若侍と三毛猫

「こっちの三毛猫の特技を教えてはくれまいか?」


 箱の中を覗き込んでいたのは、まげを結った若侍わかざむらいであった。

 年の頃は二十半ば、気の弱そうな優男やさおとこが、どこか疲れたような顔をしていた。

 着物はノリもきいておらず、足袋のつま先も薄汚れている。

 さっきの子供とのやり取りを見ていたのだろう。


「その三毛子はさ、が得意なんだよ。疲れた体をほぐしてくれるんだ。その小さな足で、ふみふみとね? さぞ心地よくて癒されるんだろうさ。どんな腰の病も、たちまち直してきた凄腕の猫だよ。お前さまの母上の腰もほぐしてくれるだろうさ」

「な、なんで、拙宅のことを知って」

「母一人、子一人、なんだろ? 亡くなった父親の後を継いで、仕官したお前さまを大事に育ててくれた母上だ。さぞや、心配なことだねえ? まあ、この子に揉ませて、あとは粥でも食わせてやりな? すぐに良くなるはずさ」


 まるでお見通しだと目を丸くして驚いた若侍は、おずおずと三毛猫を抱き上げた。

 ここ二週間ほど寝たきりで、医者に見せても良くならなかった母の腰。

 猫一匹で良くなるなら、お安い御用だ。

 

「先にお代を差し上げたい」

「さっきの子供とのやり取り聞いてたら、わかるだろ。お代は後だよ。三日経っても、母上が寝床から起きれなかったら返しにおいで、いいね?」

「この子の名前は、なんて呼んだら良いか?」

「好きに呼べばいいさ、ミケでも、なんでも」

「じゃあ、ミケにしよう。な? ミケ」


 きりっとした面持ちで老婆に頭を下げる侍は、懐のミケには笑顔で話しかける。

 その様子に、老婆はホッと胸を撫でおろし見送った。

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