら私が断ってきますけれど」
「いや、良いわ。あなたが行くと死人が出かねないから」
私はやむを得ずにシャルルをアリスに渡すとマイヤーについて行ったのだ。
「ジャンヌ様。あのアリスというメイドの生意気な態度はあなた様の教育が足りないのではないのではないですか」
歩きながらマイヤーは言ってくる。
「まあ、私からちゃんと言っておくから」
私はマイヤーには逆らわないようにしていた。
逆らってバーバラに告げ口された日にはまたお説教が長くなるのだ。
「奥様、連れてまいりました」
私が中に入るとそこには伯母のバーバラと大叔母のベッキーがいた。
また、嫌味の二重奏か? 私は警戒した。
「ジャンヌさん。あなたにぜひともやってほしいことがあるんだけど」
でも、バーバラは上機嫌だった。
「実は侯爵家では弟のヘクターの病気を治すために高価な薬を買っていたのよ。ヘクターの病に効く薬がなくて、中々難儀していた所に商人のエイミスさんからいい薬を紹介して頂いたのよ。ヘクターもその薬を飲むと症状が軽くなるととても喜んでいたわ。ただ、そのお薬はとても高くて、結構エイミスさんからお金を借りていたの。それがいきなりヘクターばかりか跡継ぎのシャルルも死んでしまったでしょう。エイミスさんは出来たら貸したお金をすぐに返して欲しいと言ってきたのよ」
バーバラは私を見てきた。
「急なことでそんな大金はすぐに用意できないと私達は驚き慌てたのよ」
話しを継いでバーバラが言った。
「でもね。エイミスさんが言うには連れ合いを無くして寂してくしていたから、あなたを後妻に迎えられるのならば、借金を帳消しにしても良いと言ってきたのよ。あなたもまだ若いし、こんな所でこのまま未亡人として過ごすのもあれでしょ。エイミスさんは大金持ちだし、これはいい縁かなと思つたんだけど」
「そうよ。ジャンヌ。今回はあなたでも侯爵家の役に立てると思うの。ぜひとも侯爵家の為に役に立ってくれないかしら」
大叔母まで言うんだけど。
エイミスって年いったガマガエルみたいな体型の男だ。
それと私を連れ添わすなんてとても滑稽なことだった。
アリスが聞いたらいきなり暴れ出しかねない話しだった。
本当に連れてこないで良かった。私はホツとしたのだ。
「先方はシャルル連れでも全然問題ないと言っているのよ。あなたもシャルルと一緒なら問題ないでしょう」
「本当にエイミスさんは親切だわ」
私が考えているうちに何か二人で言ってくれているんだけど。
「判りました。借金をもう少し待ってもらえないかマイヤーさんと私が交渉してみます」
「あなた、何言っているのよ。マイヤーさんは親切で言ってくれているのよ」
私の言葉に大叔母が怒り出したが、
「まあまあ、大叔母様。まずは二人で話し合うのも良いと思いますわ」
バーバラが珍しく止めてくれたのだ。何か良からぬことを企んでいるのかもしれないが。
「でも、バーバラ」
「二人で話したこともほとんどないはずです。二人で話せばそこに愛が生まれるかもしれませんから」
バーバラーの話しを右から左に流して
「こちらに呼んで頂きます?」
私が言うと
「ジャンヌさん。あちらには待っていただいているんだから、交渉するなら向こうに行くべきよ」
バーバラがとても面倒なことを言ってくれるんだけど。
まあ、たまにはシャルルを連れて遠出するのも良いかも。
と私は思ってしまったのだ。
私は完全に遊びに行く気満々だったのだ。
そこにどす黒い陰謀が張り巡らされているなんて思ってもいなかったのだ。
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